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簡素な食事

 部屋を出ると吹き抜けで一階が見下ろせた


想像していた以上の高さに身震いする


右側の壁沿いには長い階段が見えたが


今からこれを降りるのかと思うと尻込みしてしまいそうだ


それが顔に出てしまっていたのか、彼女が心配してくれた


「…やっぱり、わしが運んだ方がよいじゃろ?」


「…ううん、任せて…」


心配してくれる彼女の提案を再度断り、


階段に向かって一歩踏み出した



 本当に一歩ずつ、ゆっくりと一段ずつ階段を降りた


バランスを保つため、踏み込んだ足にグッと力を入れる


すぐに息が上がり、口を開けて大きく呼吸をするようになった


彼女は僕が落ちない様にするためか、途中から右手を掴んでくれた


「疲れたら此処に座って休んでもよいのじゃ」


「…。」


返事はできず、頷くだけで精一杯だ


数回の休憩を経て、沢山の時間を掛けて一階に降り立った


 

 一階についてすぐに座り込んでしまった


疲労というより、気が抜けたので立っていられなかった


「無事に一人で降りられたのじゃ!

 よく頑張ったのじゃ!」


「僕一人じゃ無理だったよ。ありが…痛っ…」


「ど、どうしたのじゃ!?」


自分の事のように無邪気に喜ぶ彼女


それを見た時、心臓が破裂したかと思うくらいに胸に痛みが走った


あまりの痛みにうずくまり、歯を食いしばりながら耐える


彼女は色々と声を掛けて心配してくれているが


返事をする余裕はなかった


ドクドクと血液が流れる音が自分で聞こえる


彼女は狼狽していたが、


最終的には寄り添い、恐る恐るといった様子で背中を撫でてくれた


「…やっぱり急に動いたから、ダメだったんじゃろうか…」


半べそをかいたような彼女の声を聞いた


そんな悲痛な声を聞くと胸の奥が苦しくなる一方、


なぜか鼓動は落ち着いていった



 僕が起き上がった後も彼女はずっと悲しげな表情だ


痛みは既に引いていると伝えても明るさが戻らない


「…起き上がって平気じゃ…?」


「うん。今は大丈夫みたい」


「…なら、よいのじゃけど…」


そう返事はしたが、信じていないのは明白だった



 今降りてきた階段を見上げると、やっぱり高い


助けてもらったがよく降りられたなと自分を褒めたかった


改めて安堵するともう一度僕のお腹が鳴る


その音に彼女も気が付いた


「す、すぐ食事の準備をするのじゃ!

 ええと、時間を掛けずにすぐ出来るように豆と…

 あっ!御主はあっちのテーブルに移動するのじゃ!」

 

慌てながら僕を席に案内し、椅子に座らせる


それからすぐ彼女は調理場に急ぎ、食事の準備に取り掛かった




 あまり時間を置かずに彼女が戻ってきた


目の前に美味しそうなスープとパンが運ばれる


スープの温かい湯気とパンの香ばしい香りが食欲を掻き立て、


僕の口の中は唾液ですごい事になっている


「まだ熱いから気を付けるのじゃ

 …でもやはり、芋くらい入れるべきじゃったか…

 …パンも少し古くて、硬くて…」


どうやら料理の出来に納得がいっていない様子だ


僕からすれば何が不安なのか見当もつかない


だから不安そうな顔をやめてほしい、笑ってほしい


でも、その気持ちを上手く言葉にはできなかった



 匂いに誘われてスプーンを手に取った


すぐに食べようとしたが、とにかく熱い


「…熱っ…」


「気を付けるのじゃ!

 こうやって、息をかけて冷ましてじゃな…」


彼女は僕からスプーンを奪うと息を吹いて冷ましてくれた


それをそのまま僕の口に運び、食べさせてくれた


「…ど、どうじゃ…?

 …こんなものしか、食べ物は…ないのじゃけど…」


「…美味しい。もっと食べてもいい?」


「も、もちろんじゃ!

 でも、今みたいに冷ましてからじゃぞ?」


僕の言葉に気をよくしたのか、彼女はやっと笑ってくれた



 パンは千切って食べるのだと彼女を見て学んだ


いくつか口に運んでいるとスープにつけても美味しいと教えてもらった


飲み込むたびに身体の中から温まり、活力が湧いてくる


「…食べっぷりがよくて、ちょっと安心したのじゃ…」


彼女はそう呟いた後、食事が終わるまで喋らなかった


…。

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