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ドライアドの種

 翌日も魔女が朝から現れた


今日は魔女自身の話をしてきたのだが


そういえば聞いた事が無かった


自分にとって魔女は魔女で、


過去がどうあれ、育ての親で


この生活を教えてくれた恩人だ




 しかし、一番気になる事は


魔女の過去でも、


自分を見つけた経緯でもない


「どうして主を産んでくれたのじゃ?」


「ドーラに友達を

 と、そう思ったのが最初だったかな」


「友達じゃ?」


「どの種族もドラゴンに近づくなと

 子供の頃から教わるはずなんだ

 いたずらに近づいて怒りを買えば

 一族が滅びるかもしれないからね」


「わしはそんな事しないのじゃ!」


「…仮に、主くんに手を出されても?」


「…も、もちろんじゃ!

 …最初は、話し合いからじゃ…そうじゃろ…?」


森人が下手な事を言わないか


少し心配だったが


苦笑いをしているだけだった


おかげで事なきを得る事が出来たので


後でお礼を言っておこうと思った


「…まぁそれはいいとして

 教育される前の子供なんて当てがないし、

 親が許可してくれるとも思わなかったから

 自分で産むしかないと思ったんだ」


魔女はオスに視線をずらした


あの優しい目はよく覚えている


自分が何かを失敗した時や


何かを我慢できずに泣いた時、


魔女は怒らず、


あの優しい目をしながら


頭をずっと撫でてくれた


…。


 自分で産むしかないと思った


それしか方法が無いのなら仕方ない


最初はそれくらいの軽い気持ちだったのに


遥か昔の、私自身の夢と重なった




 病に倒れる前から身体が弱く、


子は成せないと言われていた


ずっと諦めていたはずの夢が


この身体なら叶うかもしれない


しかし、普通の方法では無理だろう


ドライアドと相談した結果、


私の命を分裂させることにした




 だが成功しても失敗しても


ほとんどの確率で死ぬようだ


それでもよかった


私亡き後、


ドライアドに身体を譲るつもりだったが


なぜかドライアドが


命を半分肩代わりしてくれた


おかげで私は死なず、


無事に子を宿すことが出来た




 その直後に不安になった


赤子で生み落としても


育てる事ができないのでは、と


だからせめて


身体だけでも成長してから生み落とせば


生き残る確率が上がるのではないか


「…そう思ったわけだ」


「なんで丘の木の中でじゃ?」


「赤子で産むならやらなかったけど

 成長させるなら

 この身体の中では狭すぎると思ったんだよ」


しかし、丘の木を選んで本当によかった


産んでから動けるようになるまで


これほどの時間が必要とは思わなかった


もし、ドラが我が子に気付かなければ


すべてが台無しになったかもしれない


初めて見る我が子が


息絶えた姿だった、なんて事にならず


今、心底ホッとしている


「ドーラは主くんの命の恩人だね」


「…やっぱりそうじゃ?

 わしが主を救ったのじゃ!」


誇らしそうに叫ぶ顔が愛おしい


嬉しそうに我が子に抱き着く姿が愛らしい


二人が仲睦まじくする姿が見れた


それだけで命を懸けた甲斐も


長く生きてきた価値もあった




 話すべきことは話した


我が子と話もできたし、


ドラの元気な様子も見れた


様々な不安要素があったものの


これ以上ないくらい上手くいっている


そう思っていた


だが、ドラの発言に


私の中のドライアドが慌て始めた


「魔女、わしは主とつがいになりたいのじゃ」


「ドーラ達はそういう間柄なのかい?

 まだ、キスはしてないね?

 慎重によく考えてと

 何度も言ったのを覚えているだろう?」


「…あー…たまに、してるのじゃ…」


「たまに?

 どれくらいの頻度で?」


「たまには、たまにじゃ」


ドラは誤魔化すつもりだ


答える気配を感じないので


森人の子に視線を変えると


日に最低三回はしていると教えてくれた




 我が子はほぼ人間だ


流行り病や私の遺伝子のせいで


病気になるかもしれないし


今現在の環境に適さないかもしれない


そんな危険性を考えていた私達は


その対策として


ドライアドが種を与えていた




 我が子が森の実りを食べれば種が育ち、


それなりに時間はかかるだろうけど


身体が環境に馴染むはずだった


しかしだ


今はドラゴンの遺伝子が


直接その種に影響を与えているはずだ


「…その種は生きる為のものだ

 だから植物より

 生き物の遺伝子を優先して受け入れる」


「それの何が悪いのじゃ?」


「…主くんは…

 …ドラゴンの姿になってしまうかもね」


「…そんなの嫌じゃ!

 あんな姿になったら…

 一緒にベッドで寝る事も、

 抱き合う事もできないのじゃ!」


ドラゴンの遺伝子は強すぎる


身体が環境に馴染んだ後ならともかく、


今からキスをやめたとしても手遅れだ


もう少し私が自由になるのが早ければと


そう後悔してもどうしようもない




 ドラは我が子の身体を調べている


特に尻尾が生えないか気になるようで


強引に服を引っ張って確認していた


今はまだ平気でも


おそらく時間の問題だろう


そんな事を考えていると


静かに話を聞いていた森人の子が


何かの決意を目に宿し、話しかけてきた


「ドラゴンにしない方法は何もないんですか?」


「…どう、だろうね…」


「…しっかりしてください!

 貴方しかわからないんですから!

 …出来ることは、協力しますから…」


その必死な訴えに


私もドライアドもハッとした


この子もきっと我が子の事が


大事で、大好きなんだろう


「…すまなかった

 少し、ドライアドと話してくる」


目を閉じてドライアドに語り掛ける


さぁ、我が子を守るために知恵を貸してくれ


私達の我が子を二人で守ろうと


…。

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