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不穏な気配

しばらくしてドーラも目覚めた


三人揃って広間に降りて


食事をしながら旅の話をリーフにしてもらった


「行商は大変じゃな?

 あれほど疲れて帰ってくるとは思わなかったのじゃ」


「いえ、ちょっと無理しちゃったんです

 ちゃんと休みながら帰れば

 全然平気なんですけどね」


「なんで今回は無理したのじゃ?」


「…それは~…その~…」


リーフはチラリと僕を見た


最初は恥ずかしそうに


口をもごもごしていたが


ドーラが何度も質問して、結局根負けした




 理由は僕に会いたいからだった


会える距離まで来ると我慢できず


急ぎ過ぎてしまったと、恥ずかしそうに言った


「なら、起きた時嬉しかったじゃろ?

 わしからの労いじゃ

 リーフだから特別じゃぞ?」


「すごく嬉しかったです!

 帰ってきてよかったなーって思いました!

 …今日もいいですか?」


「ダメに決まってるじゃろ!

 あれは町に行ってくれたら一回じゃ」


「行くたびにたった一回だけですか!

 少なすぎます!」


その後、言い合いは少し続いたけど


賑やかな日常が戻ってきた実感がする




 ドーラと二人で過ごした日々より


リーフを加えてから


三人で過ごした日々の方が長くなった


相変わらず僕に記憶が戻る事はなく、


徐々にこの話題も出なくなった


そんなある日


一人森に行っていたリーフが不穏な事を言いだした


「森に、私達以外に誰かいるかもしれません」


「誰じゃ?

 他の行商人じゃ?」


「だったらまだいいんですけど…

 …もし、もしですよ?

 主さんを探しに来た人だったら、どうします?」


その言葉を聞いたドーラはハッとした


美しい瞳が大きく開き、


玄関と僕を交互に見る


その後、泣きそうな表情に変わって


僕を大事そうに、守るように抱き締めた




 ドーラを慰めながら状況を詳しく聞く


リーフも確証があるわけじゃなくて


どうやら森に違和感があるという


足跡等の痕跡は何一つなくて


でも、それが逆に怪しいそうだ


「あんなに痕跡を残さず移動できるのは

 多分、森人だけなんですよね」


「森人ならリーフの知り合いかな?」


「…いや…

 …なら、隠れたりしないと思うんです…」


それに同郷ならば


この森に来る事は絶対にないと言い切った


状況的には森人で間違いないけど


森人なら此処にはきっと訪れないという


そんな矛盾があった




 リーフが再び玄関に向かう


「私、もう少し調べてきますね」


「…ま、待つのじゃリーフ…

 …わしはどうしたら…」


「…しっかりしてください!」


振り向いたリーフは


腕の中で狼狽するドーラに向かって


大声で一喝した


涙目になっていたドーラが


あまりの大声に全身が強張ったほどだ


「誰にも渡さないって、決めたじゃないですか

 一緒に守ろうって約束したじゃないですか

 …ドーラさんが本気になれば、負ける事はないんです」


「…。」


その言葉を聞いたドーラは僕から離れると


リーフをまっすぐに見つめ


先程と同じ質問を力強くした


「わしはどうすればよいのじゃ」


「私が帰ってくるまで

 此処で、主さんと一緒に居てください」


「わかったのじゃ」


「ドーラさんが守ってくれるなら

 私も、安心して調べに行けますから

 …行く前に、主さんをギュってしてもいいですか?」


ドーラは何も言わなかったけど


少し離れた場所に移動して、背中を向けた




 リーフは駆け寄って


僕に力強く抱き着いた


「…主さん、行ってきますね」


「…うん、無理はしないで」


本当は行かないでと言いたかった


誰かが居るなら危ないのではと


そう思ったからだ


でも、覚悟をした表情を見ると


無理をしないでと


それくらいしか言えなかった


「リーフ、頼んだのじゃ」


「こっちは任せましたよ」


お互いに頷きあった後に


リーフは森に向かった




 僕を椅子に座らせると


ドーラは窓から外を見張った


僕もリーフが心配で外を眺めたかったけど


動くと怒られたから静かにしておく


何もする事はなかった


でも、真剣な顔のドーラは珍しく


そこだけは得をした気分だった


強いて言えばもう少し近づいて見たい


やがてじっと見ていることがバレて


緊張感がないと怒られた


「…わかってるのじゃ?

 主を奪いに来てる奴かもしれないんじゃぞ?」


「でも、誰が来ても僕はドーラと一緒に居るって

 そう言うから平気だよ」


「…それは嬉しいんじゃけど…

 もうちょっと警戒心をじゃな?」


「それに仲良くしてる所を見られた方が

 相手も諦めてくれるんじゃないかな」


「…それも…そうじゃな…?」


その言葉を聞いて納得したのか


ドーラは此方に近づいて


椅子に座る僕を後ろ側から抱き締める


「…絶対、わしが守ってみせるのじゃ」


「ありがとうドーラ

 僕もずっと此処に居たい」


少しだけ空気が和み


他愛のない話をするようになったけど


視線だけは僕もドーラも外に向けていた


しばらく何もなかったけど


窓越しにリーフの走る姿が映った


…。

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