森人の本音
ものすごく渋い顔をした龍人と
それを宥める魔女に見送られながら
彼だけを初めて外に連れ出すことに成功した
龍人が彼と手を繋ぐ時は
私も空いている方の手を繋ぐ
でも、彼の笑顔も視線も
そのほとんどを龍人が独り占めしていた
それでもいいと思っていたけど、
本当はずっと寂しくて
今、私を見てくれることが
何よりも嬉しく感じられる
ある場所を目指して森の中を進む
ずっと彼が喜ぶだろうと
準備していた事があるのだ
「主さん、一度止まってください
あれ見えますか?」
「どれ?」
「ほら、あの木、低い位置に穴があるでしょ?
…ここから静かに近づいて
中を覗いてみてください…」
ずいぶんと前だけど
私が覗けるほど低い位置に穴を見つけた
初めは何も思わなかったが
ある日思いついて
中を綺麗に掃除してから
ふかふかの枯れ草を敷いてみた
すると、予想通りに
夜鳥が巣穴の代わりに使ってくれた
静かに近づき、覗き込むと
今日も二匹の夜鳥が眠っていた
基本的には高い場所に穴を作るので
きっと珍しいはずだ
「…こんなに近くで見たの、初めてだよ…」
「…すごいでしょ…?」
ずっと見せたかった
でもとっておきだから
二人きりになれるまで我慢していた
念願叶い、やっと実現できた
夢中になってる彼の横顔が近く、
私はこっそり、そればかりを見ていた
結果は大成功だ
彼は子供のように目を輝かせて
かなり楽しんでくれたと思う
そのお礼として
日差しをたっぷり浴びた
美味しいそうな小さな赤い木の実を
枝ごと巣穴に入れておいた
起こすと可哀そうなので
静かにその場を離れた
そこからは目的もなく、
のんびりと森を散策することにした
「どうでした?
あれ、私が作った巣穴なんですよ」
「リーフが作ったの?
すごい、どうやったの?」
「いい位置に穴を見つけたので
綺麗に掃除してから
柔らかい枯れ草や木の実を入れといたんです」
「なるほど…
僕もいつかやってみたいな」
なら今度、私と一緒に
そう言おうと思った
でも、彼は私が口を開く前に、
いつものように龍人を選ぶ
「今度ドーラとやってみるよ」
無邪気な笑顔だ
素直な彼だから他意はなく、
一番好きな龍人を選ぶのは当然だ
…でも、今日だけは私を見て欲しかった
…。
リーフが突然立ち止まったと思えば
声を上げて泣いてしまった
ただひたすら泣きじゃくり、
呼吸すら上手くできていない様子に
心配で何度も声を掛けるけど
何も答えず、首を横に振るだけだった
僕が何もできず狼狽していると
泣いたまま、
真っ赤になってしまった目で
僕を睨みながらリーフは怒った
「…わ、私が…ヒック…居るのに…
…全部…ドーラさんばっかりで…
…巣穴…だって…
…私がぁ…主さんが喜ぶかなって…」
深く傷つけてしまったと、
その時になってやっとわかった
リーフの気持ちを蔑ろに
していたわけじゃない
でも、本気で向き合ってこなかった
もう遅いかもしれない
それでも必死になって何度も謝りながら
出来る限り、優しく抱き締めた
「…主さんは、ひどいです…」
「うん、ごめん」
「…私の事、全然考えてくれないし…
「…二人で森を歩くの、ずっと楽しみにしてたのに…
…ドーラさんの事ばっかりだし…
…巣穴だって…主さんの為に…せっかく、私…」
腕の中で僕への文句が止まらない
今日の出来事に加え、
今まで感じていた不満も全部吐き出した
そんなつもりはなかった
でも、ドーラしか見てなかったと言われると
多分、その通りなんだろう
リーフはそれが一番寂しかったと、
そういってまた涙を流している
リーフは僕の事を好きだと言ってくれた
今は、どう思っているのだろう
それを聞かずにはいられなかった
「…一つだけ聞いてもいい?
…僕の事、嫌いになった…?」
「…私のお願いをひとつだけ…
…叶えてくれるなら、なりません…」
「なんでもする」
「…今すぐキスして…
…ドーラさんと同じように激しく…」
すぐにリーフにキスをした
ドーラと同じように舌を絡め、
何度も何度も繰り返す
途中、鼻が詰まって息ができないと
怒られたけど
それを無視して何度も続けた
休憩する為に木の根元に並んで座る
リーフは変わらず僕に寄り掛かってくれて
その少しの重みがとても嬉しかった
「…あの、主さん…
…色々、ひどい事言ってごめんなさい…」
「…いいんだ…
…僕の方こそ、泣かせてごめん…」
なんとかリーフの気持ちを
繋ぎとめることが出来た、と思う
そしてリーフを失うかもしれないと
そう考えた時、気づいた事もあった
「…僕はリーフも好きだった、みたい…」
「…。」
「…今更だけど、信じてくれる…?
…リーフとも、ずっと一緒に居たいんだ…」
リーフは再び泣いてしまった
しかし、今度は笑顔のままだ
「…えへへ…
…もちろん、信じますよ…
…私、その言葉が嘘かほんとか、わかるんですから…」
リーフは二人目の大切な人になった
そして今度は焦らずに
ゆっくりとキスをする
…。




