↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/82

理想的な生活

今まではずっと周りを見ないように意識していた。

それを守ってこれたのは、好奇心よりドラゴンへの恐怖心の方が大きかったから。

その必要が無くなった今、此処は何処を見ても宝の山だった。


美味しい木の実もあるし、かなり珍しい木の実まで多種多様だ。

それにハーブ系の植物が多いのが嬉しい。

料理に使うのにはむかないけど、私達森人にとっては必需品。

ハーブは、とっても美味しいお茶になる。


此処の葉は質も良く、摘んで売ってもお金になりそう。

そんな上質な物なのに、摘んだ形跡が一つもないのが気になった。

龍人はハーブが苦手なのか、または使い方を知らないのかもしれない。



「ねぇドーラさん…あっ!」



ハーブを摘んでいいか聞こうとして後ろを振り返った。

だが間が悪く、龍人達がキスをしている場面だった。

こんな近くで、まして友人のを見るなんて想像してなくて固まってしまう。



「なんじゃ?呼んだのじゃ?」

「ご、ごめんなさい!」

「何を謝るのじゃ?」

「…キス、邪魔しちゃったから…」

「よくするから気にしなくてよいのじゃ」

「…そ、そうなんですか?」



そんなに仲良くなっているとは思わなかった。

もしかしたら私と出会う前からそういう関係だったのかな?

いや、あの時の雰囲気と全然違う。

でもなんにせよ、機嫌を損ねなくてよかった。



「それで、なんで呼んだのじゃ?」

「…え、ええと…。…コホン。

 この辺の植物、摘んでもいいですか?」

「もちろんじゃ。好きなだけ採ってよいのじゃ」

「…木の実も?」

「よいのじゃ」

「ほんとですか?大樹に帰ったら調理場を借りてもいいです?」

「好きなだけ使ってよいのじゃ」

「やった!ありがとうございます!」



龍人は一切渋る事も惜しむ事も口にしなかった。

気前が良い返事に、さっきの気まずさも飛んでいく。

そこからさらに楽しくなり、夢中でハーブを採取する。

すると、後ろから二人が興味深そうに覗き込んできた。



「それ食べても不味いじゃろ?何に使うのじゃ?」

「やっぱり使った事ないです?」

「無いのじゃ。スープに合わない匂いがするのじゃ」

「ふふ、確かにスープに入れたら不味いでしょうね~。

 これを使って、飲み物を作るんです」

「飲み物じゃ?飲んでみたいのじゃ」

「火を頂けたらご馳走しますね」

「火起こしは得意じゃから任せるのじゃ」



一人で作る時は水出しで作る事が多いけど、時間が掛かる。

竈を借りられるなら手軽に作れるし、たまには温かい物も飲みたい。

二人も気に入ってくれるといいな。


故郷では仲が良い人とお茶を作りあう風習がある。

私は行商をして離れていることが多く、そんなことができる深い仲の友人は居ない。

まぁ、女で行商をする変わり者というのも関係ありそうだけど。


なんて、そんな事を思いながら、少し寂しい気分になった帰り道。

私は二人の様子を見ながら、一人で後ろを歩く。

仲良く手を繋いで歩く姿が、少し羨ましく思えた。


龍人が色んなことを話しかけ、彼が優しく笑って頷く。

彼の口数はそれほど多くない。でも、そこがいい

静かな森で二人だけの自由で穏やかな生活。

私にとって、それは理想に見えた。


大樹に着いたのでさっそくお茶を作り始める。

一番小さな鍋を借り、薪も少し分けてもらう。



「後で薪も拾ってお返ししますね」

「そんなのはよいんじゃが、そんな小さな鍋でよいのじゃ?」

「お湯を沸かすだけなんですよ。

 ハーブはこっちで少し千切って…」

「煮ないのじゃ?」

「そう思うでしょ?でも、お湯を注ぐだけでいいんです」



龍人は何をするにも気になるみたいで、沢山質問をしてくる。

彼も静かだが、龍人の後ろから一生懸命に覗いていた。



「良い匂いがするのじゃ」

「でしょ~」

「色も綺麗だね」

「そうでしょ~!」



ハーブの入った容器にお湯を注ぎ、蒸らすために少しだけ待つ。

それをコップに注ぐと二人は嬉しい反応をしてくれた。

沢山褒められて、私の気分も上々だ。



「それじゃ頂くのじゃ」

「香りも楽しんでくださいね。

 あ、それと熱いので気を付けてください」



二人は初めての味を確かめるように、ちびちびと少しずつ飲んだ。

舌を転がし、風味や後味まで楽しんでるように見えるけど、

種族によっては気に入らない場合もあって少し心配だ。



「不思議な感じじゃけど、美味しいのじゃ」

「ほんとですか!?主さんはどうです?」

「これ、とっても美味しいね」

「…よかった~…」



二人の言葉にやっと緊張が解けた。

一息つくことができ、自分もお茶を一口飲む。

うん、狙い通りに飲みやすく作れている。

自分を褒めたい気分だ。



「今回はなかなか美味しいですね」

「今回じゃ?」

「使うハーブによって味がかなり変わるんですよ。

 面白いでしょ?」

「面白いのじゃ!

 もっと色々と教えて欲しいのじゃ」

「もちろんいいですよ!えっとですね~…」



そこからお茶について盛り上がった。

時間も忘れて語り合い、気が付けば夜になっている。



「ん?もう外が暗いのじゃ」

「あれ、ほんとですね。

 全然気が付きませんでした」

「話は一旦此処までにして、食事にするのじゃ。

 準備するから、リーフは先にお風呂に行くとよいのじゃ」

「お風呂ってなんですか?」

「やっぱり知らないじゃ?案内するから…

 あ、着替えを持ってくるのじゃ」

「着替え?わかりました」



私は広間しか出入りしてなかったので奥の方は知らない。

龍人に案内されて初めて入ったお風呂という部屋。

そこはなぜか大量の水で溢れかえっている不思議な場所だった。



「…家の中に、川でも流れてるんですか?」

「大樹が吸って、流してくれるのじゃ。

 ついでに温めてくれるからお湯になってて気持ちが良いのじゃ」

「…はぁ~…」



驚いて声にならない。

私も水を貯める植物は知っているけど、規模が違う。



「最初に桶でお湯を汲んで、軽く身体を流すのじゃ。

 それからあの中に浸かるのじゃ」

「えっ!…入っちゃっていいんです?汚れません?」

「ずっと流れてるから大丈夫じゃ」

「…確かにそうですけど…」

「食事の準備をするからゆっくり入ってよいのじゃ。

 あ、タオルはそこにあるから使ってよいのじゃ」



龍人達はそう言い残して去っていった。

部屋に一人残された私はしばらく呆然とお風呂を眺める。

お湯に手を入れ、温度を確認とちょうどよさそうだ。


でも勧められるままに本当に入っていいのかと迷う。

普段みたいにタオルを濡らして身体を拭くだけでもいい。

お湯であるだけありがたい話だ。

少し考えた末、誘惑に負けて入ってみる事にした。


温かいお湯に全身が包まれるとなんとも言えない幸福感を感じる。

特に行商で酷使してきた足が溶けるようだった。



「…なんて贅沢な事を…」



普段、街の宿屋では桶一杯の水を買ってそれで身体を拭く。

雨などで寒い時は別料金を払い、お湯にすることもたまにはある。

でも結局冷めるし、基本的には高いからあまり頼まない。



「…これだけのお湯…いったい、いくらするんでしょうか…」



何でもお金に結び付けて考えるのは悪い癖かもしれない。

できるだけ考えないようにと思うけど、なかなか難しい。


お金があれば幸せになれるって、そう思ってた。

でも、お金を必要としない龍人はちゃんと幸せそうに見える。

そんなことをぼんやりと考えながら、身体を温めた。


お風呂を上がると食事が出来上がる直前だった。

少し長湯をしてしまったかもしれない。

遅れなくてよかった。


「お風呂、ありがとうございました!

 長々とすみません」

「もう少ししたら呼びに行くところじゃった。

 お風呂、気に入ってくれたら嬉しいのじゃ」



当たり前のように私の食事も用意されていた。

全部任せっきりでなんだか申し訳なさも感じる。



「毎度毎度、何から何まですみません…」

「気にしなくてよいのじゃ。

 二人分も三人分もほとんど変わらないのじゃ」



龍人の言葉に彼も同意した。

二人の屈託ない笑顔に慰められる。

向こうが気にしてないなら、遠慮しすぎても迷惑になるだろう。

このお礼は何かの形で必ず返すとして、今はただ甘えよう。


…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。