行商の告白
落ち着くまでずっとオスと抱き合って過ごした。
やっと周りを見る余裕も出来た時には外はもう真っ暗。
魔女と行商はいつの間にか調理場に移動し、何かを作っているようだった。
何を作っているのか気になって見ていると、オスが口を開く。
「ねぇドーラ。僕がドラゴンになるのはそんなに嫌?」
「…嫌じゃ…。
…こうして抱き合えなくなっても、主はよいのじゃ…?」
「それは僕だって嫌。
でも、もしドーラと同じ種族になれるなら、ちょっといいかもって思った」
「…確かに、一緒はすごく良い…。
…けど主は、主のままで居て欲しいのじゃ…」
「そっか。わかった」
オスはドラゴンになる事を満更でもない様子だった。
一瞬、確かに同じ種族だしいいかもと思った。
でもやっぱり、オスはオスのままで居て欲しい。
はっきりと自分の中で答えが決まった。
そして、自分が落ち着いたのが見えたのか、魔女が話しかけてきた。
「スープが出来たからとりあえず食事にしたらどうかな」
「魔女が作ったのじゃ?」
「そうだよ。味付けはリーフに手伝ってもらったけどね」
そう言えばお腹が空いた。
魔女を除いた三人で、魔女の作ったスープを食べる。
昔と変わらず具材の大きさが均等で、美味しいし見た目も綺麗だ。
「どうして魔女の芋は崩れないのじゃ?」
「芋の種類によって違うけど、
最初にぬるま湯に浸けておいたり、皮を剥いてから水で洗ったりする時もある」
「ほ~…」
「昔は見栄えなんて気にしなかったじゃないか。
これも好きな人が出来た影響かな?」
確かに自分だけの時は気にした事なんて無かった。
でも今はどんな小さな事でもオスに褒めて貰いたい。
「今度、またじっくり教えて欲しいのじゃ」
「ああ、いいよ」
「魔女さんは食べないんです?」
「ああ、味覚も食欲もほぼ無いんだ」
「へぇ~。あれ?でもお茶は気に入ったって…」
「香りはわかる。
味はわからないけど、久々に美味しいと思った」
「そうです?
なら今度はもっと香りが強いお茶にしますね」
食事をしながら皆の気分も落ち着いてきた様子だ。
久しぶりに和やかな雰囲気になると、
魔女は自身が居なかった時の生活を知りたがった。
「ちゃんと毎日歯を磨いて、お風呂にも入ってるかい?」
「もちろんじゃ。主にもさせてるのじゃ」
「偉いじゃないか」
「ふふん、じゃろ?
あ、歯磨きと言えば主は枝を噛み潰せないのじゃ」
「ああ、硬い枝だと人間には無理かもしれないね。
今度、柔らかい枝を探しに行こう」
「ん~、まぁわしが作ってあげるからよいのじゃ」
「それでもいいか。仲が良いね」
他愛のない会話が続き、平和なままに食事が終わった。
とりあえず解決しなければいけない事は、後一つだけ。
オスに席に残るように伝え、調理場の行商の元へ向かう。
「リーフ、今ちょっとよいじゃ?」
「いいですよ。あ、でもその前にお茶を淹れようと思って…」
「主が良いと言えば、良いのじゃ」
「何が良いんです?…えっ…、良いん、ですか…?」
「約束は約束じゃ。
それに、他のメスよりリーフの方がわしも良いと思うのじゃ」
行商の顔が目に見えて赤くなる。
そして緊張した面持ちで席に座るオスを見た。
「な、なんて言えばいいんでしょう…」
「それは自分で考えるのじゃ。
…今、言うじゃ?」
「…そ、そうですね…。
…ドーラさんの気が変わらないうちに言ってきます…」
行商は自分の事をよくわかっているようだ。
確かに時間を置けば、やっぱりダメとも言いかねない。
行商はオスをじっと見つめたまま近づいていく。
その後ろ姿を何とも言えない気持ちで魔女と一緒に見送った。
「彼女も主くんが好きなのかい?」
「そうじゃ。
でも身を引こうとしてたから、わしが引き留めたのじゃ」
「それはまた、なんで?」
「…話せば長くなるからまた今度じゃ…」
「そうか。まぁ今は見守ってあげようか」
魔女と一緒に二人の様子を伺う、
でも行商がなぜか此方を向いて手招きをしてきた。
魔女と顔を見合わせ、共に近寄る。
「どうしたのじゃ?」
「二人にも聞いて欲しいんです。
主さんにとって、大事な人だから。
…主さん。立ち上がってください」
「うん。これでいいかな?」
「はい、ありがとうございます。
…私は貴方が好きです」
行商が最初に選んだその言葉はとても単純だけど、気持ちがこもっていた。
オスはすぐに返事をせず、静かに聞いている。
「ドーラさんが一番好きなのは知ってます。
…でも、もし私でいいなら…。
…二番目に、好きになってくれませんか…」
そう言った行商はオスに向かって手を差し出した。
オスは動こうとはせず、ただ此方を見る。
「ドーラ、僕…」
「わしは許したのじゃ。
主の思うままにしてよいのじゃ」
「そっか」
名前を呼ばれただけで、何を考えているかわかった。
いつだってオスは自分を優先してくれる。
オスはほんの少しの間だけ目を閉じて、返事をした。
「…うん、僕もリーフが好きだよ」
オスは行商の手を掴んだ。
オスもきっと行商の事を気に入ってると思っていた。
こうして見届ける事が出来て、どこかホッとした。
「それで、私もつがいに…お嫁さんにしてくれますか?
ほんとは最初に言いたかったんですけど、
ドーラさんとはそういう約束をしてたんです」
「そうなの?もちろん僕は嬉しいよ」
「ほんとですか!?
…それを証明するために、キス、してくれますか…?」
オスは再度、此方に視線を向けてきた。
毎回のように自分に許可を求める姿に多少の優越感が沸いてくる。
そして何の反応も示さない自分に対し、オスは声を掛けてきた。
「ドーラ、いいのかな?」
「ダメじゃ」
「…えぇー!だってキスしないと意味ないじゃないですか!」
「だって嫌じゃもん」
これは我儘だって自分でもわかってる。
しかし、どうしても自分から良いとは言いたくない。
すると、魔女が後ろから頭を撫でてくれた。
オスとは違う、なんとも懐かしい撫で方。
そのおかげで、魔女に説得された形で仕方がなく許可を出すことが出来た。
「ドーラ。これも主くんの為だよ」
「…じゃあ、まぁ、とりあえず一度だけじゃ…」
「やったっ!
…ドーラさんが見てると主さんからしずらいと思うので、
…私から、しますね…」
行商は両手でオスの頬を持ち、キスをした。
それを見て、複雑な感情が沸いて手を出さずにはいられなかった。
「…すぐ離れるのじゃ!
主、わしともう一度じゃ!」
「もう!少しくらい余韻に浸らせてくださいよ」
「ふんっ!」
行商の味や匂いをかき消すように、オスの唇を奪う。
気を利かせた行商と魔女が離れた後、オスが謝ってくれた
「…嫌だった?ごめんねドーラ…」
「…謝る事はないのじゃ…わしが決めたのじゃ…」
「…うん、そうだね…。…でも、ごめん…」
複雑な感情を抱えたまま、謝るオスに抱き締めて貰う。
こうするのが一番いい事だってわかってる。
ただ、受け入れるのに時間が掛かるだけ。
だから後少し、このままオスを独占して抱き合っていたい。
…。




