秘密の場所
外に出て一緒にリーフの帰りを見送った
二人は友達になったらしく
行商以外にも遊びに来てくれると約束した
ドーラは今日も泊っていけばと誘っていたけれど
故郷に用事があるからと、今回は断られた
「初めて友達が出来たのじゃ」
「よかったねドーラ
ところで、今日は何をしようか」
「ん~…、…部屋の片づけからじゃな…」
僕達が衝突した後、色んなものが散らばった
ある程度リーフが片付けてくれたけど
細かい所はまだまだだ
ついでに周辺の掃除も兼ねてする事にした
掃除も終盤に差し掛かり
仕上げに箒で掃いていると
突然、リーフについて聞いてきた
「…リーフの事、どう思ったのじゃ?」
「良い子だなって思ったよ」
彼女が座っていた席を見ながら思い返す
小柄で可愛らしい子だった
僕を助けてくれた事はもちろんだけど
怖がっていたはずなのに
ドーラを受け入れてくれた事が好印象だ
本当に優しい、とても良い子だと思った
そうやってリーフを褒める度、
なぜかドーラはしょんぼりしてしまった
…。
初めて友達が出来た
一緒に遊んだり、相談したり、助け合ったり…
時に喧嘩もするだろうけど
かけがえのない存在だと、魔女が言っていた
だけど、オスが他のメスを褒めると胸が痛む
自分だって行商の事が気に入ったはずなのに
同じ意見のはずなのに
…なんで泣きたくなるのかわからない
オスの手を引いて寝室への階段を上がる
眠る為ではない
オスに内緒にしていた場所に案内するためにだ
薄暗い寝室の何もない場所
その壁をよく見れば扉になっている
扉の向こうはさらに上に続く階段で、
これを上がっていくと森が一望できる場所になっている
展望台に着いた
湖より遥か遠くまで見えるし、
よく見れば森の終わりまで確認できる
良い景色を見て楽しそうなオスに
今から、身勝手な宣言をしようと思う
「…本当は、この場所は…
…ずっと主には秘密にしておきたかったのじゃ」
「もしかして、ドーラだけの場所だった?」
「…わしはずっと、怖かったのじゃ…」
この場所は森のほとんどを見渡せてしまう
だから見覚えのある場所もあるかもしれない
それをきっかけに、記憶が戻る事が怖かった
「…何か思い出して…
…わしの事を怖がられるかもと、ずっと思ってたのじゃ…」
「…なら、どうして教えてくれたの?」
「…もう耐えられなかったのじゃ…」
怖がられる恐怖に加え、
他のメスに盗られる心配が増えた
これ以上、一人で不安を抱えるのは無理だった
思いの丈の全てを話した
ずっと一緒に居てくれるって言ったのに
それを信じられてない事も伝えて、謝った
そして、最後にもう一つだけ伝えたい事がある
「…主も森の暮らしがどういうものか
だいたいわかったじゃろ?」
「そうだね」
「…退屈じゃろ…?」
「そんな事ないよ
毎日楽しいんだ」
「…それに、リーフの方が主に似てたのじゃ
…姿が似てるメスの方が主も良いじゃろ…?」
「あはは、そんな事もないよ」
それがもし本当でも
今後、気になる他のメスに出会うとも限らない
だからその前に
自分勝手でずっと言いたかった言葉を
オスの目の前で、森に向かって叫んだ
「…主は、わしが拾ったからわしの物じゃー!
だから勝手に逃げちゃ、ダメなのじゃー!」
「…ドーラ…」
「…そ、そういう事で…よいかの…」
自分の物になったらいいと思っていた
そうなればオスの意思は関係なく、
ずっとずっと傍に置いておけるはず
…怖がられても、帰りたくても
どんな形であって、オスに近くに居て欲しい
我儘すぎて嫌われるかもしれない
でも、言わずには居られなかった
「…いいよ」
返事が怖くてギュッと目を閉じていた
少しだけ間が空いた後、
オスがそう返事をした気がした
…。




