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人生で最悪な日

 私の頭は早々に走馬灯を見せた


だから此処で死ぬんだと、遅れて気が付いた


何処で間違えたんだろう


結局、この男の人は何者だったんだろう


死が目の前にあるのに


そんなどうでもいい疑問が浮かんでくる




 初めて見た龍人は恐ろしかった


本当に人の姿をしていて、噂は正しいんだと思った


今からあの鋭い爪と牙で私を攻撃するんだろうな


痛いのは、嫌だな


「…助けて…」


自然と口がそう動いた


誰に聞かせるでもなかったが


言わずにはいられなかった




 睨みながら一直線に走ってくる


恐ろしくて身体が硬直し、


目を逸らすことも


身を守る事も何もできない


ただ見る事しかできなかった


最後に龍人が跳躍する為に屈み、


いよいよ飛び掛かろうとしたその瞬間


私の前に人影が現れた


「…主!」


あの男の人が、私を庇ってくれたのだ




 二人そろって玄関に向かって吹っ飛んだ


色々な物を巻き込んだ壮絶な騒音


そして一瞬の静寂の後


龍人の慌てふためく声が聞こえた


「…ど、どうしたらよいのじゃ!

 血、血が!血が出てるのじゃ!」


視線を向けると彼はぐったりして


頭から血を流していた


意識もないのか龍人は焦り


身体を揺すって起こそうとしているが


あれはかなり危険な行為だ


深呼吸をし、覚悟を決める為に自分の頬を叩く




 立ち上がり、龍人に向かって叫んだ


「動かさないでください!」


私の存在を忘れていたようだ


驚いた表情で此方を見る龍人からは


大粒の涙が次々に零れている


「頭をぶつけた時は揺らすと危ないです

 血を吹くために綺麗な布と、綺麗な水が欲しいです」


「わ、わかったのじゃ!」


素直に準備する姿勢から


龍人によって大事な人なんだとわかった


とにかく注意深く彼を観察する


血が多く見えるけど傷口は小さい


コブもあるけど、全体的に軽傷に思える


多分、骨も折れていない


とりあえずなんとかなりそうだ


私でも対処できそうな怪我で


本当によかった




 戻ってきた龍人と彼の治療をした


とはいっても、血をそっと拭いた後に


傷口を抑えたり、コブを冷やす程度だ


そして幸いなことに


彼の意識はすぐに戻った


「…あれ…ドーラ…?

 …僕はどうなったの…」


「主!?気が付いたのじゃ!?

 …ほんとに、ほんとによかったのじゃ…」


二人きりにする為に少し距離を取った


今なら簡単に逃げられる


でも、彼の容体が気になった


散らばったものを片付けながら


もう少し、成り行きに任せてみよう




 聞き耳を立てているつもりはないけど


断片的な会話は聞こえてしまう


恐らく、龍人の方が彼に好意を寄せている


あまり盗み聞きするのも気が引けて


どうにか片付けに集中しようと


目の前に意識を向けた




 散らばった荷物に見覚えのある物がある


どうやら私の荷物も巻き込まれたようだ


もし彼の衝撃を和らげてくれたのなら


これくらい安いものだ


一通り集め終わったタイミングで


龍人が話しかけてきた


「…行商、主を助けてくれてありがとうじゃ…」


「…い、いえ!

 …元はと言えば私のせいというか、なんというか…」


意外にもお礼を口にし、


あまつさえ頭を下げてきたものだから驚いた


それに彼を見ると龍人に膝枕をされていて


本当に仲がいいんだと思った


それならそうと早く言ってくれればいいのに


なんて、少しだけ彼に腹が立った




 会話の流れから二人の名前が判明した


彼は主で、龍人はドーラという名前だった


龍人に名前があるとは知らなかったが


聞けば彼がつけたらしかった


「私は森人のエメラ・リフレイン

 エメラでもいいですし、知り合いからはリーフと呼ばれてます」


「…ならばリーフ…

 …誤解してすまなかったのじゃ…」


「誤解、ですか?」


申し訳なさそうに頷いた


龍人からは彼を連れ去ろうとしているように見え、


居てもたってもいられずに


私を排除しようと思ったらしい


まぁ、当たらずとも遠からずだ


龍人の怒りを買わぬよう


外に連れ出して話をしようと思ったのは事実


誤解を与えるような行動をしたから


私にも責任がある


それに、彼が自身の出自について


歯切れが悪い理由もわかった


「…本当に何も覚えてないんですか?」


「残念だけど、何も…」


「…そうですか…大変ですね…」


後ろめたさから誤魔化していたのかと


そう思っていたけど


質問に対して答えをもっていなかったようだ


記憶がないなんて普通なら信じられない


でも、私は長く行商をしているせいか


ほぼ確実に嘘が見破れる


おそらくだけど、


彼は今日、嘘を一つも言っていない


「…私も、ドーラさんの存在が怖くて焦ってしまって…

 …高圧的な態度をとって、ごめんなさい…」


彼は私の謝罪を受け入れたのか


優しく笑ってくれた


そして改めて、彼は今日までの事を話してくれた


…。

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