大走鳥
♢
遊びに行くと伝えたらできるだけ早い方が印象が良い。
それが仲良くなりたい相手ならなおさらだ。
そんな思いで、龍人の森へと足を急がせた。
でも、流石に早すぎだったかな?と大樹に近づいてから不安になる。
しかもクセで行商と同じ早朝に来てしまった。
この時間は、まだ寝てて欲しいと思って選んでいた時間帯。
少し暇つぶしをしてから尋ねるべきかと考える。
いや、私が近づいた合図はもう出してしまった。
早すぎて迷惑そうだったら、近くを通るから寄っただけだと誤魔化そう。
身構えながら小さくドアを叩く。
すると、私の意に反して二人は笑顔で出迎えてくれた。
「よく来たのじゃ!
今から朝食なんじゃけど、リーフも食べるじゃろ?」
「え?いいんですか?」
「よいのじゃ!
さぁ、座って休んでおくとよいのじゃ」
「それじゃ、お邪魔しますね」
席に座ると龍人がすぐ水を持ってきてくれた。
前回出会った時と対応が違い過ぎて落ち着かないくらいだ。
「因みに今日はどっちから来たのじゃ?
丘の方じゃ?湖の方じゃ?」
「今日は故郷から来たので丘ですね」
「ほれ!やっぱりあっちから来たじゃろ!」
「あはは、ドーラは耳がいいね」
そう言いながら彼に寄り添っていく。
二人で私がどっちから現れたか賭けをしていたようだ。
それについては何も思わないけど、
数日会わないうちに二人の距離が近くなっている気がする。
何か進展があったのかな?
後で詳しく聞いてみようかな?
そういう話はあまりしたことがないけど、興味はかなりある。
なんだか楽しくなってきた。
少しわくわくしながら、二人の後ろ姿を目で追った。
前回同様に温かいスープとパンを貰った。
素直に嬉しいのだけど、少しだけ気が引ける。
この料理の材料は私が代価を貰って運んだ物。
代価を貰っている物を使った食事を、
それを私が無料で食べるのはどうなんだろう。
「後でお金払いますね」
「なんのじゃ?」
「この食事代です。
鱗も貰ってるし、何度もただで貰えないですよ」
前回は向こうの気遣いというか、お詫びのようなものだと受け入れた。
きっとその方が喜ぶだろうからと。
でも今、友達という対等な立場ならちゃんとしたい。
「お金は要らないのじゃ。
持ってないし、使う場所もないのじゃ」
「そうですか?じゃあ、どうしようかな…」
「遊びに来てくれて嬉しいから、何も要らないのじゃ」
「そういう訳にはいきません!
じゃあせめて、何かお手伝いする事とかないですか?」
「ん~、じゃあ、何か考えとくのじゃ」
「遠慮なく、なんでも言ってくださいね!」
お金が要らないと言われて困ってしまった。
でもまぁ、もし何もなければ次回の物資を多めに持ってくればいい。
それに気づいてからは食事に集中できて、話も良く弾んだ。
意外に龍人も結構な話好きだ。
お互いに何をして毎日を過ごしているとか、
そんな日常の話をしているだけなのにとても楽しい。
「リーフの話は新鮮で面白いのじゃ。
今日は泊っていくとよいのじゃ」
「ほんとにいいんですか?本気にしますよ?」
「良いのじゃ!
…それとも、まだ行商が忙しいじゃ?」
「いえ、ちょうど何にもなくて休暇にする予定なんです。
…じゃあ、お言葉に甘えて一泊だけいいですか?」
「本当じゃ!?
一泊だけじゃなく、ずっと居てよいのじゃ!」
龍人は目に見えて上機嫌になった。
何日居ても大丈夫なんだけど、流石にずっとは建前だろう。
とりあえずそれは流しつつ、食事の後に二人を外に誘った。
森の奥に向かって指笛を吹いた。
すぐに茂みの中から大きな鳥が現れる。
私達森人はそれを大走鳥と呼んだ。
「私の相棒を紹介します!」
「な、なんじゃ!?こんなのが森におったのじゃ?」
「これに乗って移動してるんです!
私と荷物を乗せても、結構速いんですよ?」
「…大きい鳥じゃなぁ…」
「この子を買うまで大変だったんですよ。
苦労したけど、頑張った甲斐がありましたね」
「主!こっち見たのじゃ!」
私の説明を聞いているか不安になるほど二人は夢中だった。
それはそれで嬉しい反応ではある。
龍人を恐れていた頃は見つからないように隠しておいたけど、
もう隠す理由もない。
「いきなりは無理ですけど、仲良くなったら乗れますよ」
「本当じゃ!?」
「木の実が好きなので食べさせてあげてくださいね」
大走鳥は賢く、許可なく自生している木の実を勝手に食べない。
それに人の手から食べるのも好きだ。
龍人達に食べさせ方の説明すると、大樹から大量の木の実を持ってきた。
それを大走鳥は嬉しそうにパクパクと食べ始める。
が、その中にわりと貴重な木の実を見つけて複雑な気分になった。
「いつ頃乗れるじゃろうか?」
「ん~、多分、そんなに掛からないと思うんですけど…。
乗れそうだと思ったら教えますね」
「楽しみじゃな~」
多分、今は私が傍に居るから大走鳥も落ち着いてる。
いずれ私抜きで、龍人と二人だけで木の実を食べたらまぁ平気かな?
「ねぇドーラ。この子にあげる木の実をもっと集めに行かない?」
「じゃが、せっかくリーフが遊びにきてくれてるのじゃ」
「私も手伝いますよ。
それにこの辺の森を散策したかったんです」
彼が良い提案をしてくれた。
一度でいいから、この森を気ままに散策してみたかった。
そう龍人に伝えたところ、不思議な顔をして首を傾げる。
「散策くらい、好きにすればよかったじゃろ?」
「だってドラゴンの縄張りですよ?
できるだけ荒らさないようにって、移動にも気を遣いますよ」
「言ってくれたらよかったのじゃ」
「この前初めて話したばかりじゃないですか。
でも、想像と全然違って怖くないですね」
「そう言ってくれると嬉しいのじゃ」
出会った時こそ恐ろしい目にあったけど、
それを除けば意外にも優しい性格なんだろう。
きっと、隣に居る彼が龍人に大きな影響を与えている。
その後、色々気を遣ってきたんだと、
私の今までの苦労話をしながら散策を始めた
…。




