理想的な二人
故郷の用事をできるだけ急いで済ませ
彼と龍人が暮らす大樹に遊びに来た
…でも、流石に急ぎすぎたかな?
約束を真に受けて、こうして来てしまったけど
迷惑そうなら少し寄っただけと
誤魔化して日を改めよう
そう身構えていたが
二人は私の訪問を歓迎してくれた
クセで早朝にお邪魔してしまったら
また食事をご馳走してくれるらしい
代価を受け取って運んだ食料なのに
貰うのはちょっと気が引けるから
だからその分、次は少し多めに運んでこよう
なんて事を考えながら
調理場に立つ、二人の様子を伺ってみる
「主はパンと魚、どっちがよい?」
「ドーラの好きな方でいいよ」
初めて会った時と雰囲気が少し違う
何か、進展があったのかもしれない
もし龍人と二人で話すことができたなら
女の子同士で色々と聞いてみたい
食事をしながら色んなことを話した
龍人は意外にも話好きで
食事が終わっても話は続いた
話していて思う事は
二人ともが素直過ぎると言っていい性格で
私はそういう人達が大好きだ
「今日はどうじゃ?
今日は泊ってくれるのじゃ?」
その誘いはとても嬉しく、素直に頷いた
私の相棒を紹介する為に
二人を外に連れ出した
指笛を吹くと森の中から大走鳥が現れる
私が乗れるほど大きな鳥
まぁ鳥と言っても空は飛べないのだけれど
「な、なんじゃ!?
森にこんな大きいのが居たのじゃ?」
「私の相棒です!
私と荷物を運んでくれるんですよ~」
この子を買うまで大変な道のりだった
私の家族といってもいい宝物
念の為、龍人に鉢合わせない様にしていたが
友達になった以上、紹介したかった
餌は木の実だと教えると
龍人達がすぐ大樹から沢山持ってきた
その中に貴重な木の実が混じっているのを発見して
ちょっとだけ大走鳥が羨ましい
出来る事なら私が食べたかった
「…コホン
その子と仲良くなったら背中に乗れますよ」
「ほんとじゃ?乗ってみたいのじゃ」
「慣れないと難しいんですけど…
餌をあげたりして可愛がってくださいね」
多少警戒はしてるみたいだけど
私が近くに居れば木の実を貰って食べている
これなら、数日慣らせば龍人一人で
餌をあげられるかもしれない
この後の予定は特にないそうだ
なので龍人に頼み、皆で森を散策することにした
ずっと、この森を自由に歩きたかった
それを龍人に伝えると不思議そうだった
「なんで今までしなかったのじゃ?
歩くくらい、行商のついでに出来たじゃろ?」
「ドーラさんの縄張りですからね
私の痕跡を必要最低限にしたかったんです」
「ほー、それはなんだか大変そうじゃな~」
私の苦労が伝わらなかったのは残念だけど
この反応を見る限り、縄張り意識は薄いのかな?
これなら少しくらい
森の恵みを分けてくれるかもしれない
珍しい植物がとても多い森だった
綺麗な花や香りの強い葉も沢山見つけられた
少し摘ませて欲しいけど
そこまでお願いするには早計だろうか
でも、一応やんわりと聞いてみよう
「ねぇ、ドーラさ…」
後ろに視線を向けると龍人達がキスをしていた
初めて間近で見るその行為に驚き、
呆然と眺めてしまう
「…なんじゃ?呼んだのじゃ?」
「ご、ごめんなさい!邪魔しちゃって…」
龍人と目が合い、急いで頭を下げる
最悪のタイミングで声を掛けてしまったと、
怒られると思った
でも、私の態度に龍人達の方が慌て始める
「そんなに気にしなくてよいのじゃ!
別に、そんな特別な事じゃないのじゃ」
「…そ、そうなんですか?」
想定してない事態に慌ててしまったけど
機嫌を損なわなくてホッとした
素直に葉を少し摘んでいいか聞いてみたら
龍人も彼も快く承諾してくれた
意気揚々と葉の厳選をしていると
二人とも興味深そうに近づいてきた
「それは食べられないじゃろ?」
「これ、使った事ないです?」
「ないのじゃ
スープに入れたら不味そうな匂いじゃ」
「ふふ、スープに合わせるのは難しいでしょうね」
これはハーブだ
私達森人が特別好きな飲み物に変わる
後で調理場を借りれたら
二人に振舞って、反応をみたい
帰り道は二人の後ろを歩く
仲良く手を繋ぐ姿はなんとも微笑ましい
というより、少し羨ましくなってきた
森で好意を寄せる相手と二人きりの生活
よく考えなくても
二人は自分の理想の姿だった
…。




