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オスの吐いた弱音

ドーラと共にリーフを見送った


途中で立ち止まり、元気いっぱいに手を振る姿に


あの様子なら大丈夫だろうと安心できた


でも、寂しいのには変わらない


僕達はリーフが見えなくなった後も


しばらくはその場を動けずにいた




 帰ってくるまでどれだけ早くても五日、


品物の集まり具合では


さらにもう三日ほど掛かる予定らしい


その間は久しぶりにドーラと二人きりだ


当たり前だったはずなのに


意識するとなんだか不思議と緊張してしまう


「…そっ…そろそろ、大樹に帰るのじゃ…」


ドーラも少し緊張している様子だ


出会った頃の距離感を思い出す


それでも、いつもと変わらずに


手を繋いで大樹に戻った




 リーフが居ない大樹は


なぜか以前より広く感じて落ち着かない


「ドーラ、展望台に行かない?」


「わしも誘おうと思ってたのじゃ

 もしかしたらリーフが見えるかもしれんのじゃ」


「あはは、同じ事を考えてたんだね」


思いついてすぐ階段を上がり始めたが


当然、リーフの姿は見えなかった


さっきまで一緒に居た彼女は


この広い森を抜け出して遠くにある町に行く


ドーラも遠くへ行ってみたいと


そう思う事があるんだろうか


正直、僕は思わなかった


だからなのだろうか


一人で置いていかれる孤独感に襲われたのは


「…ドーラは、ずっと傍に居てね」


思わず口走っていた


縋るような、情けない弱音が出てしまった


でもそんな僕に対して


ドーラはなぜか嬉しそうに寄り添ってくれた


「…くふふ…

 …また、主と同じ事を考えていたのじゃ…」


ドーラも同じ思いだった


二人して森を出る気がないなら


きっと一人ぼっちになることはない


そう思える事が心から嬉しかった


…。


 雲を眺めるだけの時間は久しぶりだ


行商はボーっとするのが苦手なのか


眠くないなら森を散策しませんかと


よくそう言って誘ってくれた


誘ってくれるのは嬉しかったし


何をするのか決めてくれるのは楽だった


だけど、こうしていると


のんびりとした時間も良いものだと思う


「リーフに見られてないと不思議な気分じゃな」


「あはは、なんとなくわかるよ」


思えばオスも大胆になった


普段、尻尾が手の届く位置にあるなら


ずっと触っていて


それを行商にやらしいと怒られていた


一時はこっそり触るようになったが


目が届かなくなった今、遠慮がなくなった


「尻尾も触りたい放題じゃし…

 たまにはよいものじゃな?」


「尻尾はすごく嬉しいね

 …でも、早く帰ってきてほしいな」


「…くふふ…主は我儘じゃ!

 そういえばリーフと何してきたのじゃ?

 此処に来たのじゃ?」


ふと思い出し


二人が何をしてたのか気になった


聞けは大したことはしておらず、自分の真似だった


しかし、重要なのはその後だ


行商は勇気を出してオスに告白したらしい


湖で伝えたあの気持ちを、もう一度本気で




 どういう会話の流れか知りたかった


覚えている限りでいいと、事細かに聞いていく


その中で尻尾や角が無くても、


という部分が気になる


「…尻尾と角があるから

 わしを好きになってくれたのじゃ?」


「確かに尻尾も角も大好きだよ

 …でも、もしなくてもドーラを好きになってた」


「絶対じゃ?」


「うん、絶対」


「…くふふ…それはどうじゃろうな~」


「本当だよ?

 僕はドーラが大好きだからわかる」


行商は嘘がわかると言っていた


自分には今のオスの言葉が嘘か本当か見抜けない


でも、そうだったらいいなと思う




 一夜明ければ慣れたものだ


二人だけの時間が貴重な気がしてきて


何をするでもなく


一日目はただオスとじゃれて過ごした


それからの日々も


少しだけ日課を済ませてから


残りの時間をただのんびりと過ごす


そんな素敵な日々が七日間も続いた




 夜、食事の準備をしていると


行商が沢山の荷物を抱えて


疲れ切った顔で帰ってきた


「…ただいま戻りました~…」


「おかえりじゃ

 …大荷物じゃな?」


「…まだまだあります…

 …ピーちゃんから降ろした荷物が外に沢山…」


「まだあるじゃ?

 ん~、主、頼めるかの?」


料理中なので手伝いをオスに任せた


一瞬、自分からは姿は見えなくなるが


まぁこれは仕方ないだろう


二人きりの時間が終わるのはとても残念だ


同時に、無事に行商が帰ってきたのは


ちゃんと嬉しく思った




 荷物はとりあえず玄関に置いてもらった


仕分けるのは明日でもいい


疲れ切ってる行商に


まずは食事を食べさせてお風呂を勧めた


「…お風呂、浸かりながら寝ちゃいそうですね…」


「なら、もう寝るじゃ?」


「…いいですか…?

 …実はほとんど寝てなくて…」


「せめて歯だけは磨くのじゃ」


歯を磨いた行商は一人で階段を上った


自分とオスは軽くお風呂を済ませ、


追いかけるように寝室に向かう


…。

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