覚えていて欲しい事
私だって魔女に文句を言いたかった
けど、龍人が怒りに満ちた顔をしてたから
譲るしかなかった
怒った龍人は恐ろしい
その反面、味方になると心強いものだ
龍人が魔女を連れて何処かに向かい、
必然的に彼を慰める役目になった
「…元気、出してください主さん…」
そっと腕を広げる
すると彼は泣きそうな顔をして
力一杯抱き着いてきた
「…きっと、何か理由があるんですよ…」
実際、どういう理由があるのか知らないけど
彼を避けている雰囲気はしていた
今頃、きっと龍人がそれを聞き出しているはずだ
内容までは聞き取れないが、
怒号めいた声が少し聞こえてくる
彼はその度に私を強く抱き着いた
少し静かになったところで
彼の頬を両手で触る
私をまっすぐに見るようにして、
私の思いを伝えた
「…何があっても…
…私だけはずっと傍に居ますよ…」
この先、何があったとしても
仮に龍人さえ貴方を見放したとしても
ずっと私が傍に居続けるから
絶対に一人ぼっちにはならない
だから、それだけは覚えていて
彼の力が抜けてきた
それに少し顔色も回復したように見える
「…落ち着けましたか?」
「…ありがとう…
…すごく安心できた…」
少しの間見つめあった後、
彼の方からキスをしてきた
向こうから積極的に求めてくるのは
珍しくて、とてもドキドキする
良い雰囲気だな
このまま二人で出掛けちゃおうかな
なんて考えていると
玄関の扉が勢いよく開いた
大きな音を立てて開いた玄関には
龍人ではなく、魔女が立っていた
彼女にしては珍しく慌てている
急いで彼の元に駆け寄って跪き、そして謝った
その様子を
後からやってきた龍人と見守った
「急にどうしたんです?
あの態度の変わりようは…」
「…まぁ、色々あったんじゃがその前に…
…リーフに謝らねばならんのじゃ…」
「なんです?」
「…魔女も、つがいにしてしまったのじゃ…」
「…まぁでも、遅かれ早かれ
そうなってましたよ、きっと…」
お嫁さんになるか、
または何処かに消え去るか
どっちに転ぶかはわからなかったけど
キスだけの半端な関係は
続かないだろうなと思っていた
まぁ、それはそれとして
「ちゃんと三番目だよって言いました?」
「ちゃんと言ったのじゃ」
「ふぅ…
なら、主さんも嬉しそうですから
許してあげますか…」
魔女を待っている間、簡単にだけど
龍人が話してきた内容を教えてもらった
話し終えた魔女と彼がやってきた
また二人で出掛けてしまうのかと
先程の龍人との会話を思い出す
「リーフにお礼を言わないとね
主くんを慰めてくれてありがとう」
「当たり前です!
私もお嫁さんなんですから」
龍人を見れば
あっちは彼がお礼を伝えているところだった
魔女を説得できた功績は大きいはず
やっぱり、私が文句を言えばよかった
「…いいや、主くんを救ったのはリーフだよ」
「え?」
私の考えを見透かした魔女は
少し小声でそう言ってきた
「…本当は私が出掛けようと思ってたけど
今はリーフと過ごしたいだろうから
…仕方ないけど、君に譲るよ…」
「…いいんですか?
デートの続きがしたいって…」
「…嫌かい?なら私が…」
「嫌なわけないでしょ!
…主さーん!」
善は急げだ
私が彼を誘うとすぐに頷いてくれた
龍人は抜け駆けだと少し不満そうだったけど
それも魔女が諫めてくれた
そうして今、彼と森の中を歩いている
元気になった彼と手を繋いで
森を散策するのはとても気分が良い
「よかったですね
魔女さん、また一緒に出掛けて欲しいって…
そう言ってましたよ」
「そうだね
でも、フローラも悩んでたんだね…」
よく考えれば魔女の態度も仕方ない
普通なら彼と結ばれる事は決してない
なのにキスをするようになり、
彼も好意を見せてくれるなら
多少、不安定な状態になるのも頷ける
「でも、魔女さんを
私より好きになっちゃ嫌ですよ?」
「…フローラは二人とは違う特別な感じがする
でも、リーフの方が好きだよ
…さっきは、本当にありがとう…」
私に嘘は通じないと知っている
だから言葉にしてくれると安心できる
特別というのは
母とか同族とか、きっとそういうのだろう
「…ドーラさんより、
好きになってくれても、いいですよ?」
「あはは
それはドーラの方が好き」
「…もう!
…でも、今はそれでいいです!」
実際、私の方が好きになったら
龍人の反応が怖すぎる
だから、今の二番目が一番平和だ
でもいつか
本当に彼の一番になれたら
それも素敵だなと思っている
…。




