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経験した事のない緊張感

 彼が今の姿で居続けられますように


胸の前で手を合わせてそう強く祈った


優しく笑う彼をずっと見ていたい


その為だったら


私は何でもする覚悟があった




 魔女が目を開いた


ドライアドとの会話が終わったのだろうか


もし解決策がなかったらと


そんな不安と恐怖に耐えながら


逃げ出したい気持ちを抑えながら


静かに答えを待った


「ドーラ、よくお聞き」


「どうすればよい?」


「主くんには二つの道がある」


一つはドラゴンになるのを受け入れる事


今までのように大樹の中では


暮らせない


だけど、最強の生物として


きっと元気に生きていける


ある意味では幸せかもしれないが


当然、龍人がそれを拒否した


「さっきも言ったがそれは嫌じゃ!

 もう一つの道じゃ!」


「なら、遺伝子を混ぜよう」


「…混ぜる、じゃ?」


「最低でも三種族くらいかな」


「…それは…なんの数じゃ…?」


そこまで聞けば龍人もわかったはずだ


今までの会話で察せるはず


認めたくなくてお茶を濁しているだけの


最後の悪あがきだ




 私は笑みが堪えられないまま


龍人に近づいた


「ドーラさん」


「な、なんじゃ…?」


「私がそのうちの一種族でいいですよね?

 約束ですもんね?

 今、主さんとキスしていいですか?」


「…い、嫌じゃ!

 わしがいいって言った事だけって言ったのじゃ!」


「だから聞いてるじゃないですか

 早くしないとドラゴンになっちゃいますよ?」


「じゃからって今すぐしなくてもよい!」


「私は早い方がいいと思うけどな~」


龍人が約束を反故にする


そんな可能性もあると思っていた


でも、今の話なら私は必要な存在になれる


遅かれ早かれ、もうすぐ彼と口づけをする


そしたら責任を取ってと、強気に攻めてやる


それが行商人を惚れさせた彼の罪




 龍人は彼を守るように抱き着いている


そんなを龍人はほっといて


魔女にもっと詳しい話を聞くことにした


気になるのは最低でも三種族と言ったところ


私以外に二種族の誰かを探さないといけない


つまり、後二人も彼とキスをする


それは私だって面白くない


「私だけじゃダメです?」


「足りなすぎる、不十分だ」


「そこ、詳しく教えてください」


ドラゴンは遺伝子としても強く、


一種族だけでは到底太刀打ちできない


三種類くらい混ぜてようやく拮抗して


ドラゴンではなく、


混種として今の姿を保てる


「…って事ですね?」


「そうだ

 だが、森人は人間と相性がいい

 もしかすればリーフと後一種族でどうにか…

 …でもまぁ、確実性を取るなら多い方がいい」


「それって様子を見ながら調整できます?」


「…見た目に変化が起これば手遅れだ

 調整は難しいだろうね

 後、なるべく早く一種族は混ぜた方が安心だ」


「それは私が適任ですよね」


「…そうだけど、リーフはいいのか?

 気持ちは嬉しいが

 主くんの為にそこまで身体を張らなくても…」


「いいんです

 私、主さんの事が本気で好きなので」


私の告白に魔女は驚かなかった


そしてすぐさま龍人を説得しにいった




 龍人も覚悟してたのだろう


意外な事に素直に魔女に従い、


彼に、私と口づけをするように伝える


「主がドラゴンにならない為に、

 こうするしかないのじゃ…」


「僕がドラゴンになるのは嫌?」


「…今の主がよいのじゃ…

 …あんなに大きく、ゴツゴツになるなら…

 …リーフとキスする方がまだマシじゃ…」


龍人の言い草には


色々言いたい事はある


まぁ、それはともかく、


いよいよ話がまとまりつつあった




 龍人に見送られて


彼が此方に近づいてきた


今まで経験した事のない緊張感が私を襲う


これ以上ないほど、胸が高鳴っている


身体も熱くて


どうしても彼の顔がまともに見れない


「…ちょ、ちょっと待ってくださいね…」


「急にこんなことになってごめんね」


「…謝らないでください…

 …私、とっても嬉しいです…

 …嬉しい、はずなんですけど…」


どうしていいかわからなくなった


手も震えるし、


何度深呼吸しても落ち着かない


あれほど待ち望んでいたはずなのに


土壇場で、私の身体は動かなかった




 私の異変に気付いたのか


彼が椅子に誘導し、座らせてくれた


差し出された水を一口飲み、


少しだけ冷静になれた


「…ふぅ…

 …すみません、緊張しちゃって…」


「いつも強気で大胆なのにじゃ?」


「…いつもは、だって…

 …ドーラさんの真似をしてみたいっていう

 そういう建前があったから…」


自分の意思で甘えて


拒否されたら傷ついてしまう


だから、恋人がいる気分を味わうために


ただ真似をしたいという


そういう建前が必要だった


「リーフも大したことないのじゃ

 …なら、よく見て勉強するのじゃ…」


私と魔女の目の前でも臆することなく


龍人は大胆にキスをした


その慣れた様子に


少し負けた気分になったけど、


自分もするんだと思いながら見ると


参考にはなった


それに、やっぱり負けたくないと


そういう気持ちが生まれてきた


「…主さん!

 二人で、森に散歩に行きませんか!」


「二人でじゃ~?」


「魔女さんには許してたでしょ?

 なら、私だっていいじゃないですか!」


「…うーん…

 …まぁ…仕方ないのじゃ…」


勢いに任せて押し切った


なんとか龍人も承諾してくれたし


森の中なら、きっと勇気が出せる


それに、ずっと二人だけで


森をゆっくり歩いてみたかった


…。

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