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久々の一人旅

泣き止むまで、きっとかなりの時間が掛かった。

でもその間、彼はずっと手を繋いでくれた。

それから、落ち着いてから彼と沢山の話をした。



「きっと、主さんが私を助けてくれた時から好きなんです」

「あはは、一番最初だね」

「あの時は明確に好きだって感じじゃなかったんです。

 でも、あれがきっかけなんだなって今は思います」

「…そう言えば僕もリーフに助けて貰ったんだよね。

 後でドーラに聞いたんだけど、手当のお礼を言ってなかったね」

「ふふ、でもあの怪我は私のせいですから、お礼は必要ないですよ」

「助けて貰ったのには変わりないよ。

 遅くなったけど、あの時はありがとう」

「…はい…。…無事で、よかったです…」



淡く光る湖を眺めながら話は続いた。

やがて夜が深まり、流石に彼も眠ってしまう。

でも、手はまだ繋がっている。


気持ちを伝えるのは怖かった。

怖かったけど、でもすっきりした。

彼は私の物にはならないし、私より好きな人が居る。

それでも私の気持ちを知ってくれて、その上で手も繋いでくれる。

今はこれだけでいい。

何かが満たされた私は、一人で静かな湖を眺めながら朝を待った。


明け方、夜鳥の群れが舞い戻ってきた。

木々を揺らしながら枝に止まり、少し騒いだ後に巣穴に戻る。

寝室で寝てる時はあまり気にならなかったけど、

こうして近くで聞いていると結構騒がしい。


その音を聞いてか、龍人がもぞもぞと動き出した。



「あ、おはようございますドーラさん」

「…流石に外だと喧(やかま)しいのじゃ…。

 …主はこれでも起きないからすごいのじゃ…」



龍人はまだ眠そうに目を擦りながら身体を起こす。

そして寝てる彼の頭を撫でた後、もう一度眠る体勢を取った。



「ねぇドーラさん。私、昨日主さんに好きって言っちゃいました」

「…そうか…主に…。

 …なんじゃって!?話が違うのじゃ!」

「え?そんな事ないですよ?」

「じゃって記憶が戻ってから告白するって言ったのじゃ!」

「ですから、好きって言っただけです。

 付き合ってとかお嫁さんにとか言ってないです」

「…好きって言っただけ…じゃ…?」



混乱してる龍人に彼との会話をできるだけ詳細に説明した。

私が彼を好きだと知って欲しかったと言うと、

龍人は首を傾げながらもなんとか納得してくれた。



「…主の反応を聞く限り、まぁ…よいか…?」

「最初に好きって言ったら手を離されそうでしたよ?

 ドーラさんが知ってるって言ったら安心してましたけど」

「…くふふ…主は偉いのじゃ」

「約束通り、私は抜け駆けはしないです。

 記憶が戻って、ドーラさんがお嫁さんになる約束をするまで待ってます」



昨夜の反応を見る限り、私を恋愛対象として好きかどうかは微妙だ。

でも、可能性を感じる事はできた。

やっと意識してもらったわけだから、何もかもこれからだ。



「ドーラさんはどうやって好きになってもらったんですか?」

「ん?どういう事じゃ?」

「主さんはドーラさんの事、いつ好きになったのかな~って」

「ん~、好きって言ってくれたけど、いつからかは知らないのじゃ。

 今度聞いてみるのじゃ」



彼が起きるまで彼との出会いを改めて聞いて過ごした。

彼の事が気になってから聞くと、前に聞いた時とは違った印象になった。

当初は彼の出自について何かわかるかなと聞いていたけど、

今は彼の性格や好み、その辺ばかり気になった。


彼が目覚めた後、大樹に戻って遅めの朝食を取った。



「それじゃ、私は街に行きますね」

「これから行くのじゃ?」

「天気も良さそうだし、暖かくて旅にはいい日ですから」



大走鳥で走り続ける事が前提だが、一番近い街まで急げば丸一日くらい。

普通なら途中で野営を挟み、二日掛けていく事が多い。


その反対に荷物がある帰り道はなるべく休憩を取らずに走りたい。

万が一にも雨が降るかもしれないし、朝露でも粉が心配だ。



「二日掛けて行って、品物を集めてから帰ってきますね。

 普通なら早くて三日から四日ってところですかね」



その時の依頼によって数日間街に滞在することはある。

下手をすれば別の街まで行く事もしばしばある。

今回は食料品だけなのですぐ集まるはずだ。


ささっと最低限の旅支度を済ませた後、

徹夜明けにすっきりしたくて、お風呂に入らせてもらった。

大樹はいつでも好きな時に身体が洗えるから最高だ。

しかし、長湯をすると疲れもするから今回は早めに上がった。


お風呂から上がると、出掛けていると思っていた龍人達は椅子に座って話をしていた。



「あれ?今日は出掛けないんです?」

「主と一緒にリーフを見送ろうとしたのじゃ」

「見送ってくれるんですか?」



そんな事思ってもみなかった。

行商人が行商に行くのは当たり前で、見送られる事はあまり経験がない。


龍人達と一緒に庭先に出て、荷物を大走鳥に付ける。

荷物を付ける時のコツは左右の重さを均等にしてあげる事。

そうすれば大走鳥は元気に走ってくれる。



「それじゃ、行ってきますね!」

「いってらっしゃいリーフ」

「気を付けて行くんじゃぞ~!」



大走鳥に乗り、最後に後ろを振り返って手を振る。

二人もそれに合わせ、此方を見ながら振り返してくれた。

普段と違う出発に気恥ずかしさもあったけど、とてもいい気分だ。


森が終わるまでひたすらまっすぐ進む。

すると広大な平原に出る。

急いでる日はこの平原を突っ切って走り続けるけど、

余裕がある日は少し迂回して、遠回りになるけど違う森伝いに移動する。


ある程度進み、適当な場所で野営する事に決めた。

野営と言っても大走鳥に木の実と水を与え、一緒に仮眠するだけ。

本来なら水辺を探して身体を洗うけど、今日はお風呂に入ったから大丈夫。


一人になるのは久しぶりだ。

夜になり、木々の隙間から空を見上げる。

彼と二人で眺めた景色と大分違う。



「…はぁ…」



大走鳥に寄り掛かり、厚手の毛布に包まっているから寒くはない。

森の中で風もなく、湖なんかより全然過ごしやすい。

それに森人はこうして森の中に居る時が精神的に一番落ち着く。


はずなのに、何かが足りない。

食事だっていつもは保存食なのに、龍人がパンと木の実を持たせてくれた。

湖の時と一緒の食事。

あんなに美味しかったのに、一人で食べると味気ないものに感じる。


もう寝てしまおうと早々に横になった。

今頃、龍人達は二人で眠っている。

それが当たり前のはずなのに、龍人が羨ましいと感じる。


よくない考えだ。

頭を左右に振って、悪い思考を振り払う。


もう一度、夜空を見上げながら彼との会話を思い出す。

"一緒に居たいって思うのは、好きってことだよね?"



「…私も、一緒に居たいです」



彼の言葉と手の温かさを思い出す。

すると嘘のように落ち着いて、穏やかに眠る事が出来そうだった。


…。

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