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懐かしい高揚

 湖に泳ぎに行った翌日


昨日ほど暑くはないけど


負けず劣らずのいい天気だった


なので、洗濯と掃除をする事にしたけど


フローラの様子がおかしかった


「…ドーラ…

 …少し、寝室のベッドを借りていいかな…」


「どうしたのじゃ?

 珍しく、魔女が眠いのじゃ?」


「…実はそうなんだ…

 …体調が悪いのかもしれない…」


「貸すのはよいけど、一人で行けるのじゃ?

 わしが運んでやっても…」


「…いや、そこまでじゃないから…」


皆が心配そうに視線を向ける


フローラは少しふらつきながら


一人、階段を上がっていった




 洗濯を始めてみたはいいものの、


気掛かりで、上ばかりを見てしまう


二階の窓の場所はなんとなくわかるけど


当然、フローラの姿は見えなかった


「魔女さんは大丈夫ですかね…

 主さん、少し様子を見に行ってくれませんか?」


「僕でいいの?」


「ずっと気にしてるじゃないですか

 それに、主さんが行ったら一番喜ぶと思うんです

 あ、お水も用意してあげてくださいね」


体調が悪いなら


様子を見に行くのが僕でいいのか不安だった


でも、一番喜ぶだろうと


リーフの一言が背中を押してくれた




 二人に見送られて大樹に戻った


さっそく水を用意し、階段を上がって


寝室の入り口から声を掛け、


中の様子を伺った


「…フローラ?…起きてるかな…

 水、持ってきたんだけど…」


「主くん?

 …わざわざ来てくれたんだね…」


「入っていい…?」


「…ああ、おいで…」


薄暗い部屋のベッドに


フローラは横になっていた


僕が部屋に入ると同時に身体を起こし、


持ってきた水を欲しがった




 飲ませて欲しい


そう言われた時はちょっと驚いた


誰かに水を飲ませるのは意外と難しく、


少しこぼしてしまったけど


フローラはまったく怒らなかった


「ごめん、少し服が濡れちゃった」


「…これくらい、大丈夫だから…

 …ふぅ…飲ませてくれてありがとう」


「着替え、持ってこようか?」


「すぐ乾くよ」


フローラは再びベッドに横たわる


それから大きく息を吸い込み


ゆっくりと全て吐いた


それから僕に向かって手を差し出したので


両手でしっかりと握った


「…少し大げさだよ

 …ほんとは、そんなに具合が悪いわけじゃない

 …皆と、遊んできていい」


「此処に居る」


「…そう?

 …でも、飽きたら行っていいからね」


「フローラ!

 …僕、ほんとに心配なんだ…」


「…ふふ…すまないね…」


遠慮ばかりの態度に


つい大声を出してしまった


怒られると思ったのに


フローラは優しく笑って


謝ってくれた




 お詫びのつもりなのか


または僕を安心させる為なのか


身体の具合を詳しく教えてくれた


体調が悪いと言うより、むしろ良いのだそうだ


ずっと感じていなかった眠気、


それに疲労を感じる事ができている


身体が人間だった頃に戻ったような感覚で


決して悪い事ではないらしい


「だからね、きっと寝るだけで治るんだ

 …ただね、眠り方を忘れてしまってね…

 …何か、コツとかあるかな?」


普段、自分が眠る時はどうだろう


いつもドーラと並んで横になり


体温が僕に移りだすと心地よくなって


いつの間にか眠っている


「…きっと、一人だから眠れないんだよ

 …僕も一緒に寝てもいい?」


「…それは同じベッドで…?」


僕が頷くと


フローラはしばらく考えていた


その後、何も言わなかったけど


ベッドの中で移動し、


僕が入る場所を作ってくれた


…。


 私の緊張感を返してほしい


男女が一緒のベッドで寝るのであれば


何か、間違いが起こるかもしれない


そんな覚悟をして招き入れた


しかし、主くんは私に無遠慮に抱き着いて


更に早々に眠ってしまった


「…せめて、私が寝るまでは

 耐えるところじゃないか…?」


身体を掴まれた時が緊張のピークだ


脱がせようともせず


それ以上身体を触ろうともしない


不思議に思っている間に眠ってしまった




 しかし、よく考えれば無理もない


生まれて間もないから


まだまだ子供という事だろう


これくらいで間違いが起こるなら


ドラ達と間違いが起こっているはずだ


「…今回は許してあげるよ…

 …おやすみ、主くん…」


寝てる主くんの額にキスをした


期待させた罰として


これくらいの悪戯はいいだろう




 感情豊かになるのも困りものだ


久しぶりの緊張は空振りに終わったが


どこか懐かしい感覚だ


ドライアドと融合して間もなく、


自由で健康な身体が嬉しくて


毎日が楽しかったのを覚えている


これから私はどうなってしまうのか


不安と期待が入り混じる


確か、そんな気分だったはず


こうして、主くんと


同じベッドで過ごしていると


その懐かしい高揚を思い出せる


…。

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