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ありったけ

♢



せっかく友達になった行商はあっけないほどあっさり帰った。

泊っていけばいいと誘ったけど、故郷に用事があるらしい。

でも、その用事が終わったら遊びに来ますと言ってくれた。


森の奥に消えていく行商をオスと一緒に見送って、

散らばった残りを片付ける。



「リーフは良い奴じゃな」

「そうだね。優しい子だった」

「…。…そうじゃな…」



行商は確かに優しかった。

自分なんかよりもずっと落ち着いてて、小柄で可愛らしい。

このオスもああいうメスの方が好きなんだろうか。

心なしかオスも良く笑っていた気がする。

それを思うと、胸が痛い。



「…こんなもんじゃな」

「最初より綺麗になったね」



散らばったついでに掃除もして、玄関がかなり綺麗になった。

これでいつまた行商が来ても大丈夫だ。

次はもっと仲良くなれるだろうか。


オスとも仲良くなってしまうだろうか。

なんて、そんなことを考えると不安で堪らない。

このままじゃダメだ。



「…主。ちょっと付き合って欲しい場所があるのじゃ」

「もちろんいいよ。このまますぐ出掛ける?」

「いや、外じゃないのじゃ」



オスの手を引いて階段を上がる。

オスは不思議そうな顔をしながらも大人しくついてくる。


薄暗い寝室の目立たない場所に、実は隠し扉がある。

そこを開けると更に上に続く階段があって、

この森を一望できる展望台に繋がっている。



「…わぁ…。ねぇドーラ、空が近いね…」

「気持ちよいじゃろ?」



此処なら森を一望どころか、森の先の平原まで見える。

本当はこの場所にオスを案内する気はなかった。

お気に入りの場所だったけど、秘密にするために一生来ないつもりだった。



「此処は景色が綺麗だね。

 湖も見えるし、もっと早く教えてくれてもよかったのに」

「…主には、ずっと内緒にしておきたかったのじゃ…」

「…どうして?

 …ドーラだけの、とっておきの場所だった?」

「…もう、耐えられないのじゃ…」



ふとした瞬間に泣き崩れてしまいそうだ。

此処に来たら森が見渡せてしまう。

だからオスが何かを思い出すかもと不安だった。

行商が去っただけでこれだけ寂しいなら、

このオスが去ったらどれだけ寂しいのかと怖くなった。


それに加えて、オスが他のメスに盗られるかもと、

そんな心配が増えてもう限界だった。



「耐えられない?僕はどうすればいい?」

「…しばらく森で暮らしてみてどうじゃった?」

「えっと、すごく楽しかったよ?」

「…でも、出来る事はほとんどしてしまったのじゃ…。

 …後はこんな毎日がずっと続くだけ…。

 …退屈じゃろ…?」

「そんなことないよ。

 僕はドーラと一緒にまだまだ…」

「…それに、リーフの方が、主に似てたのじゃ…。

 …主じゃって、似てるメスの方が好きじゃろ…?」

「似てるかはわからないけど…僕はドーラが…」



もしそれが本当でも、他に気になるメスに出会うかもしれない。

これ以上の不安を溜めこむ事ができない。

だから、思いの丈をありったけの大声で叫ぶことにした。



「主はー!わしが拾ったからわしの物じゃー!

 だから勝手に、逃げちゃダメなのじゃー!」

「…ドーラ…」

「主はわしの物なのじゃー!

 誰にも、リーフにも渡さないのじゃー!!」



森全体に響き渡るほどの大声で叫ぶと少しだけすっきりした。

本当に行商にも聞こえてたらいい。



「僕、勝手に逃げないよ?

 ずっと此処に居るって約束した」

「その約束じゃ、まだ足りなかったのじゃ…。

 主の記憶が戻って、もし、わしの事が怖くて逃げ出したくなっても…。

 …無理やり力づくで…居座らせてもよい…?」



こんな一方的な約束、受けるわけがない。

わかってるけど、言わずにはいられない。

怒らずに聞いてくれて、優しい言葉で曖昧に慰めてくれればいい。

怖がらないから大丈夫とか、そんな言葉が欲しかった。



「いいよ。僕はドーラの物でいい」

「…よいのじゃ…?」

「それでドーラが安心できるならそれでいい。

 ずっと傍に居るよ、ドーラ」



だけど、オスは肯定してくれた。

その言葉が聞こえた瞬間、思い切り抱き着いた。

我慢できず、オスの許可も取らずに唇を奪う。

ずっとずっと、直接味わってみたかった。

これでこのオスは、自分の物だ。


…。


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