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行商の感と分岐点

 静かになってから少し時間が経過した


そろそろ声を掛けようか迷っていると


小さいけど、でも確実にため息が聞こえた


「…大丈夫じゃ?」


「…実はあんまり大丈夫じゃないです…」


「…体調が悪かったら寝た方がよいのじゃ」


本当は相談したい事があった


でも体調が優れないなら仕方ない


諦めて眠ろうと


オスの腕を広げ、眠る姿勢を作った途端


行商がとんでもない事を言い放った


「…私、主さんの事が

 好きになりそうなんですけど…」


確かにそう聞こえた


でも理解が追い付かず、頭の中でただ木霊した




 聞きたい事が沢山ある


だけど何から聞けばいいか


迷いに迷って口だけがぱくぱくと動いた


「…な、なっ…じゃ、じゃって…主はわしの…」


「わかってますから、落ち着いて聞いてください

 …主さんを盗る気は、少しも無いですから…」


その言葉に少しだけ安心できた


今度はこっちが大きくため息を吐く番だ


「…好きになりそうな気がしたから…

 …だから、離れようと…」


急に帰ると言い出した理由はこれか


それは身を引く事に他ならない


盗る気はないと言った行商の言葉も


素直に信じる事が出来た


であれば引き留めて悪い事をした




 しかしだ


相談をするのであれば


オスに好意があった方が都合が良い


「…リーフに、相談があったのじゃ」


「…なんですか…?」


「…主の記憶が戻るまで

 一緒に暮らしてほしいのじゃ」


「…それ、今の私にする相談です…?」


「まぁ聞くのじゃ

 できれば、記憶が戻ってもしばらく

 一緒に暮らして欲しいのじゃ」


行商は戸惑いはもっともだ


けれど、オスと暮らし続ける為に


できれば協力して欲しい


…。


 怒りを買うよりは全然ましだが


龍人の考えが理解できなかった


明らかに私にする相談じゃない


けど、その相談は本心からに思えた


「…一応、詳しく内容をお聞きしても?」


「…心配な事が二つあるのじゃ…

 …えっと、まず、主の記憶が戻った時じゃ…」


彼の記憶が戻ったとして


龍人を恐れるかもしれない


だからその時に、龍人を恐れない私に居て欲しい


彼に龍人は怖くないんだと説得して欲しい


そういう話だった


「…リーフが居れば安心するじゃろ…?

 …自分以外に、他の種族が居れば主じゃって…」


「確かにまぁ、そうですね」


実際、こうして龍人と話す事ができるのは


彼と仲良さげにする姿を見たのが大きい


「…わしが自分で怖くないと言っても

 時間が掛かりそうじゃろ…?」


自分を怖がる相手をどう説得するのか


かなり苦労するだろうし、


そもそも成功するか怪しい気がした


「…じゃあ、それは私が居ればいいとして

 もう一つの心配事はなんです?」


「…もう既につがいが居た場合じゃ」


それは考えてなかったけど


その可能性は低いように感じる




 前回、町に行った時は平和だった


行方不明者も尋ね人の噂もなかった気がする


ずっとずっと遠い町ならわからないけど


そんな遠い場所からこの森には辿り着かない


だから多分だけど、この近辺で


大っぴらに彼を探してる人はいない


でも、もし仮に居たとしてもだ


「…私が役に立てますか?」


「もちろんじゃ

 わしと一緒に主のつがいになってほしいのじゃ」


「…ごめんなさい…

 …全然、意味がわからないのでもう少し詳しく…」


「…ん-と、最初から説明するとじゃな?」


何をどう考えればそうなるのか


混乱する頭を精一杯稼働して


龍人の話に集中する




 何がどうなっても彼を帰さない


それは彼から言い出した事らしいから、それに文句はない


でもつがいが居た場合、悲しませてしまうから


ならこっちはつがいを二人にすればいい


簡単に話をまとめるとこんな感じだった


「…そのうちの一人が私です?」


「ダメじゃ?」


「ダメっていうか…

 もうちょっと考えさせてほしいというか…」


急に彼のお嫁さんになってと言われても


流石に即答できる話じゃない


でも、少し想像するだけで


胸の奥が温かくなった


もし彼が私でもいいって言うなら


なんて、気持ちが傾きかけているのがわかる


「記憶が戻って、つがいが居なかったら大丈夫じゃから…」


「…それ、ずるくないですか?」


「…ずるいじゃ?」


龍人の言葉に危機感を覚えた


行商人としての感が


今が最後の機会だと告げている


今受けなければ


一度考えが変わってしまえば


二度と、彼と共に生きる機会は失われる




 覚悟を決めるしかない


それに言葉にして約束をする事が大事だ


仮に彼の記憶が戻らなかったとしても


仮に記憶が戻り、誰とも結婚してなかったとしても


何があろうと私をお嫁さんの一人として加える


それを龍人に約束させなければいけない


「…つがいが居なくてもじゃ…?

 …むぅ…じゃが、それじゃと…」


かなり悩んでいる


きっと龍人にとっても保険のつもりだったはず


寝て起きれば


この話自体が無くなるかもしれない


だから、保留にされるのも危ない




 龍人の背中を押すように条件を加えた


龍人が特別のまま、彼の一番で居られるように


「私は二番目でいいです

 それに、ドーラさんの許しがなければ何もしませんから」


「…何もじゃ?」


「キスもしませんよ」


「…それなら…よいか…」


何方に転んでもおかしくなかったが


なんとか龍人を納得させられた


まだ彼の気持ちも聞いていないけれど


お嫁さんになれるかもしれない


その可能性が生まれただけでもかなり嬉しかった


その後、明け方近くまで


今後について龍人と話し合いを続けた


…。

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