提案と説教
目の前に魔女が作ったスープがある
味付けは森人がしたようだが
芋の煮え方が絶妙で、
自分が作った物より遥かに美味しい
これを覚えれば
オスはもっと喜んでくれるだろうか
「主くん、スープの具合はどうかな?
味覚が鈍いから
味付けは任せてしまったけど…」
「すごく美味しいよ
ドーラの作ったスープも美味しいけど、
これも同じくらい美味しい」
「…そうか、よかった…
我が子にそう言ってもらえると嬉しいよ」
珍しく緊張してたのだろう
あまり表情が変わらないし
二人は気づいてないだろうが
魔女がホッとしているのがわかった
それに、余程褒められて嬉しかったのか
オスがスープを食べる姿を
最初から最後まで、じっと眺めていた
食事の片付けも終わり、
森人が用意したお茶を皆で飲んだ
魔女はかなりご機嫌で
こんなに楽しそうな姿は見た事が無い
しかし、和やかな空気だったのに
森人の一言で表情が凍り付いた
「魔女さんもキスしてくれませんか?」
「…なんだって?
…すまないが、もう一度言ってくれないか」
「ですから、魔女さんも
主さんにキスしてくれませんか?
「…。
…聞き間違えじゃなかったのか…」
魔女もかなり驚いていたが
自分も同じ思いだ
皆の視線が森人に集中するが
動じた様子はなかった
急に何を言い出すんだと
初めは思ったけど
でも、話を聞けば名案だった
「残り二種族ですよね?
魔女さんで解決じゃないですか」
「なんでじゃ?」
「だって人間とドライアドが混ざってるんでしょ?」
「…確かにそうじゃな…?」
「魔女さんで済むなら一番良くないですか?
私、お嫁さんが増えるの嫌ですもん」
魔女にキスをさせるのは
考えてもみなかったけど、
これは考える価値がある
知らないメスを探すのはめんどうだ
自分を怖がらないという条件もあるし
魔女であるなら何もかも好都合だ
魔女もそれについて検討しているのか
ただ静かに考え込んでいた
その間、自分と森人で話を進めていく
「新しくキスする相手が増えたとして…
つがいも増えてしまうじゃ?」
「好意がないとしてくれないでしょ?
そしたら…いつか言い出すでしょ」
「…なんとかならんのじゃ?
何かこう、対価を払ってしてもらうとか…」
「確かに、町にもそういうお店はありますよ?
でも、好きでもない相手と
キスして欲しくないじゃないですか」
「リーフは我儘じゃな?」
「でも、気持ちはわかるでしょ?」
気持ちはよくわかる
つがいは増えて欲しくないし
好意もないのに
オスに口づけをされるのはもっと嫌だ
考えれば考える程、魔女が良い
話が綺麗にまとまった
さっそくキスをさせようと
改めて魔女に聞いたが首を横に振った
「…考えてみたが、やっぱりダメだよ」
「魔女じゃキスの意味ないじゃ?」
「…ああ、意味がないよ…
…とても残念だけど、諦めてくれるね?」
魔女が言うならそうなんだろう
珍しくか細い声だったが
落ち込んでいるのかもしれない
そう思っていたのに
森人が嘘だと言い出した
「…それ、嘘ですよね?」
「…何がかな?」
「魔女さんがしても意味ありますよね?
なんで嘘つくんですか?」
「どうしてバラしてしまうかね?」
「だって魔女さんが一番理想的な…!」
「…。」
興奮する森人を
魔女は鋭い視線だけで黙らせた
魔女は大きなため息を吐いた
そしてオスを一瞥した後、
自分と森人を叱るように説明する
「私が都合がいいっていうのは
お前達の都合だろう?
主くんの気持ちを考えているのか?」
「主の気持ちじゃ?」
「一番大事なのは主くんの気持ちだ」
魔女は順を追って説明してくれた
まず、魔女とキスしても
二種族分は怪しいが
一種族分になら効果はあると言う
次に嘘をついた理由だ
もし魔女とのキスが嫌だったとしても
自分と森人が乗り気なら
きっと我慢して受けてしまう
だから意味がないと誤魔化した
相手を選ぶ権利はオスにもある
むしろ、オスの身体の為なのだから
オスの好みを優先させた方がいい
それが優しさだと
そういう話だった
森人は涙目になって謝り、
それをオスは優しく慰めた
「…主さん…ごめんなさい…
…私、主さんの気持ち考えないで勝手に…」
「謝らないで
僕の為に一生懸命になってくれて嬉しいよ」
でも、確かに魔女の方が正しい
オスがキスをするんだから
まずはオスの好みを聞くべきだった
まぁ、正直に言えば
自分以外の好みなんて知りたくないけど
多少なら
いや、ちょっとだけなら
オスの希望に沿ってあげてもいい
…。
つい説教をしてしまった
少し言い方がきつかったのか
森人の子はシュンとしてしまったし、
ドラも物思いに耽っている
二人が我が子の心配をしてるのはわかる
それでも、私と口づけをさせるなんて
あまりにも可哀そうだ
だから二度と言い出さない様に
あえて少し厳しい言い方をした
しばらくして森人の子も落ち着いたが
まだ元気は出ないのか
椅子に座って俯き気味ではあった
「あ~…、主、一応確認なんじゃけど…
わしと森人以外でキスをするなら
どんな感じの相手がよい?」
「ドーラとリーフ以外で?」
「…まぁ、ほんとは知りたくない…
…でも、魔女も言ってたから…
…一応、主の好みを聞いてみようと…」
本当に聞きたくないんだろう
それが態度に現れて
微笑みそうになるのをなんとか耐えた
あれでも精一杯頑張っているから
笑っては悪い
「僕が選んでいいなら…
僕、フローラがいいな」
そして、我が子は質問に答えた
…。




