告白
その後も魔女についての話は続き、
やっと話の終わりが見えてきた。
とにかく、魔女の身体の中にドライアドという存在が居て、
色んな事がそのドライアドのおかげだという事はなんとなくわかった。
「私の身体の事はこれでだいたいわかったかな?」
「わかったから早く主の話をして欲しいのじゃ」
「つまり、主くんは人間として産んでしまったわけだよ」
「魔女と一緒じゃ?」
「そう。だから私が倒れた病を患う可能性がある」
「…っ!なんとかするのじゃ!どうすればよいのじゃ!」
話を聞く限り命を落とす危険もある。
なぜそれを最初に言わないんだ。
どうしてもっと必死にならないんだと怒りが沸いてきた。
どうしてもその感情を抑えきれず、机を思い切り叩く。
「落ち着きなさい。お茶が零れたじゃないか」
「そんなのどうでもよいのじゃ!!
今すぐどうにかするのじゃ!」
落ち着けと言われたが、
逆になぜ魔女がこんなに落ち着いていられるのか理解できない。
魔女は自分の親でもあるし、感謝も尊敬もしている。
だが初めて敵意を持って睨んだ。
でも、魔女の口調は柔らかいままだった。
「ドーラが主くんを心配してくれてるのは、よくわかった。
とにかく安心しなさい。死にはしないと約束する」
「…本当じゃ…?」
「何の対策もなく生みはしないよ。
さっきも少し話した例の実を、主くんに与えているからね」
その実はオスの身体の中でゆっくりと成長する。
綺麗な水や空気を吸い、森の恵みを食べると、
現環境に適応する力を得る事ができるそうだ。
「そうして自然の生命力を分けて貰うんだ。
だから色々と旅をして、大樹があるこの森に目を付けた。
此処なら きっと森人に近い存在になれると思っていた」
「…。」
「…もう、ドラゴンになる理由がわかったね?」
「…わしのせいじゃ…」
おそらく、自分がキスをしたからこうなった。
その実が自分の何かを吸収し、オスをドラゴンへと導くのだろう。
「でもまぁ、それでも死ぬわけじゃない。
最強の生物として元気に生きていける」
「…でも…じゃって…」
[ドーラ、僕はドラゴンになってもいいよ?」
「…嫌じゃ!あんな大きくてゴツゴツの姿になんてなって欲しくないのじゃ!」
だってドラゴンになってしまえば、もう抱き締めて貰えない。
手だって繋げない。
せっかく全てが上手くいくと思ったのに。
絶望的な状況に気が狂いそうだ。
それから少しの間、誰も口を開かなかった。
なんとか解決の糸口を探そうと考えてみるが、何も思い浮かばない。
その苛立ちを誤魔化すために、尻尾を床に何度も叩きつける。
「ドーラ。尻尾が傷ついてしまうよ」
「…。」
「人の姿を保つ方法はある」
「あるなら早く言うのじゃ!」
やっぱり魔女は頼りになると思った。
だが、その方法は想像を超えて受け入れがたいものだった。
「他の種族ともキスをして生命力を混ぜよう」
「…ん?…魔女が、誰とキスするのじゃ?」
「私がしてどうにかなるならするけどね。
主くんがドーラ以外とキスをして、ドラゴンの血を薄めるんだ。
まぁ、最低でも二人かな?」
「嫌じゃ!」
「安全を期すなら三人欲しい」
「もっと嫌じゃ!!」
「じゃあ主くんがドラゴンになるね」
「嫌じゃーー!!!」
思い切り何度も叫んだのに、魔女は怯まなかった。
それどころか行商が手を上げて追い打ちをかけてくる。
頭の中が混乱して、何も考えられなくなりそうだ。
「はい!ドーラさん!私がキスしたいです!」
「嫌じゃ!
リーフはわしの許可なく何もしないって言ったのじゃ!」
「だから許可取ってるんじゃないですか。
今のままだと、主さんがドラゴンになっちゃいますよ?
それは私も避けたいんです」
「…それはっ、…わしも、そうじゃけど…」
「ねぇ魔女さん。
いつ主さんがドラゴンになっちゃうかわかります?」
「いや、皆目見当もつかないね。
ただ、何か兆候があった時点で手遅れだと思う」
その言葉に急ぎオスを確認する。
とりあえず上の服も脱がせて、変化が無いかを調べた。
鱗も角も尻尾もまだ無いようだ。
「…ふぅ、まだ大丈夫じゃ…」
「安心するにはまだ早い。
さっき最低でも二人と言ったけど、
出来るだけ早く一人くらいは混ぜた方がいい」
「…むぅ…」
時間が無いなら答えは決まっている。
そこに居る行商が、全てにおいて都合が良い。
そんなのわかってるけど、今すぐ認める事なんてできない。
でも、行商が魔女を味方につけてあれやこれや言ってきたら、
今きっと、受け入れざるを得ない。
もう、何が正解で、何をどうしていいかわからない。
そう身構えていると、行商が自分に向かって真面目な声で口を開いた。
「私が気持ちを伝える前に、先に伝えたい事はありませんか?」
「…。」
「ゆっくり待ってますから」
色々な葛藤が渦巻く中、行商は自分を気遣ってくれた。
それがきっかけになったのか、少し頭が冷えていく。
一度冷静になってよく考えてみよう。
独占しようとすればできるけど、このオスの姿が変わってしまう。
それが嫌なのであれば、行商を受け入れるしかない。
一応約束もしているわけだし、駄々をこねても仕方ない。
なら、それはそれでいい。
さっき行商は身を挺してオスの前に立ってくれた。
そんな行商となら、あるいは上手くやっていけるかもしれない。
後はオスの気持ち次第でそうなってもいい。
でもまず、自分が先に全部の気持ちを伝えておきたい。
「…主、立って欲しいのじゃ…」
「わかった」
改めてオスと向き合った。
もう既にお互いの気持ちは通じ合っているはずだ。
それでもちゃんと言葉にしようとすると、緊張で手が震える。
「…あ、あのじゃな…その…。
…さっきも、チラっと言ったんじゃけど…」
「ドーラ」
「…な、なんじゃ…?」
「僕のつがいになって欲しいんだ」
今まで自分が先に気持ちを伝えていた。
だから、オスの方から言ってくれるなんて思わなかった。
オスの言葉を理解した瞬間、
ボロボロと涙が溢れてオスの姿がぼやけて見える。
返事をしようにも口を開ければ嗚咽が漏れるだけだった。
それでも声を振り絞り、自分が名付けたオスの名前を呼んだ。
「…あ”ぁ~ぬ”し”~」
「お待たせドーラ。やっと言えた」
「…つ、つがいになる…なるのじゃ…」
「よかった、ドーラ…」
きっと、オスも気持ちを伝えるのを待っててくれた。
自らの出自がわかるまで、自分を不安にさせないように。
それがわかると、更に涙が溢れだす。
行商と魔女が見てる前で強く強く抱き合った。
そして二人に見せつけるように、深いキスをした。
…。




