三つの条件
彼の口から此処で過ごした日々の話を聞くと
龍人に対する恐怖はほとんど無くなっていた
でも少し世間知らずというか、不用心だと思う
思い出話を楽しそうに聞いていた龍人に
親切心で軽く注意をしておく
「素性のわからない人を家にあげると危ないですよ?
…特に男性は気を付けないと…」
「わかってるのじゃ
でも、主は大丈夫じゃ」
「…まぁ、良い人なのはわかりますけど…」
でも何者なんだろうか
パッと見た感じは特徴がなくて
思いつく種族が居ない
強いて言えば私と同じ森人に近い
森人の一番の特徴は長い耳だ
それと髪色が決まった色しか生まれない
私の里だと緑色か金色、またはその中間の色だけ
その二つの特徴を無視するなら、
見た目だけなら森人に似ている
「ねぇ主さん
---、-----?」
「…今、なんて言ったの?」
「今のは森人にしか通じない言葉なんです」
試しに森人の言葉を聞かせてみたが
彼にはわからないようだ
これ以上考えても無駄だろう
何か思い出すか、手がかりを見つかるまで
一旦は素性を調べるのは諦めるしかなかった
彼のお腹が鳴るとすぐに龍人は立ち上がった
用意をしてくるからと、
寝ている彼の介抱を任されてしまう
「僕も手伝うよ」
「ダメじゃ!動いたら怒るのじゃ
リーフ、動かない様に見張ってるのじゃ」
龍人の背中を二人で見送った
少しずつ性格が分かってきたが
かなり過保護な性格をしている
ドラゴンは気難しく、傲慢で攻撃的だという話があるが
人の姿をしたこの龍人は嫌いじゃなかった
彼と二人で話す機会が訪れた
改めて横になってる彼に向き合い、頭を下げる
「…助けてくれてありがとうございました」
「あはは、ドーラが走ってきた時の事?
あんな走り方初めて見たよ」
「…もう、呑気な人ですね」
想像していた返答のどれとも違った
怒ったり、何かを要求するとは思わなかったけど
恩を着せるようなことすら言わなかった
だからせめて、身体に不調がないか
事細かに聞き取りして大事がないか調べよう
料理ができたらしい
龍人と協力し、彼を席に移動させる
ふとテーブルを見ると料理は三人分だ
「まだ誰か何処かにいらっしゃるんです?」
「これはリーフの分じゃ
…もしかして、いらなかったのじゃ?」
「…私までいいんですか?」
私、というより森人は
森の中で火を使うのが怖い
なのでほとんどの食事が携帯食ばかりだ
パサパサの乾パンを食べる機会が一番多いので
かなり嬉しい申し出だった
さらに言えば龍人の作ったこのスープに
この近辺でしか採れない木の実が沢山入ってる
龍人の縄張りを荒らさぬよう
決して手を付けない様に気を付けて
ずっと我慢していた
それを食べる機会がついに訪れた
食事のお礼にと、洗い物は任せてもらった
初めての木の実は想像より美味しく、
少し採ってもいいか、聞こうか迷う
そんな事を検討しながら席に戻ると
神妙な顔をしていた龍人が
私を見てさらにバツが悪そうな顔に変わった
「…もう、色々持って来てくれないじゃ…?」
「なんでです?」
「…怖い思いをさせたらそうなるから気をつけろって…
…魔女がそう言ってたのじゃ…」
魔女と言う人物は知っている
龍人と暮らす変わり者だが
植物に詳しく、人格者だと両親に聞いた
私は最近になって両親から
此処を任されたばかりだから会った事はなく、
どうやら亡くなったらしいと、それも聞いていた
確かに怖い目にあった
今まで危険な目には多少あった事はあるけど
死に直面したのは初めてだし、
これを理由に二度と来ない選択も取れる
いくら貴重な鱗が得られるからといっても
命には代えられない
「ちょっと考える時間を貰っていいですか?」
少し時間を貰って真剣に考えた
きっと誰が悪いわけでもない
強いて言えば間が悪かったのだ
お互いを知った今ならそう思える
だが、そう思う反面
対策の一つでもないと不安と言えば不安だ
三つ条件を出すことにした
一つ、私に対して今後どんな事があろうとも手を出さない
二つ、私以外に対してもまずは手を出さずに
会話にて解決する糸口を探す
この二つは絶対条件だ
「此処まではいいですね?」
「…わかったのじゃ…
…三つめはなんじゃ…?」
「…私と、友達になってくれますか?」
最後は少し自信がなかった
身構えていた龍人も
最初は理解できなかったのか首を傾げている
だが次第に表情が明るくなり
友達になる事を笑顔で承諾してくれた
…。




