魔女と名乗る女性
緊張感が漂う
ただ事じゃない雰囲気に
ドーラの身体が熱を帯び始める
そして戻ってきたリーフにこう言った
「…誰か、おったんじゃな?」
感情を抑え込もうとしている声色だった
出会った頃ならとっくに飛び出しているところだけど
今は冷静に状況を聞こうとしていた
リーフが何度か深呼吸をして息を整えた
誰が居たとか、逃げましょうとか
返事のいくつかを想像してたけど
実際に出てきた言葉は予想外なものだった
「…魔女さんって知ってますよね…?」
「…よく知っておるけど…
それが、どうしたのじゃ…?」
「…亡くなった…んですよね…?」
「…そう、じゃけど…」
「…その、私は会った事がないから
わからないんですけど…
…でも、嘘は言ってないと思うんです…」
リーフは混乱しているようだった
的を得ない返答にドーラも首を傾げる
「…何が言いたいのじゃ?
結局、誰か居たのじゃ?」
「…その、魔女と名乗る方がですね~…」
「…魔女が居たじゃ…?
…いやでも、魔女は目の前で…
…見た目はどんなじゃった?」
特徴を聞くドーラの反応を見る限りだけど
ドーラが知っている魔女と同一人物のような気がした
話に夢中になっていると
急に玄関を叩く音がした
再びドーラが身構えると同時に
ゆっくりと扉が開いて
どこか、不思議な雰囲気のする女性が現れた
「あまりに遅いから此処まで来てしまった
丘で感動的な再開をしたかったのに」
「…魔女!?本当に魔女じゃ!」
ドーラは走って魔女に飛びついた
魔女は勢いに押されて
壁に衝突したけど、それを意に介していないようだ
「ハハッ、相変わらず元気だね」
「…魔女…うぅ…」
魔女と呼ばれたその人は
泣きながら抱き着くドーラを優しく撫でた
状況はよくわからないけど
感動的な再会にリーフも涙を滲ませていた
僕も最初こそ微笑ましく見ていたが
途中から別の感情が沸き上がる
どういう理由なのか
抱き締められるドーラが羨ましく見えるのだ
「…ドラ、ちょっと離れなさい」
「…んっ…」
そっと離れたドーラの涙を拭い、
何度も何度も頭を撫でている
その姿はまさしく母親で、本物の魔女だと思えた
懐かしそうに大樹の中を見渡した後に
魔女と目が合った
「…君が…」
目が逸らせないまま見つめ返していると
家の中に上がってきて
まっすぐ、僕の目の前までやってきた
「会いたかった」
そう言うや否や、思い切り抱き締めてくれた
強めの抱擁は少しばかり苦しかった
でも、何処か懐かしくて嬉しくて
ドーラやリーフと違う安心感に包まれる
欲を言えば僕も抱き締め返したかったけど
腕ごと抱擁されているから
身動きが取れなかった
「…魔女!
それはわしのじゃからダメじゃ!」
「人を物みたいに言ってはダメだよ」
「違うのじゃ!
主がいいって言ったのじゃ!」
ドーラは別の意味で泣きそうだった
僕から引き離そうと
魔女の腕を掴んで何度も揺すっているが
おそらく力は全く込められておらず、
ただ気持ちを伝えているだけのようだ
ただ、魔女は再び意に介していないようだった
「主?
それが君の名前?」
「ドーラが付けてくれたんだ」
「それにドラはドーラか
因みに、あっちのお嬢さんは?」
「えっと、彼女は森人で…」
離れられまいまま会話が進んだ
質問されたから答えるしかないけど
泣きそうなドーラが気になって仕方がない
リーフを紹介し終わると
ドーラが足や尻尾を床に叩きつけ初め
そろそろ我慢の限界に思える
「会話をやめるのじゃ!
今すぐ離れるのじゃ!」
「癇癪を起こしてはダメだよ
床が傷つくと言っただろう?」
「じゃって魔女がわしの主なのにそんな風に!」
「はいはい、わかったよ」
僕達が少し離れた瞬間、
少ない隙間にドーラが割り込んでくる
少し押されるような感じで
魔女は後ろに移動させられたから
流石に怒るかもと心配だった
ところが、魔女は嬉しそうだ
微笑みながら
僕に抱き着くドーラを再び優しく撫でた
「そんなに主くんが大事なんだね
悪かったよドーラ」
「…。」
ドーラは返事をしなかったが小さく頷いた
それだけでよしとしたのか
魔女は僕達から離れて
次はリーフに近寄って行った
…。




