色々なお礼
ある朝、朝食が済んだ後に龍人は緊張した顔で外に向かった。
その背中を彼と二人で見守る。
そして一人で大走鳥と対峙する龍人を玄関からこっそりと見守った。
「…あっ!木の実食べてますよ主さん!」
「ほんと?よかった~」
やっと龍人一人で大走鳥にご飯を上げる事に成功した。
すぐに私達も外に出ると嬉しそうに龍人が振り返る。
「やったのじゃ!食べてくれたのじゃ!」
「頑張りましたね!これできっと乗せてくれますよ!」
「本当じゃ!?…さっそく、今日乗れるのじゃ…?」
「試してみましょうか!
練習する場所はそうですね~…湖がいいかな?」
龍人は嬉しそうに残りの木の実を食べさせる。
そんな中、少し不安そうな声で彼が私に声を掛けてきた。
「…ねぇ、僕はまだ乗れない?」
「主さんは最初から平気ですよ?
森人に似てるからなのか、警戒されてませんね」
「ほんと?僕も乗れる?」
「大丈夫ですよ!
ドーラさんはドラゴンだから、どうしても慣れさせないといけなくて…」
「そっか。…本当にドーラに慣れてくれてよかった」
慣れてくれてよかったと言ったけど、
もしかして私にも言っているのかもしれないと感じた。
龍人を見る彼を見て、不意に彼が優しさが少し怖いなとも思った。
龍人は彼に対して異常なくらい過保護だ。
だけど、彼も負けないくらい龍人を大切に思っている。
ドラゴンのような執着心は無くても、気持ちが強くて重い。
そんな感情を向けられるのはどんな気持ちなんだろう。
龍人を少し羨ましく感じるのは、どうしてなんだろう。
それから、すぐに湖に向かった。
大走鳥は座らせた状態で、まずは龍人を乗せてあげた。
「いいですか?基本的には足の力で身体を支えて、
首じゃなくて、首元を掴んで自分の身体を支えてくださいね」
「こうじゃ?」
「そうです!間違っても首を絞めないように!
もし落ちそうになったら伏せるように身体に抱き着いてくださいね」
交代で彼にも座ってもらい、同じ説明をした。
二人とも想像より真剣に取り組むので私も指導に熱が入る。
「それじゃ、立ち上がりますからね!」
「おぉー!…意外と高いのじゃ…」
「でしょ~!それじゃ、ゆっくり歩きますね。
おいで、ピーちゃん」
「ピーちゃんじゃ?」
「この子の名前です!ピーって鳴くからピーちゃんです」
「ピーちゃん。わしはドーラじゃ。よろしくじゃ」
龍人に挨拶を返すように大走鳥がピーっと鳴いた。
大走鳥も龍人に慣れただけじゃなく、懐いているようだ。
それもそうか、あれだけ質の良い木の実をあげてるんだもの。
それに優しい性格をしているから、それが大走鳥にも伝わったのだ。
しばらくゆっくりと歩いた後、彼と交代してもらった。
「じゃ、今度は来た道を戻りながら主さんが乗ってみましょうか」
「う、うん…」
彼は緊張した様子で大走鳥に座る。
そして大走鳥が立ち上がるとかなりバランスを崩した。
あわや落ちる寸前だ。
「危ないですよ!もっと足に力を入れて挟んでくださいね」
「…ピーちゃん、苦しくないかな?」
「ずっと走るから身体が丈夫なので、全然平気です!」
「そっか。苦しかったら教えてねピーちゃん」
彼の優しさが大走鳥にも伝わったのか、龍人と同じように鳴いて返事をした。
それからも交代しながら歩く練習を続ける。
最初こそ危ない場面もあったけど、すぐに安定してきた。
二人とも楽しそうにしていたけど、
龍人が自身の足を気にしだした。
「…太ももが痛いのじゃ」
「ドーラも?実は僕も…」
「普段使わない筋肉を使ったからですね。
今日はこれくらいにしておきましょうか」
「そうするのじゃ。実はお尻も違和感があるのじゃ」
「最初はそんなものですよ。
落ちないように、変に力が入ってるんです」
足を休ませるために休憩していく事にした。
少し休んで大樹に戻る予定だったのに、龍人が寝てしまった。
「珍しくドーラさんから寝ちゃいましたね」
「あはは。はしゃいでたもんね」
龍人は彼に寄り掛かりながら、腕をギュッと掴んでいる。
鋭い爪が触れているというのに、彼は微塵も気にした様子が無い。
気付けば、彼と二人だ。
龍人抜きで話す機会はあまり無いから、変に緊張する。
「…私、二人の邪魔になってないです?」
「なってないよ。どうしてそう思うの?」
「私に恋人が出来て、二人で暮らし始めたとしたら…、
…少しはそう思うかなって…」
珍しい機会につい聞いてしまった。
龍人は毎日私を引き留めるけど、彼はいつも静かだ。
だから本当はどう思っているのか、ずっと気になっていた。
「僕もドーラも、リーフが居てくれた方が嬉しいよ」
「…本当です?」
「本当だよ。お茶も美味しいし、ピーちゃんに乗れるし、話してると楽しい。
それになにより、ドーラが嬉しそうなんだ」
彼は寝てる龍人に視線を落として優しく撫でた。
その仕草は自然で、よくそうしているんだろう。
その優しい眼差しを独占する龍人に、やっぱり羨ましさを感じる。
「…なら、もう少しだけお世話になりますね」
「ほんとにいつまでも居て大丈夫だよ。
そうだ、ちょっとピーちゃんについて聞きたいんだけど…」
彼の言葉に嘘は無かった。
つまり、龍人と二人きりの時間より私を交えた時間を優先してくれた事になる。
それが龍人の為だとわかっているけど、私が求められたような不思議な気分。
少し浮ついた気分のまま、他愛のない話をしてるうちに彼も眠った。
二人で寄り添いあい、穏やかに眠っている。
「…いいなぁ…」
自然とそんな言葉が零れた。
具体的に何が羨ましいのかわからない。
でも、見てると私も恋人を探そうかなって気分にさせられる。
けど、恋人候補の当ては無い。
職業柄、私は人の悪意に気付きやすい。
だからきっと、私に本当の恋なんてできやしない。
でも、思えば彼から悪意を感じた事はない。
ふいに、龍人と同じ気分が味わいたくなった。
雰囲気だけで良いから、真似だけでいいからと、
身体が触れるか触れないか程度に寄り添って、目を閉じた。
普段なら他人が居る場所で眠る事なんてしない。
まして、素性の知れない男性の隣でなんて、本来ならありえない。
でも、この人は大丈夫だと確信してる自分がいる。
「…色々なお礼という事で、いいですよね…?」
大走鳥の練習台やお茶のお礼を貰う建前で、
もう一歩だけ近づくことを許して欲しいと思った。
勝手に彼の肩を借り、少しだけ体重を預けた。
想像してたより頼りがいがあって、不思議な居心地の良さを感じる。
結局眠りはしなかったものの、かなりの時間をそうして過ごしていた。
…。




