抑えきれなかった気持ち
龍人に相談してから数日が過ぎた
相変わらず彼の記憶は何一つ戻らない
その間、私と彼の関係も何も変わらずで
後一歩踏み込みたい気持ちがあるのだけれど
それを龍人に相談する機会もなかった
でも、急に彼と二人で話す時間ができた
湖で星を眺める予定だった
星を眺めて夜を明かし、明け方に帰るはずが
早々に龍人だけが眠ってしまったのだ
「眠っちゃいましたね」
「今日は早かったね」
「起こします?」
「いや、寝かせてあげようかな」
彼は胸の上で眠る龍人を撫でた
龍人の方も寝ているはずなのに
器用に彼の服をギュッと掴んで離す気配がない
「重くないですか?」
「全然平気だよ
それに温かくてちょうどいい」
「温かいのは羨ましいです
夜は結構冷えますもんね」
景色は幻想的だ
ただ冷やされた風は寒くて
人肌が恋しいと思わなくもない
「もっと近づいておいでよ
ドーラが温かいからくっつけば温かいよ」
「…いいんですか?
…それじゃ、失礼して…」
寝ながら寄り添うのは
龍人に気を遣えば断るべきかもしれない
けど、誘われたのだから、これは仕方がない
心の中で言い訳して
目一杯に身体を寄せた
そして空いているならと
勇気を出して、勝手に手を繋いでみる
彼は何も言わなかった
最初は戸惑っていたようにも感じるけど
そっと優しく握り返してくれた
肯定してもらってから
改めて許可を取りにいくのはずるいかな
「…こうしてても、いいですか?」
「これもドーラも真似?」
「いいえ、真似じゃないです
私の意思で、繋いでみたかったんです
…けど、それだと、ダメですか?」
「いいよ
リーフも温かいね」
そんな何でもない一言が嬉しい
さっきまで寒さを感じていたのに
今は耳まで熱くなっていた
手を繋いだままで星をしばらく眺めた
龍人が寝ているから会話は控えめで
彼も寝たかなと思って
手に力を込めると必ず握り返してくれる
心が通じ合ってる
なんて、それだけの事で思ってしまう
気持ちを伝えたら彼はなんて言うのかな
彼は物腰が柔らかくて
言ってしまえば優しいだけの人
純粋だし、こうしても下心一つ見せない
まぁ、逆に言えば私はそういう対象外で
彼の中ではただの友人なんだろう
そう思うと少し寂しい
気持ちを伝えれば迷惑になるかもしれないけど
少しくらい意識して欲しい
それくらいの我儘は許されるのだろうか
そろそろ眠ろうか
そう彼が声を掛けてくれた
空を意識を戻せば
確かに夜も更け、良い頃合いだと思う
「私、主さんが好きなんです」
おやすみなさいというつもりだった
考えすぎて、つい口が滑ってしまった
「あっ!
い、今のは違くて…」
「あはは、僕もリーフが好きだよ」
「…あ、あの…えと…ありがとう、ございます…
…おやすみなさい…」
「うん、おやすみリーフ」
取り繕うようにお礼を伝えて毛布を頭からかぶる
彼からの返事は軽い感じで
真剣に受け止められてないのは明白だ
冗談だと思われたのかもしれないし、
友人として好きとか、それくらいの意味
それでも、好きだと言う言葉に嘘は感じない
(…彼は、私が好き…)
どれだけ軽くても、好きは好き
少しだけの満足感を胸に抱き
私は眠れない夜を過ごした
早朝、龍人がもぞもぞと動き出した
大きな欠伸をして辺りを見渡し
彼に起きる様子がないと判断したようで
毛布を掛け直し、二度寝しようとしている
「おはようございます、ドーラさん」
「リーフも起きてたんじゃな
おはようじゃ」
「私、主さんに好きって言っちゃいました」
「…なんじゃって?
…そっ、そっ、それで…主はなんて…?」
「…軽く、流されちゃいました…
…全然、意識してもらってないみたいで…」
「…ふぅ…
…それは、残念じゃな…?」
残念と言いながら胸を撫でおろしてる
龍人的には付かず離れずで
深い関係にならないままが望ましいのだろう
「今、ホッとしませんでした?」
「…いや?
ちゃんと残念じゃな~って言ったのじゃ」
「私、嘘がわかるんですよ」
その言葉に龍人は目線を泳がせる
私じゃなくても嘘だってバレバレだ
まぁ、それを咎めるつもりはない
彼が寝ている隙に
龍人から仲良くなる秘訣を聞き出そう
…。




