泣き虫な女の子
しばらく服についた汚れを落とし続けたけど、
あまり綺麗にしてあげる事はできなかった。
それに、よく見れば髪や身体にも泥が付いていて、
これはお風呂で洗うしかないと思った。
「フローラ。この子、お風呂に入れてあげようよ」
「そのつもりだよ。
さぁ、家に入って身体を洗おう」
「…でも…」
「大人しく言う事を聞いてくれたら"それ"を綺麗にしてあげる」
「…。」
彼女は布で巻かれた何かを大事そうに抱えていた。
自分の服よりよほど綺麗な布を巻いているので、
きっと大事にしてる物が入ってる。
その中身をフローラは知っているみたいだった。
彼女は少し考える素振りを見せたが、フローラの提案を受け入れた。
大人しくなった彼女を連れ、大樹に入った。
僕はテーブルでお茶を飲んでる二人と一緒になって、フローラ達を見送った。
「…で、あれは何者じゃ?」
「私もまだ話してないからわからないんですよね。
何も無い洞穴で暮らしてたみたいで、倒れてたんです」
「主は何か聞いたじゃ?」
「ううん。でもすごい痩せてた」
「ですよね?ピーちゃんに乗せた時も背のわりにすごく軽くて…」
その後、リーフが見てきた事を詳しく教えてくれた。
遠くの山の麓の洞穴で倒れていた彼女。
中を少し覗いた感じ、
その辺の葉っぱを集めただけの寝床以外、何もなかったそうだ。
「持ち物もあの抱えている布だけでした。
フローラさんが中身を確認して、持っていこうって…。
それに食事の跡も焚火の跡も無かったから、どうやって過ごしてたのか…」
「なんだか悲惨じゃなぁ…」
それは僕にも有りえた未来かもしれないと思った。
だからなのか、何かしてあげたい気持ちになる。
しばらくして、フローラと一緒に彼女が戻ってきた。
フローラの服を着て、頭から大きなタオルを被っている。
なんとなく、怯えているようにも見えた。
「主くん。悪いけど布団を持ってきてくれるかな?」
「いいよ。何枚?」
「二枚」
「わしも行くのじゃ」
ドーラと一緒に寝室に移動し、布団を持ってきた。
フローラはそのうち一枚を床に敷き、もう一枚は彼女に被せた。
「主くん。パンをくれるかな?なるべく沢山」
「うん、わかった」
今日焼いたばかりのパンの半分くらいフローラの元に持っていく。
ついでに水も運ぶと気が利くねと褒められた。
その大量のパンを何に使うのかと思ったら、
そのすべてを彼女の前に置いた。
「ほら、好きなだけ食べなさい」
「…要らないの…」
「"それ"、綺麗にしないよ?」
「…。」
「いいから食べなさい」
再び、フローラは彼女の抱えている布に指を差してそう言った。
彼女はまた迷いながら、それでもやっとパンを齧った。
一口齧ると彼女はすぐに泣き出してしまった。
パンに齧りついたまま泣くから呻くような声だった
それでも、一つ食べると止まらなくなったのか、
次から次へとパンを口に運び、あっという間に全てを食べ切った。
「おかわりは要る?」
「…。」
「そうか。水を飲んだら横になって眠りなさい」
「…。」
彼女は言われた通りに水を飲み、布団を被ったまま横になった。
できるだけ小さく身体を丸めて、震えているようだ。
まだ泣いているのかもしれない。
しかし、疲れていたのだろう。
ほどなくして、彼女は眠ったようだった。
「…パン、ありがとうね主くん。
せっかく作ってくれたのに、ごめんね」
「役に立ったなら嬉しいよ。
フローラも食べるなら持ってくるよ」
「私はさっき貰った一個で十分。
後は、皆で自由に過ごしておいで」
誰しも彼女の事が気になった。
でも起こさないように、僕達は外で過ごす事にした。
夜鳥が現れるまでハーブ摘み、頃合いを見て大樹に戻る。
彼女はまだ眠っているのか、布団の中で丸まったままだ。
様子が気になって近づいてみたけど、フローラが手で制止した。
「あと少し、そっとしておいてね」
「うん、わかった」
僕がそう返事するとフローラは笑い、静かに目を閉じた。
とりあえず、僕とドーラが食事の準備を始め、
暇になったリーフが先にお風呂を済ませた。
途中、彼女が目を覚ました。
フローラが布団を少しだけ捲って話しかけていた。
でも此処まで声は届かず、会話の内容はわからない。
しばらくしてスープも完成し、再度フローラの元へ行く。
「その子の分も作ったんだけど…食べるよね?」
「助かるよ主くん。ありがとう。
でも、後で食べるから鍋のまま残してくれるかな?
洗い物はやっておくから」
「わかった。とっとくね」
僕が返事をすると、もぞもぞと彼女が動いて布団が少しだけ浮いた。
もしかして出てくるのかと思ったけど、違った。
「…。…がとぅ…」
「どういたしまして。またパンも食べてね」
すぐに布団の隙間は無くなった。
声は小さかったけど、多分ありがとうと言ってくれた。
その日は僕達だけで少し静かに食事をして、早めに寝室に向かう。
残念な事にフローラと過ごす時間は無かった。
翌朝、起きて広間に行くと昨日作ったスープは無かった。
そういえばフローラが二階に来た気配がしなかったけど、
眠っていないのだろうか。
「おはようフローラ。眠らなかったの?」
「おはよう主くん。
この子を一人にするわけにはいかないからね。
でも、此処で眠ったから大丈夫だよ」
「そっか。ねぇ、君もおはよう」
「…。」
昨日と違い、声は聞こえなかった。
でも、再び布団の隙間を開けてくれたから多分何か言ってくれた。
そして今日も五人分の食事を作ってから僕達だけで食事をし、
彼女が食べやすいように家を空けようと丘に向かう事にした。
…。




