三つの提案
彼女は食べては寝て、寝ては食べてを繰り返していた。
起きている時間もほとんど動かす、布団に包まっている。
そうして三日が過ぎた頃、僕達はフローラに呼ばれた。
「話があるんだ」
「なんじゃ?」
「この子も此処で、正式に一緒に暮らさせてあげて欲しい」
「大樹にじゃ?ん~…」
ドーラは僕とリーフに視線を向ける。
僕は友達が増えるならいいと思ったけど、リーフは少しだけ難色を示した。
「…その前に、なんであんなところで暮らしていたか聞いても?」
「この子はね、一族から逃げてきたんだ」
「逃げたじゃ?」
「この子は土竜の一族だ。
土竜達は本来、大人でもリーフよりずっとずっと小さい。
小さい代わりに身体が強靭で穴も掘れる、はずなんだけど…」
「リーフよりじゃ?魔女くらい大きかったのじゃ」
「時々、身体が大きくて力の弱い子が生まれてしまうんだって。
そういう子はほとんどが小さい頃に追い出される。
この子は幸運な事に追い出されなかったけど、可哀想な子なんだ」
フローラは既に生い立ちを聞いていたようで、すらすらと話し出した。
土竜族は家族の中で一番年上の指示に従うのが決まりらしく、
ずっと、祖母が守ってくれていた。
だが、祖母が亡くなると次は父親が全てを決めるようになった。
そこから、全てが変わってしまう。
「食事もロクに貰えず、兄弟からの当たりも強かったらしい。
だから、逃げ出したんだって」
「それで、あんな洞穴にいたんです?」
「この森の傍なら誰も来ないと思ったんだって」
聞いているだけで胸が痛い。
家族というのはもっと温かいものだと思っていた。
なんとかしてあげたい。でも、僕の一存では決められない。
「ドーラ。可哀想だよ…」
「そうじゃなぁ…」
「もしダメなら、私は一緒に出て行くよ」
「…そんなっ!」
僕からもドーラに頼もうとした時、フローラがそんなことを言い出した。
慌てて引き留めようとする僕より早く、リーフが前に出た。
そして口を開いたリーフの声色には、怒りが混じっていた。
「魔女さん、本気なんですか?」
「ああ」
「貴方に主さんを好きだと言う資格は無いです。
確かに可哀想で同情するのもわかります。
でも、その子の事を考えるあまり、主さんの気持ち忘れてませんか?
この子と主さん、どっちが大事ですか?
そんな覚悟なら私は貴方を認めなかったです」
「…そうだね、すまない…」
「謝る相手、違うんじゃないですか?」
僕の前からリーフが移動し、フローラと目が合った。
フローラは弱弱しく立ち上がり、
その目に涙を滲ませながら、僕に抱き着く。
「…ごめんね主くん…ひどい事を言ったね…」
「ううん、泣かないでフローラ。
…でも、何処にも行かないで」
「…ああ…ごめん…」
久々にフローラの匂いに包まれた。
そういえばここ数日、抱き合っても無いしキスもしてない。
それを思い出し、口を近づけるとフローラが少し戸惑った。
「…まだ、君を好きでいい…?」
「いいよ。でも後でリーフに謝った方がいいかも」
「…ふふ…そうだね…」
泣きながら笑うフローラとキスをした。
とにかく、フローラが出て行く事にならなくてよかった。
後で僕もリーフにお礼を伝えよう。
しばらくして、落ち着いたフローラはリーフに深く頭を下げた。
「勝手な事を言ってすまなかった。
まだ主くんに好きと言っても、いいだろうか…」
「…まぁ、今回は主さんがいいなら許しますけど…。
次に主さんを悲しませたらお嫁さん失格にしますよ」
「…それは困るね…気を付けるよ…」
強気なリーフと珍しく弱腰のフローラ。
意外な上下関係が見えて、ドーラも感嘆の声を上げる。
「…リーフは流石じゃなぁ。
わしはなんとなく魔女に強く言えないのじゃ…」
「甘やかしちゃダメですよ?
まぁ、この子の境遇は確かに可哀想ですけど…。
…それで、どうします?」
「わしはどっちでも構わないのじゃ。
なんなら、リーフが決めてくれてもよいのじゃ」
「ん~、そうですね~…」
彼女は僕達が話してる間も布団に潜り続けている。
リーフは手前にしゃがみ、声を掛けた。
「貴方はどうしたいんですか?」
「…。」
「布団、取りますよ?」
リーフはゆっくりと彼女が被っている布団をどかした。
久々に見た彼女は、ずっと下を向いて俯いている。
だけど、意外にも彼女から口を開いた。
「…私のせいでごめんなさいなの…」
「いいえ、あれは魔女さんが悪いんです。
貴方に三つの提案をしますから、選んでください」
久々に聞いた彼女の第一声は謝罪だった。
彼女は一度だけリーフを見て、小さく頷いた
「一つ目は、あの洞穴に戻してあげます。
それに少しだけ、森の生き方を教えてもあげます」
「…。」
「二つ目は私が街まで送ってあげます。
知り合いに頼んで、仕事も紹介してあげます」
「…。」
一つ目の提案は動かなかった。
だけど二つ目を聞いた後は首を振った。
ちゃんと考えて意思表示をしてくれた。
「意思表明は大事です。いい子ですね。
三つめは、さっきも言いましたけど此処で一緒に暮らす事です。
ただし、条件があります」
「…条件…?」
「一番肝心なのは…ドーラさん、ちょっと来てください」
呼ばれたドーラが彼女に近づき、目の前でしゃがむ。
また彼女はチラっと顔を上げ、すぐに視線を下に向ける。
「ドーラさんがこの森のドラゴンです」
その言葉にもう一度、彼女が顔を上げた。
今度はじっくりと、
少し驚いたような表情で、ドーラの身体を確かめるように見た。
「怖いですか?」
「…。」
ふるふると、首を横に振った。
その後、色々とリーフが条件を言っていたが、
その度に小さく、何度も頷いているのが見えた。
…。




