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魔女の過去

 僕は分類的には人間という種族らしい


ただ、人間は大昔に絶滅しているのと


厳密にいえばドライアドが少し混じっている為、


一応は昆種という扱いらしかった


「私が元人間でドライアドとの昆種だからね

 だから、主くんも一緒だよ」


「なんで絶滅したのじゃ?」


「まぁ、主な原因は病気だと思うよ」


地殻の変動により、


環境が目まぐるしく変わった時代


未知の病気が蔓延したのが


おそらくの原因だと魔女が言った


ほとんどの人間が滅んだ頃、


環境に適応できた一握りが


森人の先祖にあたるらしい


そして、気まぐれに森を出た森人が


様々な種族へと進化していった




 話がひと段落したようだ


朝から長い時間座っていたら


身体が固まってしまった 


立ち上がって腕を回したり、


身体を伸ばしたりしていると


魔女が僕だけを散歩に誘ってくれた




 ドーラはかなり渋っていた


誰も奪いに来ないとわかっていても


まだ漠然とした不安があるらしい


それでもリーフの説得に


短い時間だけならと、許してくれた


「なら、ドーラの気が変わらないうちに行こうか」


魔女と一緒に外に出る


少し歩いて後ろを向くと


玄関から顔を覗かせているドーラが居た


「すぐ戻るよ」


「…。」


魔女がそう声を掛けた


ドーラは返事をしないどころか


バタンと大きな音を立てて扉を勢いよく閉める


「…仕方ない子だね…

 主くんは優しくしてもらってるかい?」


「ドーラはすごく優しいよ

 ずっと僕を気遣ってくれてるんだ」


「ならさっきの態度は許してあげようか

 もっとドーラの話を聞かせてくれないか」


「いいよ

 ドーラはね、出会った時から優しくて…」


一緒にいると不思議と気持ちが落ち着いた


それに話を聞くのが上手なんだろうか


魔女に話したい事、聞いて欲しい事が


次々と思い浮かんでくる




 丘に向かっているんだと思った


でも森の途中で引き返し、


大樹の前まで来ると


すごい勢いでドーラが飛び出してきた


「遅かったのじゃ!」


「そんな事ないだろう?

 本当はもっと歩きたかったけど…

 早めに切り上げたんだよ?」


「主が見えないところに行くのが怖いのじゃ!」


「…そうか、悪かったねドーラ

 散歩を許してくれてありがとうね」


「…んっ…」


「今日も話はこれくらいにしようか

 また明日ね」


確かに少し短いように感じた


でもドーラの気持ちを察して


魔女は優しくお礼を伝え、


一人、森の奥に進んでいく


「…ねぇ、泊っていこうよ」


なんとなく寂しくて


気が付けばそう声を掛けていた


魔女は立ち止まって手を振ってくれたけど


すぐに振り返り、森に消えていった


…。


 我が子は良い子に育った


いや、育ってくれた


少しドラに対しては甘い気もするけど


でも、それも優しい証拠


我が子、愛しい子


実際に姿を見れたのは昨日が初めてだ


見た瞬間に愛おしさが溢れて


一目で我が子だとわかった


本当に無事で、本当によかった




 少し、昔を思い出そう


私の生まれは流浪の民だ


定住地を持たず、恵みの良い森を


転々とする暮らしをしていた


しかし、私は身体が弱かった為に


病に倒れ、一人で置き去りにされた




 仕方ないと思った


別に家族を恨んではいない


もう迷惑は掛けないのだと


そう、安心すらしていた気がする


後はただ死に逝くだけだ




 視線の先に花を見つけた


私が好きだった花の枯れかけた姿


一緒に終わりを迎えたかったのか


私の身体を糧にして欲しかったのか


はっきりと覚えていない


ただ、その花に近づきたいと


願った事は覚えている




 その花はドライアドが宿っていた


花の傍で力尽きたはずなのに


気が付けばこの身体になっていた


嘘のように軽い身体


あれだけ苦しかったのが嘘のようだ


ただ、自分の中にもう一つ意識がある


最初は違和感しかなかったが


徐々に交流できるようになった


それは自我に目覚めたドライアドで


もう一人の私となった


彼女も自分の意識が残るなんて


思わなかったそうだけど


結果的に、二人とも助かった




 身体は私の自由に動かせた


ただ、欲求はドライアドが優先された


彼女にとって動ける身体は初めてで


色々な場所を見て回りたいと


それだけが私の願いになっていた




 旅をする上でこの身体は便利だった


ほとんどお腹は空かないし


水さえあれば満足できた


夜眠る必要もなく


暗闇も怖くない


ただ、言葉を覚えたドライアドは


少しうるさく感じた




世界中を歩き尽くした


旅をしてる間に人間は滅び、


色々な種族が生まれてきた


彼らが住処を決めて


繁栄する姿に影響されたのだろう


私達も住処を決めて暮らしてみよう


なんて、そんな事を考えたはずだ




 住むならやはり森がいい


旅した記憶の中を思い返し、


一番立派な森を選んだ


既に他の種族が住んでいる可能性も


十分あると考えてはいたが


まさか、ドラゴンが住みついているとは


思っていなかった




 数日間、様子を見た


最初二匹居たドラゴンのうち、


大きい方が飛び去った


残された方は寂しそうに森を彷徨い、


悲しそうに時々鳴く声が胸に響く


境遇こそは違うが


私も置き去りにされる寂しさはよくわかる


だから危険を冒してでも


ドラゴンに声を掛けたんだ


…。

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