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不穏な気配

♢


せっかく行商の為を思ってオスを貸してあげたのに、

朝起きてすぐに文句を言われた。

いったい、何が気に入らなかったというんだろう。



「もう、ああいう事はお風呂に入った後でお願いしますね?」

「でも主の腕の中で眠れて嬉しかったじゃろ?」

「…それはそうですけど、かなり驚いたんですよ?

 もしかして寝込みを襲ってくれたのかな~って」

「主はそんな事しないのじゃ!

 するならわしにして欲しいのじゃ」



そう言ってからオスが真に受けたらどうしようかと思った。

少しだけ緊張しながらオスの様子を伺うと首を傾げて笑っている。

きっと会話の意味がよくわかってない。

それを行商も察し、この話は終わりになった。



「それで、なんであんなに疲れてたのじゃ?」

「…え?…それは~その~…あはは…」

「…だいたいわかったのじゃ」



行商はチラリとオスを見た。

多分、オスに会いたくて無理をしたとかそんなのだ。


無理をして行商に倒れられると困るけど、

それだけオスに本気になってくれること自体はありがたい。



「ねぇドーラさん?今日はお風呂に入れるから、

 今夜も主さんに抱いてもらっていいですか?」

「ダメじゃ。

 あれは街に行ってくれたお礼じゃ」

「えぇー!行商一回に付き、一回だけですか?

 …少ないな~…」



朝食の間もずっと少ない少ないと文句を言われた。

行商の居ない数日間、二人きりで良い雰囲気で過ごせた。

だけど、こうして賑やかなのも楽しい。



「でも、無事に帰ってきてくれてよかった」

「主さんも心配してくれてたんですか?」

「ずっと心配してたよ。

 早く帰ってこないかなって思ってた。

 そういえば、まだ言ってなかったね。おかえりリーフ」

「…えへへ…ただいまです…」



ただ、ああしてメスを出されると言うか、

じゃれ合われると多少はイラっとはする。


三人で過ごした時間が二人で過ごした時間を超えた。

すると、オスと行商の多少のじゃれ合いにも慣れてきた。

そんなある日、一人で森の散策に出ていた行商が血相を変えて戻ってきた。



「何かあったのじゃ?」

「今、森を歩いてたら違和感があって、

 私達の他に、誰かいるかもしれません」

「…ん?誰か来てるのじゃ?

 リーフの知り合いじゃ?」

「私の知り合いは絶対に来ないと断言します」

「リーフの知り合いじゃないなら…」



平和過ぎて久しく忘れていた恐怖を思い出す。

誰かが、オスを探しに来たのかもしれない。

オスが不安そうに此方を見てくるが、言葉がでない。



「…で、でも…まだいるかもしれないじゃろ…?」

「ええ、歩いた痕跡がほとんどなくって…。

 …でも確かに何処か違和感があるっていうか…」



まだ確証はないようだったが行商の勘はよく当たる。

一緒に暮らしてそれがよくわかっている。

不安がどんとん大きくなっていく。



「私、もう少し探してみますね」

「危なくないの?行かない方がいいよ」

「森の中なら誰にも見つからない自信がありますから」

「…でも…」

「…帰ってきたら、ギュって抱き締めてくださいね!」



心配そうなオスを他所に行商は外に向かおうとする。

その足取りはしっかりして、強い意思が込められているようだった。

反対に自分は何をしていいか、わからない。



「…ま、待つのじゃリーフ!…わしは、どうしたら…」



そう言った瞬間、行商は鋭い視線を向けてきた。

少し早足で自分の元まで来ると両肩を掴まれる。



「しっかりしてください!

 ドーラさんがちゃんとしてくれたら、私達に敵なんて居ないんです!」

「…リーフ…」

「私が居ない間、此処で主さんを守ってください。

 そうすれば、私だって安心して調べられるんですから」



行商の言葉で冷静さを取り戻せた。

そして思い出すんだ。

何が何でもオスを守ろうとしていたあの覚悟を。



「…任せるのじゃ。誰が現れても主を渡さないのじゃ」

「…よし!

 あ、でも手を出しちゃダメですよ?

 何かあれば大声で私を呼んでくださいね。すぐ戻りますから」



行商は最後に少しだけ笑い、森に向かった。

とりあえずオスを座らせ、後ろから抱き締める。

そして、誰が来てもいいように玄関を睨んだ。



「誰が来ても、主を渡さないのじゃ。

 …主も、それでよいじゃ…?」

「うん。僕はずっとドーラと一緒に居るって決めてるよ」

「…絶対、絶対守るのじゃ…」



オスは抱き締める腕にそっと手を重ねてくれた。

オスだって此処に居たいんだ。

誰が来ても、それがオスのつがいだったとしても追い払う。



…。

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