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じゃれあい

口づけした後、オスは心底驚いていた。

何が起こったかわからないという表情で、呆然と口に触れている。



「…ドーラ…今…」

「…これで、わしの匂いが主に移ったから…。

 …主が誰の物か、鼻が利く相手ならわかるのじゃ…」

「…そっか…びっくりしちゃった」



そう言って照れたようにオスが笑う。

自惚れかもしれないけど喜んでいるように見える。

その顔を見ていると心が軽くなる。



「…わしは主が好きじゃ…」

「僕もドーラが好きだよ」



見つめ合い、ゆっくりと顔を近づける。

オスも察したように、今度はちゃんと受け入れてくれた。

そうして再び口が重なる。

最後にほんの少しだけ舌を入れた。

またオスは驚いていたが、もう我慢はしない。



「きっとわしの身体からも主の匂いがするはずじゃ」

「そうなの?なんだか嬉しいな」

「じゃから、わしも主の物にして欲しいのじゃ」

「ほんとに?ドーラはそれでいいの?」

「よいのじゃ。主にあげた鱗のように、大事にして欲しいのじゃ」

「…もちろんだよ!ドーラは、僕の宝物だ」



オスの方から強く抱き締めてくれた。

腕の力を抜いて、目を閉じてただ身を任せる。

自分が捕まえられるなんて思ってなくて、泣きそうなほど嬉しかった。



「…わしは主の物じゃから、好きな時にどこでも触ってよい…。

 …でも、一つだけお願いがあるのじゃ…」

「お願い?」

「…子供を作るのだけは、待って欲しいのじゃ…」

「うん。わかった」



オスとの子が欲しくないわけじゃない。

それでも、記憶が戻るまでは待って欲しい。

子が出来た後に拒絶される可能性が少しでもあるうちは、

そこまでの覚悟が出来ない。



「…臆病で、ごめんなさいじゃ…」

「大丈夫、無理しなくていい。

 …でも、子供ってどうやって作るの?」

「…。…知らないなら、そのままでよいのじゃ」



とにかく、これでお互いがお互いの所有者になった。

記憶が戻った時、これがどうなるかはまだわからない。

でも、今のオスの気持ちは確かに受け取った。

だから、今はこれでいい。

一定の満足感を感じながら、二人で景色を眺めていく事にした。



「湖は見ればわかるじゃろ?

 あっちの方が魚が捕れる川じゃ」

「湖以外は森しか見えないね」

「森が深いから仕方ないのじゃ」



湖を見たせいか、近々星を見に行くのもいいなと思った。

それを一階に戻ってからオスにも相談する。



「いいね。今日行く?」

「今日じゃ?色々あったから疲れてないのじゃ?」

「疲れてないよ。ドーラと星が見たい」

「なら今回はちゃんと準備してから行くのじゃ」



前回の反省を踏まえ、食べ物や毛布を持っていく事にした。

自分だけの時は気にしなかったが、

オスと一晩中くっつく事を考えてお風呂にも入った。



「よし、それじゃ行こうドーラ」

「うむ!」



差し出された手を握り、湖に出発する。

何処に行くにもずっと一緒。

こんな日がいつまでも続けばいいなと思う。


それから数日が経過した。

オスの記憶が戻らない事にも少し慣れ、最近は不安が募る事も無い。

ただ平和な日常が続いていた。


オスとの関係が落ち着くと、次は行商の事が気になった。

最近は目覚めてすぐ一階に降りず、

しばらく外の様子を伺うのが日課になりつつある。



「後何日くらいしたら来てくれるじゃろうか?」

「前はどれくらいで来たの?」

「ん~?この前持ってきたパンの粉があるじゃろ?

 毎回、あれが残り一つか二つになった頃に来てたのじゃ」

「…まだまだじゃない?」

「…そうじゃろうなぁ…」



わかっていたけど、つまらない。

それが顔に出てたのか、オスが覗き込んでくる。



「僕だけじゃ足りない?」

「主が居れば他には何もいらないのじゃ。

 …でも、リーフも居た方が楽しいのじゃ」

「あはは、そうだね」



諦めて立ち上がろうとしたその時、

窓の外からあの奇妙な音が聞こえた気がした。

聞き間違えかと思って耳を澄ませると、やっぱり何度も聞こえてくる。



「あの音じゃ!」

「そういえば遊びに来てくれるって言ってたね」

「すぐ一階に降りて準備するのじゃ」



早く朝の日課を終わらせて出迎えないといけない。

そう思ったのに、オスは窓から顔を出してあちらこちらと見ている。



「何してるのじゃ?」

「どっちから来るかなって思って」

「ん?どっちじゃろうな?」



オスがそんなことを言うから自分も気になった。

窓から顔を出してもう一度よく耳を澄ませる。



「…あっちじゃな?」

「こっちじゃない?」

「絶対にあっちじゃ!」

「後でリーフに聞いてみようか」

「そうじゃな!さて、そろそろ行くのじゃ」



絶対に丘の方から来たと思う。

でも本当は当たっても外れても、どっちでもいい。

オスとこうして、

他愛のない事でじゃれ合うのが何よりも楽しい。


…。

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