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彼の隣

 行商はもう帰らないんだと


なんとなくそう思っていた


でも大走鳥に乗る練習をした日の夜


急に帰ると言い出した


「なんでそんなに急なのじゃ!」


「…えーと、なんていうかですね…」


「今日も帰らなくてよいじゃろ?

 しばらく用事が無いって言ってたじゃろ?」


必死に引き留めた


此処が気に入ってる様子だったし


行商だって満更ではないはずだ


まだまだ聞きたい事が沢山あるし


大走鳥に乗る練習もしたい


それに、トイレの時とか


どうしてもオスから目を離すしかない時に


行商が居てくれると非常に安心できる




 それでもダメだった


行商人は頑なに帰ると言ってきかない


理由を聞いてもはぐらかして教えてくれない


だからせめて、後一日だけ


お別れする為の時間が欲しい


心の準備をする時間が欲しいと強く懇願した


「…ふぅ、わかりました」


「よかったのじゃ!

 …今夜は一緒に寝てくれるかの?」


「えっ?いいんですか?

 ドーラさんがいいなら私もいいですよ!」


行商は予想以上に乗り気になってくれた


ますます帰る理由がわからないが


嫌われてないのなら、ひとまずは安心だ




 夕食後にお茶を淹れてもらった


やっぱり、自分が淹れたものより美味しい


「もうちょっと詳しく教わりたかったのじゃ」


「絶対にまた来ますから

 …ちょっと落ち着いてからにしますけど…」


「その時までに練習しとくのじゃ」


行商と話をする為に


お風呂をサッと済ませる


行商もあっという間に出てきたので


最後に沢山話せそうだ




 オスもいつもより元気そうだった


多分お昼寝をしたからだけど


そろそろ限界が近そうだ


一旦、話は此処までにして


ベッドに移動してから続きを話すことにした




 オスをベッドに寝かせて片側に潜り込むが


行商は首を傾げて入ってこない


「ドーラさんは私と一緒に寝るんですよね?」


「そうじゃ

 だからわしの反対側に入ってほしいのじゃ」


「…えぇー!

 私、主さんとも寝るんですか!?」


「シーっじゃ!

 主が起きてしまうのじゃ」


「…で、でも…でも…」


行商はかなり渋っていた


どうやら自分と二人だけだと思っていた様子だ


でも最後だからと必死になって頼み込む


やがて根負けし、


半分諦めたような感じで布団に入ってくれた


…。


 彼と同じ布団の中が一番好き


そう龍人が言った


私はどうしたらいいか迷ったけど


いい経験になるかもと、割り切る事にした


「リーフは特別気に入ったのじゃ

 だからわしの一番お気に入りの場所で

 ゆっくり話してみたかったのじゃ」


「…まぁ、そう思ってくれるのはすごく光栄ですけど…」


「…あんまり気に入らないじゃ?」


「いえ、そういう事じゃ…

 なら、一度ちゃんと味わってみますね」


確かに気まずいからと否定するのはよくない


此処は龍人の、友達の一番好きな場所なんだから


だからちゃんと確かめてみる




 襲われる心配がないと仮定すれば


正直言って、居心地はいい


湖で寄り添って寝た時も思ったけど


人肌というのはこんなにも落ち着くのかと驚いた


彼の腕に触れてみる


多分、彼は森人の私より力が弱い


出会った時、腕を掴んだ時にそう思った


行商をしてるから同族の中では腕に自信がある


あるとはいえ、森人より弱い種族も珍しい


なのにどうしてか


こうして腕を触ると逞しく思える




 龍人のように抱き締められたい


湖で夢現になりながらそう思った


二人は私の理想そのものだったから


きっと無意識に龍人と私を置き換えた、


そんな想像をしてしまったのだ


それがきっかけだ


彼に惹かれている


そんな良くない自分の気持ちに気が付いてしまった


だから早急に此処から離れるべきだと


そう判断した




 触れてると気持ちが昂ってしまう


彼と一緒に居たいと思ってしまう


でもその反面、


龍人から奪おうという気はまったくしない


私よりお似合いだと思っているのか、


それとも、勝てる未来が想像もできないのか


多分、両方なんだろう


冷静に分析はできるけど胸は痛む


戦わずに負けを認めてる自分が情けない


泣きそうになる私を


彼の体温が少しだけ慰めてくれた


…。

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