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理想的な生活

 ずっとこの辺りを見ないように意識しながら移動してた


でも想像していた通り、珍しい植物がとても多い


まさに宝の山だ


木の実も豊富だし、特にハーブ類が多いのが素晴らしい


ハーブはあまり料理には向かないけど、美味しいお茶になる


故郷でも暇さえあれば作っていた


しかし、大樹からほど近い場所でも


ハーブを摘んだ形跡がひとつもないのが気になる


もしかして、龍人は使った事がないのかな?


「ねぇ、ドーラさ…あっ!」


ハーブを摘んでいいかと聞こうとして、後ろを振り返る


けど、ちょうど間が悪く、龍人達がキスをしている場面を見てしまった


こんな近くで、ましてや知り合いがするところを見るなんて思っていなくて、


驚いて目を背けるのを忘れてしまった


「なんじゃ?呼んだのじゃ?」


「ご、ごめんなさい!」


「…何を謝るのじゃ?」


「…キス、邪魔しちゃったから…」


「よくするから気にしなくてよいのじゃ」


「…そ、そうなんですか?」


でもまさか、そんなに仲良くなっているとは思わなかった


もしかしたら、私と出会う前からそういう関係だったのかな?


まぁなんにせよ、機嫌を損ねなくてよかった


「それで、なんで呼んだのじゃ?」


「え、ええと…この辺の植物、摘んでもいいですか?」


「もちろんじゃ。好きなだけ採ってよいのじゃ」


「…木の実も?」


「よいのじゃ」


「ほんとですか?大樹に帰ったら調理場を借りてもいいです?」


「好きなだけ使ってよいのじゃ」


「やった!ありがとうございます!」


龍人は一切渋る事も、惜しむ事も口にしなかった


気前が良い返事に、さっきの気まずさも飛んでいく


そこからさらに楽しくなり、夢中で葉を採取していると


後ろから二人が興味深そうに覗き込んできた


「それ、食べても不味いじゃろ?何に使うのじゃ?」


「やっぱり、使った事ないです?」


「無いのじゃ。スープに合わない匂いがするのじゃ」


「ふふ、確かにスープに入れたら不味いでしょうね

 これを使って、飲み物を作るんです」


「ほぉ~、飲んでみたいのじゃ」


「火を頂けたらご馳走しますね」


「火起こしは得意じゃから任せるのじゃ」


一人で作る時は水出しで作る事が多いけど、時間が掛かる


竈を借りられるなら手軽に作れるし、たまには温かい物も飲みたい


二人も気に入ってくれるといいな


故郷では仲が良い人とお茶を作りあう風習があるけど、


私は行商をして離れていることが多く、深い仲の友人はほぼ居ない


まぁ、女で行商をする変わり者だと思われているんだろう


なんて、そんな事を思いながらの少し寂しい気分になった帰り道、


私は二人の様子を見ながら、一人で後ろを歩いた


仲良く手を繋いで歩く姿が羨ましい


龍人が色んなことを話しかけ、彼が優しそうに笑って頷く


彼の口数はそれほど多くない。でも、そこがいい


静かな森で二人だけの自由な生活


それは私にとっての理想にも見えた




 大樹に着いて、さっそくお茶を作り始める


一番小さな鍋を借りて、薪を少しだけ分けてもらう


「後で薪も拾ってきますね」


「そんな小さな鍋でよいのじゃ?」


「お湯を沸かすだけなんですよ

 ハーブはこっちに、大きい物は少し千切って…」


「煮ないのじゃ?」


「そう思うでしょ?でも、最後に注ぐだけでいいんです」


龍人は何をするにも気になるみたいで、沢山質問をしてくる


彼も静かだが、龍人の後ろから一生懸命に覗いていた


「良い匂いがするのじゃ」


「でしょ~」


「色も綺麗だね」


「そうでしょ~!」


ハーブの入った容器にお湯を注ぎ、蒸らすために少しだけ待つ


それをコップに注ぐと二人は嬉しい反応をしてくれた


沢山褒められて、私の気分も上々だ


「それじゃ頂くのじゃ」


「あ、熱いので気を付けてくださいね」


二人は初めての味を確かめるように、ちびちびと少しずつ飲んだ


舌を転がし、風味や後味まで楽しんでるように見えるけど、


種族によっては気に入らないのかもと、多少の不安は残る


「…美味しいのじゃ…」


「ほんとですか!?主さんは、どうです?」


「うん、とっても美味しいよ」


「…よかった~…」


二人が気に入ってくれるか、実は緊張していた


やっと一息つくことができて、自分でもお茶を一口飲む


「今回はなかなか美味しいですね」


「今回じゃ?」


「使うハーブによって味がかなり変わるんですよ

 …面白いでしょ?」


「面白いのじゃ!

 もっと、色々と教えて欲しいのじゃ」


「もちろんいいですよ!えっとですね~…」


そこからお茶について盛り上がった


時間も忘れて語り合い、気が付けば夜になっている


「ん?もう外が暗いのじゃ」


「あれ、ほんとですね

 全然気が付きませんでした」


「話は一旦此処までにして、食事にするのじゃ

 準備するから、リーフは先にお風呂に行くとよいのじゃ」


「お風呂ってなんですか?」


「やっぱり知らないじゃ?案内するから…

 あ、着替えを持ってくるのじゃ」


「着替え?わかりました」


私は広間しか出入りしてなかったので、奥の方は知らない


龍人に案内されたお風呂という部屋は、


なぜか大量の水で溢れかえっている不思議な場所だった


「…家の中に、川でも流れてるんですか?」


「大樹が吸って、流してくれるのじゃ

 ついでに温めてくれるから、お湯になってて気持ちが良いのじゃ」


「…はぁ~…」


驚いて声にならない


確かに水分を貯める植物は知っているが、これはすごい


「最初に桶でお湯を汲んで、軽く身体を流すのじゃ

 それからあの中に浸かるのじゃ」


「えっ!…入っちゃっていいんです?汚れません?」


「ずっと流れてるから大丈夫じゃ」


「…確かにそうですけど…」


「食事の準備をするからゆっくり入ってよいのじゃ

 あ、タオルはそこにあるから使ってよいのじゃ」


そう言い残し、龍人達は去っていった


部屋に一人残された私はしばらく呆然とお風呂を眺める


「…ちょうどいい温度ですね…」


お風呂に手を入れ、温度を確認する


いつものように、タオルを濡らして身体を拭くだけでもよかったけど


誘惑に負けて、お風呂に入ってみる事にした


「…あ~…」


温かいお湯に全身が包まれると、なんとも言えない幸福感を感じる


特に行商で酷使してきた足が溶けるようだ


「…なんて贅沢な事を…」


街の宿屋では桶一杯の水を買い、それで身体を拭く


雨などで寒い時は別料金を払い、お湯にすることもたまにはあるけど


基本的には高いから、あまり頼めない


「…これだけのお湯…いったい、いくらするんでしょうか…」


何でもお金に結び付けて考えるのは悪い癖かもしれない


できるだけ考えないようにと思うけど、なかなか難しい


お風呂を上がると、ちょうど食事ができる所だった


遅れなくてよかった


「お風呂、ありがとうございました!

 長々とすみません」


「もう少ししたら呼びに行くところじゃった

 お風呂、気に入ってくれたら嬉しいのじゃ」


当たり前のように私の食事も用意されていた


準備も食材も全部任せてしまって、申し訳なさを感じる


「毎度毎度、何から何まですみません…」


「気にしなくてよいのじゃ

 二人分も三人分も、ほとんど変わらないのじゃ」


龍人も彼も本当に気にしてないようだ


二人の屈託ない笑顔は眩しい程で、気持ちが良い


向こうが気にしてないなら、遠慮しすぎても迷惑になる


このお礼は何かの形で必ず返すとして、今はただ甘えよう


…。

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