龍人のお茶
龍人には強気に言わないと何もさせてもらえない。
だから食事の後片づけは少し強引にだけど、任せてもらった。
「片付けくらい私がしておきますからお風呂に行ってください!」
「よいのじゃ?リーフはお客さんで…」
「お客さんじゃなくて、友達でしょ?
だから少しは頼ってもらわないと私が困ります!」
「…そうじゃ?なら主、お風呂に行くのじゃ」
「そうだね。ありがとうリーフ」
「えっ、あっ、はい…」
呆気に取られてると龍人は彼の着替えを持って、彼と一緒に消えていった。
まさか一緒に入ってるなんて思ってなかった。
あの密室で、あの狭い空間で二人一緒に身体を洗うのかな?
思ったより二人の仲は親密なのかもしれないと、少しドキドキしてしまう。
少し動揺したけど、洗い物を無事に終わらせた。
龍人達が戻らない間に外に出て、摘んできた木の実を大走鳥に食べさせる。
それから残りのハーブを並べて今日の成果を確認した。
ハーブは乾燥させても美味しいし、軽いから持ち運びも楽だ。
でもやっぱり摘み立てが一番美味しい。
そんなことを考えてると二人が何事もなかったかのように戻ってきた。
「戻ったのじゃ~」
「おかえりなさい。
お風呂、一緒に入ってるんですね」
「そうじゃ。寝る時も一緒じゃ」
「えっ!…私、もしかしてお邪魔ですか?」
「なんでじゃ?
それより、またさっきのが飲みたいのじゃ」
「…え、ええ…それはいいですけど…」
龍人とは仲良くなりたい。
でも二人の邪魔はしたくない。
なので慎重に二人の様子を伺う。
龍人の態度からすれば、私を邪魔だとは思ってなさそう。
しかし、彼の方はどう思っているのだろう。
「そうだ。今度はドーラさんが作ってみませんか?」
「よいのじゃ!?でも、わしに出来るじゃろうか?
…また最初から、教えてくれるかの…?」
「もちろんですよ!まずは葉を選びましょう。
とりあえず、好きな香りの葉を選んでいいですよ」
「わかったのじゃ」
龍人はちょうど並べていた葉の一枚一枚を慎重に嗅ぎ始めた。
その間、彼にそれとなく質問してみる。
「主さん。私、どれくらい泊っていいですか?」
「何日でもいいよ。
ドーラも嬉しそうし、僕も長い方が嬉しいな」
「そうですか?そう言ってくれると嬉しいですね~」
その言葉に嘘はなかった。
とはいえ、邪魔に思われる前に帰るべきだろう。
やはり一泊したら一度帰って様子が見たい。
「そうそう、葉はそれくらいの大きさでいいんです」
「なるほどじゃな…」
「お湯を注いで、蒸らし過ぎると苦みもでるから…」
龍人は教えた事をすぐ理解するし、意外と手際が良い。
話も真剣に聞いてくれるし、こういう所も好感が持てた。
「そろそろいいですね!
さあ、飲んでみましょうか」
「美味しいと良いんじゃけど…」
出来栄えに龍人は不安そうだった。
確かにコップに注いだお茶は私が淹れた物より色が濃く、香りも強い。
でも、これでも成功なのだ。
それを一口飲むと少し苦みが先行して口に広がる。
それでも鼻に抜けるハーブの香りが強くて、なかなか美味しい。
「…これ、ちょっと失敗じゃ?」
「私はこれくらいが好きですよ?
多分、私一人ならこれより濃く作りますね」
最初に作ったお茶は二人の為に飲みやすさを重視した。
それに比べればこのお茶は濃いけど、私好み。
しかし、一日に二回もお茶が飲めるなんて贅沢な話だ。
「主はどうじゃ?これ、美味しいじゃ?」
「うん。ドーラの淹れたお茶も美味しいね」
「…そうじゃ?」
「でも本当に美味しいですよ。
少しずつ飲むと慣れてきて、美味しく感じないですか?」
「…ん~…。そんな気もしてきたのじゃ!」
彼が認めると龍人も自信がついたのか、機嫌が良くなった。
そうするとお茶についての話が止まらず、歯止めが利かない。
「もし本当に濃くて飲めなかったら、お湯を足せばいいんです」
「なるほどじゃ!リーフは頭が良いの~」
どれくらい話したかわからないが、かなりの時間が過ぎた。
龍人と盛り上がり過ぎてしまった結果、
気付くと彼は目を閉じて静かにしていた。
「…主、眠たいじゃ?
残念じゃが、話は此処までじゃ」
「…ドーラ…僕、まだ平気だから…」
「よいから。とりあえず歯を磨くのじゃ」
やはり彼に対しては過保護な反応をする。
まるで恋人と母親の両方を兼ねているような雰囲気。
「後は私が片付けておきますから、主さんを」
「よいのじゃ?助かるのじゃ」
龍人は私の提案を素直に受け入れた。
私が食器を洗う傍らで、二人が並んで歯を磨く。
「リーフも此処の枝を使ってよいのじゃ」
龍人はそれだけ言うとすぐ二階に向かった。
片付けも終わり、私も歯を磨く。
でも、龍人達が眠る寝室に本当に行っていいのかな?
少し躊躇したけど黙って消えるわけにもいかない。
意を決して階段をあがると、薄暗い部屋が現れた。
「…ここかな…?…あの~ドーラさーん…」
「…暗いから見えないじゃろ?
今、そっちにいって案内するのじゃ」
「私、夜目が少し利くので大丈夫ですよ。
…えーっと、こっちのベッドを借りていいんです?」
「見えるじゃ?そうじゃ、そっちを自由に使ってよいのじゃ」
「ありがとうございます。それじゃ、おやすみなさい」
彼の声は聞こえないから既に眠っているんだろう。
起こさないようにすぐ会話を打ち切り、おやすみと伝える。
そっとベッドに移動し、布団の中に潜り込む。
少し古いけど、使い心地がよさそうだ。
もしかしたらうちの里で作った物かもしれない。
目を閉じるとすぐに身体の力が抜けてきた。
意識が虚ろになり、今日の出来事が頭に浮かんでくる。
商売抜きなら、誰かとこんなに話したのは初めてかもしれない。
皆で飲むお茶は美味しかった。
遊びに来てよかった。
二人と仲良くなれて、本当によかった。
あの日からもう三日が経った。
一泊だけと決めたはずなのに、此処は居心地が良すぎる。
初めてのお茶友達だし、
この森の事もまだまだ知りたいし、
お風呂は病み付きになるし、
なにより、龍人達が今日も泊まっていけと必ず誘ってくる。
「今日も泊まっていくじゃろ?」
「…迷惑じゃないです?」
「迷惑なわけないのじゃ!
リーフが居た方が楽しいのじゃ!…な?な?」
思いのほか人懐っこい龍人にこうも熱烈に誘われると断れない。
彼を見れば龍人を止めるわけもなく、優しく頷いている。
「…じゃー…今日も泊まりますね?」
「やったのじゃ!今日は何をしようかの~…」
そうして今日も泊まるのが決まった。
…。




