落ち着いた夜
また少し時間が空き、最後に皆でお茶を飲んだ
今日はもう遅いという事で、話し合いも終わりのような雰囲気だ
「また明日くるよ」
「何処に行くのじゃ?
大樹に泊まればよいのに…」
「私は眠る必要がないからね
主くんとリーフが居るから寂しくないだろう?」
「あ、当たり前じゃ!
…それじゃ、また、明日じゃ…」
「ああ、また明日」
魔女は意味ありげに笑った後、玄関を出て行った
正直、魔女に甘えたい気持ちが少しだけあったから
それを見抜かれてたのかもしれない
「ねぇドーラさん
今日から一緒に寝てもいいですか?」
「なんじゃって?」
「私ならずっと一緒に寝てもいいって言ってくれたじゃないですか!
とりあえず、今日だけでも許してくれませんか?
…もうちょっとだけ、私も主さんに触れたいんです…」
確かに行商を引き留める時、そんなことを言ってしまった
二人きりで過ごしたい気持ちもあるけど、行商の気持ちもまぁわかる
「…じゃあ、さっき奪ってしまった余韻の分という事でよい…」
「ほんとですか!…えへへ…」
「…一緒にお風呂はダメじゃぞ?」
「い、いいですよ!
…裸を見られるのは、まだ恥ずかしいし…」
"まだ"という言葉に心配事が増えた
オスを先にお風呂に向かわせた後、念の為に忠告しておく
「…何があっても、先に子を孕んだらダメじゃからな?
そしたら、流石のリーフでも許さないのじゃ」
「孕みませんよ!
前も言いましたけど、抜け駆けする気も、裏切る気も無いですから」
「よし、約束じゃ」
握手をするつもりで手を差し出すが、行商はすぐに動かなかった
もしかして自信がないのかと疑い始めると
行商はまっすぐに自分を見ていた
「一つ、言わせてもらっていいですか?」
「なんじゃ?」
「おめでとうございますドーラさん!
ほんとに、よかったですね!」
「…ありがとうじゃ!
リーフ、これからもよろしくじゃ!」
行商は飛び切りの笑顔だった
お互いに笑顔が溢れ、固い握手を交わす
ずっと行商には助けられてきた
そんな行商とこれからも一緒なら、とても心強いと思えた
それからオスの待つお風呂へ急いだ
オスは脱衣所で服を着たまま、部屋でタオルを整理していた
「待っててくれたのじゃ?」
「先に入っちゃうとのぼせちゃうかなって
一緒に入ろうよ」
「…くふふ…何事も一緒が良いのじゃ…」
そうしてオスと一緒にお風呂を済ませて
広間で一人で待つ行商と交代した
「魔女さんってあんなに大きいんだね」
「そうなのじゃ!
でもちょっと細くなった気がするのじゃ」
やっぱり、オスが体内に居たから大きかったのだろうか
出会った頃を思い出してみようとしたけど、流石に無理だった
それから魔女の思い出をオスに聞いてもらっていると
身体から湯気を出した行商が戻ってきた
「はぁ~。色々解決した後のお風呂は気持ちいいですね~」
「わかるのじゃ」
確かに今日のお風呂は格別に気持ちが良かった
悩み事が減ると、こんなにも心が軽くなるものなんだ
「どうします?もう少し話していくなら、またお茶淹れますけど…」
「ん~、今日はいっぱい話したから…
水でも飲んで、もうベッドに行くのじゃ」
「はーい」
歯を磨き、三人で寝室に移動する
いつもと違うのは、行商も窓際のベッドまで付いてくることだ
「今日は一緒に寝れますね!」
「そうだね。僕はどうやって寝ればいいかな?」
「主は真ん中で、仰向けになって欲しいのじゃ」
自分に抱き着かせるように寝かせる事も間々あるが、
今日は行商と分け合ってあげよう
三人で並ぶと少し狭いが、居心地は悪くない
「それじゃ、二人ともおやすみなさいです!」
予想に反し、早々に行商は眠りについてしまった
もう少しオスに甘えるとか、話をするかと思ってた
色々と疲れていたのかもしれない
自分達も眠ろうと、いつものようにオスの腕をしっかり掴み、
自分の足をオスの足に絡めた
「そういえば、もうこうして掴んでなくてよいわけじゃな…」
寝ている間に逃がさないように、いつも掴まえていた
だが、それももう必要ない
嬉しいような寂しいような、どっちとも言い難い気分だ
「いつもみたいにしてよ」
「よいのじゃ?今まで寝づらかったじゃろ?」
「ギュッとされると安心するから」
「…くふふ…わしも物足りないと思ってたのじゃ…」
逃がさないために抱き着くのと
オスに望まれて抱き着くのでは意味合いが全然違う
「…おやすみじゃ、主…」
「おやすみ、ドーラ」
思えばずっと気を張っていた
小さな変化を見逃さないように、オスが寝た後も様子を伺う日々
それも今日で終わり
久しぶりにオスの体温だけに集中して、落ち着いた夜を過ごせた
翌朝、目覚めると行商の姿はなかった
しかし、何処からか残り香とは違う行商の匂いがする
時間を掛けて出所を探すと、それがオスの身体から匂うのがわかった
キスをしてしまったわけだから、まぁこれくらい仕方ない
それにまだまだ自分の匂いの方が強いから、よしとしよう
その後、オスが自然に起きるのを待って階段を降りた
「おはよう二人とも。よく眠れたかい?」
「うむ!色々わかって、すっきりしたのじゃ」
「それはよかったね」
広間には魔女がすでに居て、行商と話をしていた
歯を磨きながら聞き耳を立てると
街のあれこれを聞いている様だった
「魔女さんは街に行ったことあるんですか?」
「昔は色々と旅をしたもんさ
ドーラと出会ってからは森を出ていないけどね」
「何か欲しい物があったら探してきますよ」
「助かるよ。何か思いついたら頼むかもしれない」
「任せてください!」
二人は話に夢中なので朝食はオスと一緒に作った
魔女が作る食事も美味しいけど、
オスには自分が作った物を食べて貰いたい
「ほれ、出来たのじゃ」
「すみません話し込んじゃってて…」
「よいのじゃ
主と一緒に作るのは楽しいのじゃ」
「はぁ~…、私も今度二人きりで作ってみたいです!」
「ダメじゃ」
「ダメですか?気が向いたらお願いしますね」
三人分のスープとパン、それと魔女の前に少しの木の実と水を置いた
「魔女、木の実なら食べられるじゃろ?」
「おや、すまないね」
「魔女さんも木の実なら食べられるんですね」
「なんでも口には出来るよ
まぁ、食べる必要もあまり無いけどね」
魔女は木の実を一粒口に入れ、それをゆっくりと味わった
その後はオスの食事する様子を、終わるまでじっと観察していた
食事の片付けも終わり、行商の淹れたお茶を皆で飲んでいると
魔女が思い出したかのように口を開く
「そうだドーラ。あの話の続きをしてくれないか?」
「あの話じゃ?」
「ほら、リーフが告白する前に言ったろ?ドーラがリーフを引き留めたって」
「ああ、あの時は主を奪いに来る奴が居ると思ってて…」
長いからまた今度と言った、行商が告白する時にチラっとした話だ
完全に忘れていたが、魔女は小さい事もよく覚えている
そこから自分の考えた作戦を魔女に話してあげた
「ハハッ、こっちのお嫁さんを二人にしようとしてたのか」
「そうじゃ。それなら主を説得できると思ったのじゃ」
「私がもう少し早く動けるようになれたらよかったね
思いのほか、時間が掛かってしまったから苦労を掛けたね」
最初から魔女も一緒だったら、どうなっていただろう
自分はオスを好きになっていたけど、
オスは魔女を頼るだろうし、自分を好きになってくれたのか
なってくれたとしても、此処までの関係になれたかどうか怪しい
だからきっと、これでよかったんだ
「いや、ちょうど良いくらいじゃった」
「そうか?ドーラがそう言ってくれるならよかったよ」
魔女は優しく微笑み、お茶を一口飲んだ
「ドーラ。今日は何をしようか」
「ん~…、洗濯して、布団も干したいのじゃ」
全部綺麗にして、更に清々しい気分になりたかった
乾くまでの間、また湖に行ってオスに抱き着いてお昼寝がしたい
もう、オスが帰る心配もしなくていいんだと
あの勘違いした湖で、それを感じてみたかった
…。




