不穏な気配
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せっかく行商の為を思ってオスを貸してあげたのに、
朝起きてすぐに文句を言われた。
いったい、何が気に入らなかったというんだろう。
「もう、ああいう事はお風呂に入った後でお願いしますね?」
「でも主の腕の中で眠れて嬉しかったじゃろ?」
「…それはそうですけど、かなり驚いたんですよ?
もしかして寝込みを襲ってくれたのかな~って」
「主はそんな事しないのじゃ!
するならわしにして欲しいのじゃ」
そう言ってからオスが真に受けたらどうしようかと思った。
少しだけ緊張しながらオスの様子を伺うと首を傾げて笑っている。
きっと会話の意味がよくわかってない。
それを行商も察し、この話は終わりになった。
「それで、なんであんなに疲れてたのじゃ?」
「…え?…それは~その~…あはは…」
「…だいたいわかったのじゃ」
行商はチラリとオスを見た。
多分、オスに会いたくて無理をしたとかそんなのだ。
無理をして行商に倒れられると困るけど、
それだけオスに本気になってくれること自体はありがたい。
「ねぇドーラさん?今日はお風呂に入れるから、
今夜も主さんに抱いてもらっていいですか?」
「ダメじゃ。
あれは街に行ってくれたお礼じゃ」
「えぇー!行商一回に付き、一回だけですか?
…少ないな~…」
朝食の間もずっと少ない少ないと文句を言われた。
行商の居ない数日間、二人きりで良い雰囲気で過ごせた。
だけど、こうして賑やかなのも楽しい。
「でも、無事に帰ってきてくれてよかった」
「主さんも心配してくれてたんですか?」
「ずっと心配してたよ。
早く帰ってこないかなって思ってた。
そういえば、まだ言ってなかったね。おかえりリーフ」
「…えへへ…ただいまです…」
ただ、ああしてメスを出されると言うか、
じゃれ合われると多少はイラっとはする。
三人で過ごした時間が二人で過ごした時間を超えた。
すると、オスと行商の多少のじゃれ合いにも慣れてきた。
そんなある日、一人で森の散策に出ていた行商が血相を変えて戻ってきた。
「何かあったのじゃ?」
「今、森を歩いてたら違和感があって、
私達の他に、誰かいるかもしれません」
「…ん?誰か来てるのじゃ?
リーフの知り合いじゃ?」
「私の知り合いは絶対に来ないと断言します」
「リーフの知り合いじゃないなら…」
平和過ぎて久しく忘れていた恐怖を思い出す。
誰かが、オスを探しに来たのかもしれない。
オスが不安そうに此方を見てくるが、言葉がでない。
「…で、でも…まだいるかもしれないじゃろ…?」
「ええ、歩いた痕跡がほとんどなくって…。
…でも確かに何処か違和感があるっていうか…」
まだ確証はないようだったが行商の勘はよく当たる。
一緒に暮らしてそれがよくわかっている。
不安がどんとん大きくなっていく。
「私、もう少し探してみますね」
「危なくないの?行かない方がいいよ」
「森の中なら誰にも見つからない自信がありますから」
「…でも…」
「…帰ってきたら、ギュって抱き締めてくださいね!」
心配そうなオスを他所に行商は外に向かおうとする。
その足取りはしっかりして、強い意思が込められているようだった。
反対に自分は何をしていいか、わからない。
「…ま、待つのじゃリーフ!…わしは、どうしたら…」
そう言った瞬間、行商は鋭い視線を向けてきた。
少し早足で自分の元まで来ると両肩を掴まれる。
「しっかりしてください!
ドーラさんがちゃんとしてくれたら、私達に敵なんて居ないんです!」
「…リーフ…」
「私が居ない間、此処で主さんを守ってください。
そうすれば、私だって安心して調べられるんですから」
行商の言葉で冷静さを取り戻せた。
そして思い出すんだ。
何が何でもオスを守ろうとしていたあの覚悟を。
「…任せるのじゃ。誰が現れても主を渡さないのじゃ」
「…よし!
あ、でも手を出しちゃダメですよ?
何かあれば大声で私を呼んでくださいね。すぐ戻りますから」
行商は最後に少しだけ笑い、森に向かった。
とりあえずオスを座らせ、後ろから抱き締める。
そして、誰が来てもいいように玄関を睨んだ。
「誰が来ても、主を渡さないのじゃ。
…主も、それでよいじゃ…?」
「うん。僕はずっとドーラと一緒に居るって決めてるよ」
「…絶対、絶対守るのじゃ…」
オスは抱き締める腕にそっと手を重ねてくれた。
オスだって此処に居たいんだ。
誰が来ても、それがオスのつがいだったとしても追い払う。
…。




