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恋の相談

 数日が経過した


リーフが遊びに来ているという感覚から


一緒に暮らしているという認識に変わった


家族が増えると賑やかで


日常的な作業の効率もとてもよくなった


「ピーちゃんとお別れしなくてよかったのじゃ」


「私よりピーちゃんですか?」


「ん~、同じくらいじゃ」


「気に入ってくれたのは嬉しいですけど

 そこは私って言ってほしかったですね」


最近、時間があれば大走鳥に乗る練習だ


ドーラはかなり乗り慣れて走る事もできる


僕も歩くくらいなら乗れるけど


ドーラの背中に掴まってる方が好きだった




 練習場所を湖から丘に変えた


傾斜があるから平地より難しいらしい


「いいですね?

 いつもと感覚が結構変わりますから

 慣れないうちはゆっくり走ってくださいね?」


「わかったのじゃ」


「それと、森の中には入らない様に

 木々の間を走るのは私も難しいんですから」


最初はドーラ一人で練習するようだ


僕達は丘の木を背にして座り、


元気よく走り回るドーラを眺める


時折、僕の視線に気づいたドーラが


手を振ってくれるけど


手を離さない様にとリーフに叱られていた




 いつの間にかすぐ隣にリーフが来ていた


肩と肩が触れるほど近い


普段ならその場所にドーラがいるはずだ


「…肩、借りてもいいですか?

 …ちょっとだけ、ドーラさんの真似してみたくて…」


「僕の肩でいいならいいよ」


ドーラの真似というには控えめだった


触れている事は触れているけど


ほとんど負荷を感じない


「もっと体重掛けて平気だよ?」


「…いいですか?…えへへ…」


僕の言葉にもう少しだけ寄り掛かってくる


ドーラとは違う温かさに


少しの違和感を覚えるけど


リーフがとても嬉しそうだから


僕も嬉しく感じる




 穏やかな時間は続かなかった


僕達に気付いたドーラは


息を荒げながらこちらに向かってくる


そして、隣に座るリーフを強引に遠ざけた


「何をしてるのじゃ!

 そこはわしの場所じゃからダメじゃ!」


「…やっぱり、ダメですか…?」


「わしの主なんだから当たり前じゃ!

 …まぁ、でも…

 …空いてるあっち側なら、リーフならよい…」


「ほんとですか?

 私はどっちでも嬉しいですよ」


一時はどうなるかと思ったけど


二人とも納得したみたいだ




 リーフは改めて反対側に座り、


ドーラも休憩をしていくようだ


「でも、ドーラさんも乗り慣れましたね

 私達に気付いて近づいて

 手際よく降りてましたからね」


「主に寄り掛かるリーフを見たら

 身体が勝手に動いたのじゃ」


「ちょっと真似しただけじゃないですか

 …私に手を出さない約束

 まさか忘れてませんよね?」


「…。

 …今のは、ちょっと動かしただけじゃ」


「…うーん…まぁ、いいでしょう」


そういって僕達は笑いあった


出会った時を思い出せば


信じられないくらい二人は仲良しに見える


…。


 笑いあった後も少し練習をした


今度は注意深く監視してたけど


行商が抜け駆けする様子はなかった


暗くなる前に余裕をもって大樹に戻り


玄関を開けようとしたところで


なぜか、行商が自分だけを引き留めた


「わしだけじゃ?

 …主を一人にしたくないんじゃけど…」


「ほんの、少しだけでいいです!

 主さんは此処から見える場所に

 座って待っててください」


見える場所ならまぁ、と了承した


一人で大樹に入るオス


大人しく椅子に座ってはいるが


その姿はとても寂しそうに映る


「手短に頼むのじゃ」


「ずっと考えていたんですけど

 …私、主さんに好かれてますか?」


「それは、どういう…」


意味がわからず首をかしげる


オスは行商を嫌っている節はない


よく思い出すと少し腹が立つけど


寄り添われてた時、ある程度嬉しそうだった




 詳しく話を聞けば行商の不安もわかる


オスの記憶が戻ったら


行商もつがいになる約束をしている


しているが、まだオスに許可を取ったわけではない


だからもしオスに拒まれたらどうしよう


という事だった


「お嫁さんにしてくれるか

 今は聞いちゃダメなんですよね?」


「ダメじゃ!

 わしじゃって、ちゃんと聞いたわけじゃないから…」


「…聞いてみたらどうです?

 それも先に約束してもらえば…」


「…。」


無言で首を振り、意思を示す


まだダメだ


まだ怖い


その気になって、万が一拒まれた場合


そんな想像をするだけで今すぐ泣きそうだ


だから、まだ早すぎる




 リーフも此方の気持ちを察したのか


それ以上は食い下がらなかった


「…だからですね?

 記憶が戻る前にできる事はしたいんです

 …さっきみたいに、もう少しだけ

 好かれる努力をしたいわけです」


「好かれる努力じゃ?」


「ドーラさんから見てでいいんですけど

 …私、主さんの好みですか?」


そう言われて改めて行商を見る


確かに尖った耳以外、主と基本は同じに見える


ただオスが好きなのが自分なのであれば


角も尻尾も持たない行商は


果たしてこのままお嫁さんになれると


はっきり言える自信はなかった


「…確かに尻尾も角もないし…

 …もしかしたら、ダメかもしれんのじゃ」


「えぇー!

 …本当にそう思いますか…?」


正直に口にしたら行商が涙目になってしまった


オスはよく尻尾や角を触りたがるから


それがない行商は確かに不利だ


「…私だって…

 …もうその気になっちゃったんですもん…」


その気にさせたのは自分だ


これで行商だけ拒まれたら流石に気まずい


多少、オスにちょっかい出す事も


許してあげるべきなのかもしれない


…。

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