行商の父
ライアと名前を付け、一緒に過ごす時間が出来た。
あれから生活は大きくは変わらず、ただ平和に毎日が過ぎる。
「主、今日はわしじゃ」
「そうだね。それじゃ行こうか」
それでも変わった事がある。
朝食後、二人きりで散歩に行くようになった。
フローラと毎日二人きりになるのだから、自分達も時間が欲しいと、
ドーラとリーフが二人で決めた事だった。
毎日交代で、明日はリーフと行く。
短い時間だが、二人で過ごす時間は確かに特別に思える。
「こうして二人で森を歩くと出会った頃みたいじゃ」
「懐かしいね。あの頃も楽しかった」
「わしは主がわしのものになった今の方が好きじゃ」
「あはは、それは僕もだよ」
あの頃、自分の事で不安を抱えたままだったけど、毎日が新鮮だった。
ドーラの反応全てが気になって、ずっとドキドキしてた。
それを思い出しながら立ち止まり、ドーラを抱き寄せた。
あの頃も楽しかったけど、
こんな事が出来る今の方が、ずっといいに決まってる。
最後にキスをして、皆が待つ大樹に戻った。
「ただいまじゃ」
「おかえり。お茶を飲んで一息ついたら始めようか」
散歩が終わり、それから足りないものを集めに行くのがいつもの決まり。
四人で暮らすようになって、薪や木の実の減りが増えた。
でも集まるのも格段に早くなっている。
それ以外の時間はフローラだけ別行動だった。
ドーラとリーフは僕と一緒に丘や湖に出掛けてお昼寝をけど、
フローラだけは大樹に残り、一人で何かをしている事が多い。
「ねぇ、たまにはフローラも行かない?」
「行っても主くんの隣は埋まっているからね。
それに今は君の服を縫うのが楽しいんだ」
「僕の服?」
「私のお古は少し大きいだろう?
新しくぴったりな服を作ろうと思ってね。
だから、もう少し自由にさせてほしいんだ」
「わかった。楽しみにしてるね」
そこまで言われたら無理に付き合わせるのも悪い。
ドーラとリーフを連れて、湖に出掛ける事にした。
その途中、ドーラが小さくぼやく。
「魔女は裁縫が出来てずるいのじゃ」
「私も商品を小分けにする為の袋とかよく作りますから、教えましょうか?」
「…いや、昔に教えて貰ったんじゃけど、わしには合わなかったのじゃ」
「そうなんだ。…僕も教えて貰おうかな?」
「主は少し不器用だから、きっと出来ないのじゃ」
「あはは、そうかも」
自分が不器用な事はなんとなくわかっていた。
でもドーラにも出来ないことがあるなんて思わなかった。
「ドーラにも苦手な事があったんだね」
「…苦手だと嫌いになるじゃ?」
「そんなわけないよ。少し新鮮だっただけ。
出来る事も出来ないことも、もっとドーラの事が知りたい」
湖に着いてからも話は続き、木陰に座ってドーラに苦手な事を聞いた。
けど、裁縫以外に思い当たる事は無いそうだ。
「リーフは何か苦手なものあるじゃ?」
「苦手な事ですか?そうですね~…。
…昔はこうしてのんびりすることが苦手でしたね」
「そういえば最近は一人で散策に行かないんじゃな」
「え?それはだって…えへへ…」
リーフはそう言って僕に寄り添った。
散策より僕を選んでくれているなら嬉しい限りだ。
その後は水辺で少し遊び、お昼寝をした。
そして日暮れ前にフローラの待つ大樹に帰る。
帰宅後、リーフがこんなことを言い出した
「二つのベッドをくっつけませんか?」
「なんでじゃ?」
「私がそっちにお邪魔する時、少し狭くないです?
それに魔女さん一人にするの可哀想じゃないですか」
「まぁ別に構わないのじゃ。今からするじゃ?」
急遽ベッドをくっつける事になり、急いで寝室に向かった。
ついでに掃除をするからとフローラもバケツを持って付いてきた。
「また水拭きじゃ?魔女も好きじゃなぁ」
「せっかくベッドを動かすんだからいいじゃないか。
ほら、夜が来るまで時間がないから手伝って」
皆で協力してベッドを動かすと下からドーラの鱗が何枚か見つかった。
それをリーフが回収し、一斉に掃除を始める。
「魔女さん。このベッド何処から持ってきたんですか?」
「家具はほとんどリーフのお父さんに頼んだよ」
「ですよね?古いですけど、うちの里で作ってる物と似てるなって」
「懐かしいね。
危険な場所への配達だからと、かなりの金額を吹っ掛けられた」
掃除をしながら、フローラは当時の思い出話をしてくれた。
森人の里は此処からそれなりに離れている。
普段、この辺りまで来ることは滅多にないそうだけど、
ドラゴンが現れたという事で数名が調査に来たこともあるそうだ。
「まだドーラの母親も居る時に来たんだろうね。
ドラゴンが二匹も出る森として有名になってたよ」
「そんな危ない場所なのにお父さんが営業に来たんです?」
「いや、それは私が里まで歩いて頼みに行ったんだ。
眠らずに歩くからそんなに掛からなかった」
フローラは森人の里に着き、運んでくれそうな人物を探した。
それがリーフの父親だった。
「もちろん最初は断られたよ。
だからドラゴンを見かけたらすぐ逃げていいと言う条件で頼んだんだ」
品物の代金の他、危険手当や配送料金、
それに前金と成功報酬の追加。
さらに急いで逃げて商品が破損しても責任は取らない。
他にも色々な条件を出されたそうだ。
「だから此方も条件を出して、近づいたら合図してくれって言ったんだ。
そうすれば私以外に誰も現れないからって」
「ああ、木を叩いて合図する奴ですね?」
「そうそう。音が聞こえた時はドーラを隠して対応したんだ」
そして無事に一回目の取引が終わるとリーフの父親は味を占めた。
そこからあれやこれやと営業を掛けてきたそうだ。
「当時は私も結構お金を集めてたんだけど、全部取られた」
「…なんて言っていいのかわからないんですけど…」
「なに、気にする事は無いよ。
頼めば何でも用意してくれたし、感謝してる。
それに、なんとなく取っておいたドーラの鱗でいいって言ってくれたんだ」
それから何度も取引を行った後、
小さくなったドーラの存在を打ち明けたという。
ただ、教えただけで見せては無いそうだ。
「それにしてもリーフは勇気があるね。
この場所に代わりにくるなんて、怖くなかったのかい?」
「怖かったですけど、お父さんに負けたくないって気持ちもありましたからね。
それに、結果的に主さんにも出会えましたし…。
無理を言って、お父さんと代わってよかったです!」
「確かにそうだね。
おかげで主くんもドラゴンにならずに済む」
「それ、結局キスするのは私達二人で平気なんですかね?」
「ライアとかなり意思疎通が取れるようになって詳しく聞けたよ。
毎日キスしてれば、種族が変わるほどの変化はしないそうだ。
まぁ、もしかしたら鱗くらい生えるかもしれないけど…。
それが嫌ならあと一人探さないとだね」
「ドーラさんどうします?あと一人、探します?」
「鱗が生えるのもメスを探すのも、どっちも嫌じゃ」
「まぁ、時間に余裕はありそうだからゆっくり考えようか」
その後、掃除を続けながらあと一人をどうするか話し合った。
だけどこの手の話は毎回答えが出ない。
今日も答えが出る前に掃除が終わってしまった。
そして夜、さっそく二つ並んだ大きなベッドに四人で横になった。
「こうしてドーラと一緒に寝るのは久しぶりだね」
「…魔女の匂いを嗅ぎながら寝るのは確かに久しぶりじゃ…」
「悪いね主くん。ドーラを借りて」
「あはは。でも隣に居るし、尻尾が巻き付いてるから大丈夫だよ」
せっかくだからとフローラはドーラの隣で寝る事になった。
すると、ドーラも懐かしくなったのか今日はフローラに抱き着くようだ。
「主さんには私が居るじゃないですか!
…えへへ…こうして眠れるなんて夢見たいです…」
「…今日だけじゃからな?」
「わかってますよ~」
実は少しだけドーラを取られた寂しさはあった。
でも尻尾が強く巻き付いている事と、
こうしてリーフが抱き着いてくれるから、落ち着いて眠れそうだ。
…。




