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暑い日は湖で

 今日は朝から日差しが強く、


とても蒸し暑い日だった


ドーラは暑い日が得意なのか


気にした様子はなかったけど、


リーフは服を引っ張りながら


自身に風を送り続けている


「…こんなに暑いの、珍しくないですか…?」


「主と住むようになってから一番暑いのじゃ」


「…こう暑いと何もする気になりませんね~」


普段、天気の良い日には


洗濯や掃除をする事が多い


だけど、今日は暑すぎるらしく、


無理すると倒れる危険があるから


そういう事もしないようだった




 何もしないのは退屈だろうと


フローラが湖に泳ぎに行く提案をしてきた


「三人で泳ぎに行ったらどうだ?

 これだけ暑いなら気持ちいいはずだ」


「それいいですね!

 せっかくですから魔女さんも行きましょうよ」


「おや、私もお邪魔していいのかな?」


「いいに決まってるじゃないですか!

 ならさっそく準備しましょう!」


あの日からフローラは


ほとんど大樹に居てくれる


多分、僕とキスをする為だ


でも寝室には来ないし、


出掛ける時も遠慮することが多かった




 湖の水は冷たすぎると


最初は思ったのだけど


少し慣れてくると気持ちよく感じれた


泳ぐのは初めてで、


今はドーラ達に教わりながら


少しずつ浮けるようになってきたところだ


「ドーラさんって泳ぐの上手ですね

 何かコツとかあるんですか?」


「上手く泳ぐコツは

 こう、尻尾で水を思い切り押すのじゃ」


「…私、尻尾無いんですけど…」


ドーラは尻尾をくねくねと動かして


泳ぐのがとても上手だ


けれど、それは真似できないから


少しずつ地道に練習を重ねた




 フローラは一緒に来てくれたけど


湖に入る事はしなかった


木陰から僕達を眺めて


たまに目が合うと手を振ってくれる


「魔女も泳ぎにくればよいのじゃ」


「水が苦手なんですかね?

 泳げない種族も結構いるらしいですよ」


「主が平気なんじゃから平気じゃろ?」


「そうですよね?

 なら私、誘ってきますね!」


リーフが誘いに行ってる間に


僕はドーラの尻尾を触った


いつもと違う、ひんやりとした感触だ


そして、そのまま引っ張るから


掴んでいろと、ドーラが言った


「あはは、泳いでるみたい」


「溺れない様にしっかり掴むのじゃ」


そうして遊んでいると


ほどなくして、リーフは一人で戻ってきた





 木陰を見ると相変わらずだ


座ったまま、


此方を見ながら手を振っている


「フローラはやっぱり来ない?」


「魔女さんは見てるだけで充分なんですって」


「…そっか…」


「後、主さん疲れてませんか?

 初めてならそろそろ休憩したらどうかなって」


言われると確かに疲労を感じた


素直に休憩する為、


今度は僕がフローラの元に向かう


最初、ドーラも休憩すると言ったのだけど


リーフが僕と同じように


尻尾を掴みたいと頼み込んでいた




 僕に気付いたフローラは


タオルを持って待ち構えてくれた


そして頭から問答無用で


ワシワシと拭かれる


「あはは、くすぐったいよ」


「濡れてると冷えすぎるからね

 よく拭かないとダメだよ」


しっかり拭かれた後は


新しいタオルを羽織らされた


そして、フローラと共に木陰に座る


「ねぇ、フローラも一緒に泳がない?」


「私はいいよ

 見てるだけで楽しいから」


「遊ぶともっと楽しいよ

 少し休憩したら一緒に行こうよ」


「主くんに誘われると断りづらいね

 …今日は、許してくれないかな…」


「そう?…わかった…」


許して欲しい


なんて、そんな言い方をされたら


これ以上は誘えず、諦めるしかなかった






 でも今日はって言った


だから、次は一緒に泳いでもらおうと、


約束しようと考えていたのに


それが表情に出ていたのか


口に出す前にバレてしまった


「主くん…

 何か、悪い事を考えているね?」


「今日は許したけど

 次は絶対、一緒に泳ごうと思って」


「…意地悪だね」


「…そんなに泳ぎたくない?

 …水が苦手だったら、謝るけど…」


「いや、そんなことはないんだけど…

 …まぁ、次までには覚悟を決めておくよ」


少し切なそうな表情なのが気になる


けど、せっかく一緒に来ているのだから


皆で一緒に遊びたい


そう思う事はきっと自然で


その日が今から楽しみだった


…。


 水は苦手ではない


むしろドライアドの影響か


水に触れているのは好きなほどだ


それでも、泳ぐ事を断った理由は


ドラ達に遠慮してるのもそうだけど


主くんに肌を見られるのがまだ恥ずかしいから


まだ、キス以外の覚悟は何もしていない




 主くんは再び泳ぎに行った


三人で仲良く遊ぶ姿は感慨深いものがあり、


楽しそうなドラを心から祝福できるが


その反面、思い人とキスした事実が後ろめたい


それが足を引っ張って


どうにも遠慮がちになっているのは


自分でもわかっていた




 ここ最近、感情が豊かになってきている


もっと物事を客観的に見れたはずなのに


今はどういう訳か、


生前の、人間だった頃の自分が顔を出す


あの頃の自分は引っ込み思案で


友達を作るのも苦手だった


今は母という役割があるから


平然を装えてるけど


この先、どうすればいいんだろう


この恋を、どう扱えばいいんだろうか


…。

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