私だけの特別な
三人がお風呂を上がった後に
私は一人で入浴する
子供じゃないから寂しいとは思わないが
主くんと入る二人を羨ましいとは思う
「…あぁ…気持ちが良いね…」
不思議な事に身体の感覚が戻った
あれほど鈍かったというのに、今や
ほぼ人間と同じにまで回復している
だから以前のように
思い切り飛びつかないでね、と
ドラには言い聞かせた
再会した時のように
抱き着かれ、壁に衝突してしまえば
おそらく無事とはいかないはずだ
最近、どうしようもない悩みがある
私は主くんと眠れないとしても
我慢できない事はない
私を受け入れてくれたという
確固たる事実があるから耐えられる
でも、もう一人の私が
つまりドライアドが
寂しくてしょうがないと嘆いている
「…そう、無理を言うんじゃない…」
ドライアドもあの子が好きなんだろう
最初、彼女が育ててきた植物の一つ、
そのくらいの思いで愛でていたはず
でも、私の影響で恋心に変わってしまった
きっとその感情を知るのも初めてで
色々辛い思いをさせてしまっている
もし、ドライアドが身体を動かせるなら
主くんを襲っている程度には
限界がきている
ドライアドを慰めつつお風呂を上がる
広間に戻ると三人が話していたが
私に気付き、二人は二階に上がっていった
「おかえりフローラ
お水飲む?」
「ああ、貰おうかな」
好きな水を主くんから手渡しされると
ドライアドは嬉しそうな反応を見せる
「ドライアドが喜んでいるよ」
「ほんと?
ねぇ、ドライアドは話ができるの?」
「できるよ
最近は煩くて敵わないんだ」
今度はそんなことを言うなと怒っている
でも実際、今も煩いから仕方がない
「なんて言ってる?」
「主くんが好きだって」
「ありがとう、僕も好きだよ
…ドライアドもフローラって呼べばいいのかな?」
「ドライアドの呼び名?
考えた事なかったね」
ずっと一心同体だと思ってきた
でも、最近は互いに意思が独立しつつあり、
一心とは言い難くなってきた気がする
だから、名前を決めてもいいかもしれない
名前があったのかと聞いてみたが
特にないそうだ
けど、個別に呼ばれる事に興味はあるらしい
「主くんが決めてくれないか?」
「いいよ、ちょっと待ってね…
…ドライアド…ド…ラ…イア…」
悩んでる姿を微笑ましい
姿なきドライアドに対して
真摯な態度に好感が持てた
「…ライアでどうかな?」
「ライアか
とても良い名前だと思うよ」
ピンと来てないドライアドに
お前の事だぞと教えてあげた
やがて自分の名前を理解したライアは
すぐに抱き着いて欲しいと騒ぎ出した
主くんに抱き着いて
私からお願いをした
「キスは、どっちにしてるかわからないから…
…それぞれ名前を呼んで、二回してくれないか…」
「フローラと、ライアに?」
「…そう…」
「わかった
それじゃ、まずはフローラ…」
いつも二人で愛を分け合う気分だった
でも個別に名前が付いて
私の名を呼ばれてされるキスは
私だけのものだ
「…後、ライアにも…」
ライアも同じ事を感じている
自分だけのキスは特別で
今、きっと初めて満たされているだろう
惜しみながら抱き合うのを終わりにした
本当なら一晩中抱き合っていたいが
そろそろ、あの二人に返さなければならない
「沢山我儘を聞いてくれて、ありがとう」
「こんなの我儘に入らないよ
何かして欲しい事があったら言ってね」
「…うん…
…それじゃ、先に二階に行ってて」
「フローラは?」
「歯を磨いたらすぐ行くよ」
「待ってるから一緒に行こう」
「…ああ、そうだね…」
こんなにも私を思ってくれるのに
私より好きな子が二人いる
その事実は少し切なくて
重く、心にのしかかった
こういう時、ライアが居てくれてよかったと
心からそう思った
…。




