もう一人の魔女
♢
フローラも僕達と同じように生活をしてくれるようになった。
共に食事をし、寝室も共にする。
そんなある日の夜、
僕とドーラがお風呂から上がるとリーフが慌てて駆け寄ってきた。
「魔女さんが大変なんです!
辛そうな顔をしたまま何を言っても返事をしてくれなくて…!」
「なんじゃって?」
「さっきまでお話してたんですけど、急に黙って…」
前に体調を崩した時ですら話はできていた。
今回はそれ以上悪いのかと焦り、フローラの元へ急ぐ。
「魔女?どうしたのじゃ?また何処か変なのじゃ?」
「フローラ?大丈夫?…フローラ!」
「…。」
「魔女!しっかりするのじゃ!!」
ドーラが軽く揺らしながら大声で呼びかける。
その大声でやっと気が付いたのか、ゆっくりと目を開けた。
「…ん、おかえり二人とも」
「魔女、今度はどうしたのじゃ…?」
「ああ、心配いらないよ。
すまなかったねリーフ。話の途中だったのに」
「…それはいいんですけど、大丈夫なんですか?」
「問題ないよ」
それから何を言っても問題ないの一点張りではぐらかされた。
確かに、その後のフローラは普段通り元気に見えた。
だけど、翌日の夜も同じような事が起きた。
今度は僕達とも話している最中に、急に頭を押さえだす。
「魔女?魔女!!」
「…あ、ああ…すまないね」
「何かあったんじゃろ?正直に話すのじゃ!」
「いや、なんでもないよ」
「…これ以上、主に心配かけると怒るのじゃ」
ドーラの声は心配というより怒りに満ちていた。
それがフローラにも伝わったのか、降参だと言わんばかりに両手を上げる。
「わかった、正直に話すよ。
私がドライアドと融合してる話はしたね?
最近、そのドライアドがしつこく話しかけてくるんだ」
「なんて言ってるのじゃ?」
「…なんというかだね、まぁ、言いづらくはあるんだけど…」
フローラはすぐに答えずに僕を見る。
釣られた二人も僕を一度見て、視線をフローラに戻した。
「主が関係してるのじゃ?」
「そうだよ。
いいね?今から言うのは私じゃないよ?ドライアドだからね?」
「よいから早く言うのじゃ!」
「主くんが、好きなんだってさ」
そしてまた視線が僕に集まった。
フローラは僕の事を好いてくれてる。
ただ、ドライアドはドライアドで独立した感情があるとは思わなかった。
「僕の事?」
「ああ、主くんが好きらしいよ。
私に影響されたのか、どうにも人間らしくなったというか…」
フローラ自身の変化は知っている。
それと同じような変化がフローラの中に居るドライアドにもあるらしい。
「それが体調の悪い原因じゃ?」
「ドライアドが我儘なんだよ。
二人きりになって欲しいとか、抱き着いて欲しいとか…。
それを断ると泣き喚くんだ」
「…子供みたいじゃな?」
「人間みたいな感情は覚えたばかりだからね。
精神的には子供みたいなものなのかな?」
今もまた何かを言われているみたいだ。
話しながらも辛そうに頭を押さえ、またしばらく会話が止まった。
「…一応、出来る限り慰めてるんだけど、
頭の中に泣き声が響いて、頭痛が少し…」
フローラはそこまで説明するとまた黙ってしまった。
少しという割にはかなり辛そうに見える。
その様子に僕達全員が困惑した。
「…どうしたらいいんでしょうね…」
「…このままじゃ流石に可哀想じゃな…」
ドーラとリーフがその場で話し合いをした。
その結果、僅かな時間をドライアドにあげる事にした。
一日の終わりに、僕とドライアドが過ごす時間を作るそうだ。
「歯を磨いた後、わしとリーフが先に寝室に行くのじゃ。
その後、ほんのちょっと主と二人にしてあげるのじゃ」
「…いいのかい?」
「魔女も主のつがいじゃから、少しならよいのじゃ。
…仕方なくじゃぞ?魔女が辛そうだと主が辛そうだからじゃ」
「そうか、本当に助かるよ。
…よかったね…」
フローラは自分の胸を触り、そう声を掛けた。
嬉しそうに話しかけるその姿に、ドライアドを大切に思っているのだとわかる。
その日の夜、フローラがお風呂を済ませて戻ってきた。
すぐに二人になるわけではなく、
いつも通りに皆でゆっくりお茶を飲んだ。
話も一段落し、並んで歯を磨く。
いつもならトイレを済ませた後、ドーラと手を繋いで二階に向かう。
でも、今日から一緒には行けない。
「よいな?少しだけじゃぞ?」
「わかってるよ。
…でも今日は最初だから、少しだけ時間をくれないか?」
「…。…まぁ、今日だけじゃからな…。
…主、またすぐ後に…」
ドーラはそれだけ言うと僕に手を振って階段を上り始めた。
身体を丸め、トボトボと歩く後ろ姿が寂しそうに見える。
今すぐ追いかけて抱き締めたい。
そんな衝動が沸いてきたけど、フローラの為にぐっと堪える。
「おいで、主くん」
フローラはドーラが見えなくなると腕を広げた。
不思議と魅かれる、抗いがたい魅力を感じる。
素直に胸に飛び込むと、何処か懐かしい、ドーラとはまた違う安心感に包まれた。
そこで初めて、僕はフローラの中で育ったのかもしれないと思った。
「そうだ。名前を決めてくれないか?」
「フローラの?」
「いや、ドライアドのさ。
名前を呼んで、キスして欲しいんだって。
私にしてるのか、ドライアドにしてるのか、区別したいんだって」
「わかった。考えてみるね」
さっきフローラは胸を押さえて話していた。
だからドライアドは此処に居るのかなと想像しながら目を閉じる。
声も姿も、何一つわからないドライアド。
唯一知ってるのはその種族名だけ。
だから、そこから考える。
「…ライアでどうかな?」
「うん、わかりやすくていいね。
その名を呼んで、優しくキスして」
「わかった。それじゃ、ライア」
名前を呼ぶとフローラは目を閉じた。
そして普段より軽い、雰囲気の違うキスをした。
「…次は、私の名を呼んで、少し強めに…」
「うん、フローラ…」
見た目も匂いも体温も、全部が一緒。
でも、呼び名を変えると印象が変わる。
その少しの分だけ、ライアの事がわかった気がした。
「ありがとう主くん。ライアも喜んでいるよ。
また明日、よろしくね。
…さて、名残惜しいがドーラが待っているから行こう」
二人にキスをした余韻に浸りながら、手を繋いで寝室に向かう。
こうして一日の終わりにフローラと、そしてライアと過ごす時間ができた。
…。




