綺麗な鱗
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目覚めると既にドーラは起きていた。
僕が起きたのに気づき、顔を覗いてくる。
昨日の夜に比べたら元気そうに見えてホッとした。
「おはよう、ドーラ」
「おはようじゃ。
主のおかげでぐっすり眠れたのじゃ」
「ほんと?毎日乗って寝てもいいよ」
「…ん~、流石に寝づらそうじゃから毎日はよいのじゃ。
…でもたまに、お願いするかもしれないのじゃ…」
「あはは。ほんとにいつでもいいよ」
確かに寝やすいかと言われたら違うかもしれない。
でもその分温かくて心地が良いから、
だから本当に毎日乗ってくれてもよかった。
「ん?なんだろうこれ…」
ドーラが起きて、僕も起き上がろうとした。
その時、身体の上に硬い何かがあるのに気が付く。
拾ってみると何処かで見た覚えがある。
「どうしたのじゃ?…なんじゃ。わしの鱗じゃったか」
「えっ!大変だ!」
慌てて飛び起き、強引にドーラをベッドに寝かせる。
驚いているドーラを他所に、身体をとにかく調べた。
薄暗い寝室では見づらくて、できるだけ顔を近づける。
それでも場所がわからずに、手で触れながら抜けた個所を懸命に探す。
「へ、平気じゃ!鱗が抜けただけじゃ!」
「だから大変なんじゃないか!」
「よくある事!よくある事じゃ!
ちっとも痛くないから大丈夫じゃ!」
「…痛くない?」
痛みが無いと聞いて少し落ち着いた。
ドーラは調べられるのが恥ずかしかったみたいで、
今は自分を抱き締めるように腕で身体を隠している。
「本当によくあるの?」
「…生え変わって、また新しいのが生えるのじゃ…」
詳しく聞くと完全に抜け落ちるわけでもないようだ。
鱗の内側に新たな鱗が出来上がり、
外側の鱗が剥がれ落ちるから見た目も変わらないらしい。
「そっか、驚いちゃった」
「わしの方が驚いたのじゃ!
…もしかして、今襲ってくれるのかと…」
「襲う?」
「…な、なんでもないのじゃ…」
「とにかく、痛くないならよかった」
ドーラの無事が分かると鱗が気になった。
窓際の明るい場所に移動して角度を変えながら観察する。
ドーラの鱗は基本的には黒色に見える。
日差しの中なら角度によっては赤い模様も見えたりする。
それをずっと綺麗だなと思っていた。
それが今、僕の手の中で自由に見れる事に感動を覚えた。
「…そんなに面白いじゃ?」
「うん。綺麗だからずっと見ていられる」
「鱗を褒められると悪い気はしないのじゃ。
でもそろそろ終わりにして食事にするのじゃ」
もう少し見ていたかったけど確かにお腹も空いた。
鱗を大事にポケットに入れて一階へ移動する。
僕もやっと朝の習慣が馴染んできた。
まずは顔を洗って歯を磨く。
それから交互にトイレを済ませる。
そして一緒に朝食の準備をする。
「朝はパンと魚のどっちがよい?」
「今日はパンかな」
スープは必ず作る。
それに加えてパンか魚のどちらかを焼く。
どちらにするかは僕に決めさせてくれる事が多かった。
それらを食べながら今日の予定をドーラに聞く。
「今日は何するの?」
「えーっと、足りないものは…。
おやつ用に木の実を採りに行くのじゃ」
「いいよ。沢山集めたいね」
食事が終わって洗い物を一緒に片付けた。
それから外に出て、手を繋いで歩き出す。
こんな毎日が続いている。
ドーラはこの森にとても詳しい。
一見すると同じような景色に見えるけど、
どれだけ森を歩いてもドーラは道を間違える事は無い。
「この辺が一番木の実が採れるのじゃ」
「此処は僕一人じゃ迷って来れなそうだね」
「…一人で何処にも行っちゃダメじゃよ?」
「安心して。約束したからちゃんとわかってる。
でも、僕だって森に詳しくなりたい」
「…あ~、そういう…。
…くふふ…森の中は迷いやすいからまだ無理じゃ」
「何処で進む方向を判断してるの?」
「ん~?なんとなくじゃ」
ドーラ曰く、方向はわかるからわかる。
といった感じでなんとなくわかるらしい。
確かに木しか見えないから目印なんてあるはずもない。
それでもなんとかコツを言葉にして貰うと、
木漏れ日の入り込む角度や風の流れ。
それら全てを参考にしているような気がすると教えてくれた。
「もし僕が迷子になったらどうすればいい?」
「手を離さないから大丈夫じゃ」
「それもそうだね」
「でもまぁ、もし本当に迷子になってしまったらそうじゃな…。
大きな声でわしの名前を叫んで欲しいのじゃ。
そしたら何処に居ても絶対見つけるのじゃ」
「わかった。必ず呼ぶね」
目的地についてしばらく木の実を採取した。
その帰り道、試しに僕がドーラの手を引いて帰ってみる。
「…あれ、こっちかな?
ドーラ、こっちであってるよね?」
「さぁ、どうじゃろうな~」
「多分、あってると思うんだけど…」
大樹からまっすぐ歩いてきた気がするから、まっすぐ帰ればいいはずだ。
だからそれなりに自信はあった。
けど、いくら歩いても辿り着かない。
しばらく頑張ったけど、結局は諦めざるを得なかった。
「惜しいのじゃ。
もう少しあっちに歩くと丘に出るのじゃ」
「でも大樹とはかなり離れてるね…。
結構、難しい…」
「…くふふ…反対方向に行かないでよかったのじゃ」
余計に歩かせてしまったのにドーラはご機嫌だ。
でも、実は僕も楽しかった。
大樹に帰ったらまず水を一杯飲んで休憩する。
一息ついた後、採ってきた木の実を机に並べる。
それをドーラが選別する。
いつもなら隣でそれをじっと見るんだけど、
今日はポケットから鱗を取り出して、もう一度眺めずにはいられなかった。
「ん?まだ持ってたのじゃ?」
「これ、いつもどうしてるの?」
「…もしかして、欲しいのじゃ?」
「…えっと…うん、実は欲しい…」
「なら、それは主にあげるのじゃ」
「ほんと!?ありがとうドーラ!」
言い当てられると少し恥ずかしかったけど、
でも人目見た時からずっと欲しかった。
だから貰えたと思ったと同時に笑みが零れる。
この綺麗な鱗が、ドーラの一部が自分の物になったんだと感動を覚えた。
「そんなに喜んでもらえるとは思わなかったのじゃ。
わしもなんだか鼻が高いのじゃ」
「でもポケットに入れたままだと落としそうで怖いね。
森を歩く時もずっと気になってて…どうしたらいいかな?」
「…そうじゃなぁ…。
なら、こういうのはどうじゃ?」
ドーラは提案で窓辺に飾る事にした。
此処ならいつでも見れるし、触りたいときに触れるからいい場所だ。
日差しも当たり、綺麗に輝いてる。
「昔、魔女が此処に花を飾っていたのじゃ」
「そうなんだ。でもやっぱり、この鱗は綺麗だね…」
「…くふふ…流石に褒めすぎじゃろ…」
そうは言いつつドーラも嬉しそうだった。
その日は何をするにしても気が付けば鱗に視線がいってしまう。
やっぱりドーラの鱗はとても綺麗だ。
…。




