味のわかる彼
あれ、今日で泊まり始めて何日目なんだっけ。
一応数えていたはずなのに、曖昧になってきた。
毎日、後一日だけって思ってる。
此処は本当に居心地が良い。
自由で静かで、理想的な暮らし。
そんな生活の中、気になる事は一つだけだった。
「ねぇドーラさん」
「なんじゃ?」
「私の目の前でそれするの、控えたりしませんか?」
「何をじゃ?」
「…ドーラさんがいいなら、いいんですけどね…」
龍人達は悪びれもなく私の目の前でキスをする。
最初は私が視線を逸らした隙を選んでいたのに、
最近は慣れてきたのか、ところかまわずキスをし始める。
普通、人目があるなら遠慮すると思っていた。
でも森で暮らす二人はその感覚がわからないらしい。
まぁ確かに、此処は本来二人の縄張りだし、
本人達がいいなら別に構わない。
しかしだ。
目の前でされると流石に気にはなる。
できるなら隠すふりだけでもしてくれたら、
私だって見て見にふりもできるのになと思った。
とりあえず、これ以上過激にならなければ大目に見よう。
あまり度を越すようであれば、
その時は友人として軽く助言はしてあげよう。
それはきっと、今後の二人の為になるはずだから。
「ところで、今日は何をするんです?」
「えーっと、薪が少ないから集めたいのじゃ」
「手伝いますね!」
「今日もよいのじゃ?」
「私だって使わせて貰ってるんですよ?
沢山集めましょうね!」
想像してたよりも龍人達は小まめに働いていた。
時には木の実や薪を集めたり、たまに洗濯や掃除をする。
それが一段落すると丘や湖に赴き、お昼寝をするのがお気に入りみたいだ。
二人がお昼寝をしてる最中、龍人が寝ている時間だけが私の自由時間だ。
内緒にしてるわけじゃなく、許可を貰った上で森を散策している。
一人での散策は皆でする時とは違う楽しみがある。
多分、森人としての習性なんだろう。
森の何処に何が生えているか、端から端まで詳しく知りたい。
せめて大樹の周辺の植物を全て把握するまで、お昼寝に参加する気にはなれない。
そして今日は貴重なハーブを見つけられた。
とても充実した気分で龍人達の元に戻る。
まだぐっすりと眠っていた龍人を揺すり、声を掛けた。
こうして触れながら寝ている龍人を起こすようになるなんて、
少し前の私なら想像すらできなかった。
何でも慣れるものだとしみじみ思う。
「そろそろ起きませんか?夜、眠れなくなりますよ?」
「…んんっ…後…もうちょっとだけじゃ…」
「ダメです!ほら、良いハーブが見つかったんです!
主さんに美味しいお茶を飲ませてあげたいんでしょ?」
「…そうじゃった!」
私の言葉に龍人は飛び起きた。
少し前、私は龍人に代価を払って木の実やハーブを採りたいと相談した。
そこで龍人が求めたのは私の身体。
もちろん、いかがわしい意味ではなく、
手取り足取り、お茶の淹れ方を事細かに教えて欲しいという事だった。
大樹に戻った私は約束通り、本格的にお茶の淹れ方を教え始める。
龍人は鼻が良く利くみたいで、本当に良いハーブを選ぶ。
「今日はこれとこれじゃ」
「いいですね!
じゃ、こっちの葉は軽く千切りましょうか」
「わかったのじゃ」
基本的な淹れ方は龍人でも出来ている。
後は葉によって蒸らす時間や千切り方を変えるともっと良くなる。
これは慣れが必要だけど、私が知ってる範囲でコツを教えていく。
「飲みやすくするにはどうすればよいじゃ?」
「あまり細かく千切らない方がいいですよ。
葉の入れすぎも注意が必要ですね」
「なるほどじゃな…」
龍人は濃い物より薄くて飲みやすい物を好む傾向があった。
なら次は水出しも教えてみようかな?
下手をすると半日掛かるけど、飲みやすいからきっと気に入るはずだ。
そうして龍人は作ったお茶を一番に彼に運ぶ。
私も席に着き、龍人の淹れたお茶を頂いた。
「主~!今日もお茶を淹れたのじゃ!
…どうじゃ?美味しいじゃ?」
「飲みやすくて美味しいよ。毎日上手になっていくね」
「…くふふ…」
「褒められてよかったですね!」
確かにこのお茶は美味しい。
最近覚え始めたとは思えないくらいだ。
後は濃い目の作り方と、私のアドバイス無しで作れるかどうか。
でも、一番の難しいハーブ選びが得意だから大丈夫だろう。
「お茶を知れてよかったのじゃ。
リーフには感謝しなくちゃならないのじゃ」
「私もお茶友達ができて嬉しいです!」
「しかし、リーフが淹れたお茶にはまだまだ勝てないのじゃ。
特に、最初に飲んだお茶はとても美味しかったのじゃ…」
「…そー…ですかね…?」
「主はどっちのお茶が美味しいと思うじゃ?」
怖い質問だと思った。。
龍人は彼の事をなにより気に掛ける。
もし龍人が選ばれなかった場合、どういう反応をするだろう。
ずっとお茶を淹れ続けてきた私と龍人ではそれなりの差は出来てしまう。
ただ、その事実はどうでもいい。
彼がちゃんと龍人を選んでくれれば全て丸く収まる。
「…私は、こっちが飲みやすいと思いますけどね~…」
祈るような気持ちで、それとなく龍人を選ぶように誘導する。
私の気持ちを知ってか知らずか、彼は龍人の淹れたお茶をもう一口飲んだ。
「リーフのお茶の方がちょっとだけ美味しいかな」
「…はぁ~…やっぱりじゃ…?…まぁ、仕方ないのじゃ…」
「あはは、ドーラのお茶も美味しいよ?」
二人にばれないようにため息を吐いた。
流石に龍人もこれくらいでは怒らないようだ。
出会いが出会いだっただけに、警戒し過ぎたみたい。
とりあえず一安心。
でも、私の意図を汲めなかった彼には少しがっかりした。
「ねぇ主さん?
そこは嘘でもドーラさんって答えないといけないんですよ?」
「もちろんこのお茶も美味しくて好きだよ。
でも、最初にリーフが淹れてくれたお茶は忘れられない味だった。
なんだか特別な感じがして、本当に美味しかった」
「…でしょ!
あのお茶は二人に気にってもらおうと手間暇かけて、本気で淹れて、
実際、会心の出来でなかなか再現も難し…、じゃなくって!!」
危うく乗せられてしまうところだった。
彼は龍人を選ぶ気遣いはできないのに、お茶の良さはわかるようだ。
「んもう、主さんは乙女心がわからない人ですね」
口では悪態をつきつつも少しだけ彼を見直した。
あの茶の良さがわかるなんて良い人に違いない。
…とは思うけど、やっぱり龍人を選ぶべきだったとも思った。
…。




