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綺麗な鱗

♢


目覚めると既にドーラは起きていた。

僕が起きたのに気づき、顔を覗いてくる。

昨日の夜に比べたら元気そうに見えてホッとした。



「おはよう、ドーラ」

「おはようじゃ。

 主のおかげでぐっすり眠れたのじゃ」

「ほんと?毎日乗って寝てもいいよ」

「…ん~、流石に寝づらそうじゃから毎日はよいのじゃ。

 …でもたまに、お願いするかもしれないのじゃ…」

「あはは。ほんとにいつでもいいよ」



確かに寝やすいかと言われたら違うかもしれない。

でもその分温かくて心地が良いから、

だから本当に毎日乗ってくれてもよかった。



「ん?なんだろうこれ…」



ドーラが起きて、僕も起き上がろうとした。

その時、身体の上に硬い何かがあるのに気が付く。

拾ってみると何処かで見た覚えがある。



「どうしたのじゃ?…なんじゃ。わしの鱗じゃったか」

「えっ!大変だ!」



慌てて飛び起き、強引にドーラをベッドに寝かせる。

驚いているドーラを他所に、身体をとにかく調べた。

薄暗い寝室では見づらくて、できるだけ顔を近づける。

それでも場所がわからずに、手で触れながら抜けた個所を懸命に探す。



「へ、平気じゃ!鱗が抜けただけじゃ!」

「だから大変なんじゃないか!」

「よくある事!よくある事じゃ!

 ちっとも痛くないから大丈夫じゃ!」

「…痛くない?」


痛みが無いと聞いて少し落ち着いた。

ドーラは調べられるのが恥ずかしかったみたいで、

今は自分を抱き締めるように腕で身体を隠している。



「本当によくあるの?」

「…生え変わって、また新しいのが生えるのじゃ…」



詳しく聞くと完全に抜け落ちるわけでもないようだ。

鱗の内側に新たな鱗が出来上がり、

外側の鱗が剥がれ落ちるから見た目も変わらないらしい。



「そっか、驚いちゃった」

「わしの方が驚いたのじゃ!

 …もしかして、今襲ってくれるのかと…」

「襲う?」

「…な、なんでもないのじゃ…」

「とにかく、痛くないならよかった」



ドーラの無事が分かると鱗が気になった。

窓際の明るい場所に移動して角度を変えながら観察する。

ドーラの鱗は基本的には黒色に見える。

日差しの中なら角度によっては赤い模様も見えたりする。

それをずっと綺麗だなと思っていた。

それが今、僕の手の中で自由に見れる事に感動を覚えた。



「…そんなに面白いじゃ?」

「うん。綺麗だからずっと見ていられる」

「鱗を褒められると悪い気はしないのじゃ。

 でもそろそろ終わりにして食事にするのじゃ」



もう少し見ていたかったけど確かにお腹も空いた。

鱗を大事にポケットに入れて一階へ移動する。


僕もやっと朝の習慣が馴染んできた。

まずは顔を洗って歯を磨く。

それから交互にトイレを済ませる。

そして一緒に朝食の準備をする。



「朝はパンと魚のどっちがよい?」

「今日はパンかな」



スープは必ず作る。

それに加えてパンか魚のどちらかを焼く。

どちらにするかは僕に決めさせてくれる事が多かった。

それらを食べながら今日の予定をドーラに聞く。



「今日は何するの?」

「えーっと、足りないものは…。

 おやつ用に木の実を採りに行くのじゃ」

「いいよ。沢山集めたいね」



食事が終わって洗い物を一緒に片付けた。

それから外に出て、手を繋いで歩き出す。

こんな毎日が続いている。


ドーラはこの森にとても詳しい。

一見すると同じような景色に見えるけど、

どれだけ森を歩いてもドーラは道を間違える事は無い。



「この辺が一番木の実が採れるのじゃ」

「此処は僕一人じゃ迷って来れなそうだね」

「…一人で何処にも行っちゃダメじゃよ?」

「安心して。約束したからちゃんとわかってる。

 でも、僕だって森に詳しくなりたい」

「…あ~、そういう…。

 …くふふ…森の中は迷いやすいからまだ無理じゃ」

「何処で進む方向を判断してるの?」

「ん~?なんとなくじゃ」



ドーラ曰く、方向はわかるからわかる。

といった感じでなんとなくわかるらしい。

確かに木しか見えないから目印なんてあるはずもない。


それでもなんとかコツを言葉にして貰うと、

木漏れ日の入り込む角度や風の流れ。

それら全てを参考にしているような気がすると教えてくれた。



「もし僕が迷子になったらどうすればいい?」

「手を離さないから大丈夫じゃ」

「それもそうだね」

「でもまぁ、もし本当に迷子になってしまったらそうじゃな…。

 大きな声でわしの名前を叫んで欲しいのじゃ。

 そしたら何処に居ても絶対見つけるのじゃ」

「わかった。必ず呼ぶね」



目的地についてしばらく木の実を採取した。

その帰り道、試しに僕がドーラの手を引いて帰ってみる。



「…あれ、こっちかな?

 ドーラ、こっちであってるよね?」

「さぁ、どうじゃろうな~」

「多分、あってると思うんだけど…」



大樹からまっすぐ歩いてきた気がするから、まっすぐ帰ればいいはずだ。

だからそれなりに自信はあった。

けど、いくら歩いても辿り着かない。

しばらく頑張ったけど、結局は諦めざるを得なかった。



「惜しいのじゃ。

 もう少しあっちに歩くと丘に出るのじゃ」

「でも大樹とはかなり離れてるね…。

 結構、難しい…」

「…くふふ…反対方向に行かないでよかったのじゃ」



余計に歩かせてしまったのにドーラはご機嫌だ。

でも、実は僕も楽しかった。


大樹に帰ったらまず水を一杯飲んで休憩する。

一息ついた後、採ってきた木の実を机に並べる。

それをドーラが選別する。

いつもなら隣でそれをじっと見るんだけど、

今日はポケットから鱗を取り出して、もう一度眺めずにはいられなかった。



「ん?まだ持ってたのじゃ?」

「これ、いつもどうしてるの?」

「…もしかして、欲しいのじゃ?」

「…えっと…うん、実は欲しい…」

「なら、それは主にあげるのじゃ」

「ほんと!?ありがとうドーラ!」



言い当てられると少し恥ずかしかったけど、

でも人目見た時からずっと欲しかった。

だから貰えたと思ったと同時に笑みが零れる。

この綺麗な鱗が、ドーラの一部が自分の物になったんだと感動を覚えた。



「そんなに喜んでもらえるとは思わなかったのじゃ。

 わしもなんだか鼻が高いのじゃ」

「でもポケットに入れたままだと落としそうで怖いね。

 森を歩く時もずっと気になってて…どうしたらいいかな?」

「…そうじゃなぁ…。

 なら、こういうのはどうじゃ?」



ドーラは提案で窓辺に飾る事にした。

此処ならいつでも見れるし、触りたいときに触れるからいい場所だ。

日差しも当たり、綺麗に輝いてる。



「昔、魔女が此処に花を飾っていたのじゃ」

「そうなんだ。でもやっぱり、この鱗は綺麗だね…」

「…くふふ…流石に褒めすぎじゃろ…」



そうは言いつつドーラも嬉しそうだった。

その日は何をするにしても気が付けば鱗に視線がいってしまう。

やっぱりドーラの鱗はとても綺麗だ。


…。

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