夜の湖と炒った木の実
またオスが手を引いて湖に向かってくれた
普段と違ってなんの準備もしていないのに
理由も聞かず、手を取ってくれた
絶対、断られると思ったのに
頷くどころか、オスは楽しそうに笑った
急ぎ足で湖に向かう最中
見覚えのある葉が岩に引っかかっていて
見つける度に残念な気持ちになった
けど、湖に到着すると
沢山の葉が中心に向かって流れていく
「…あっ!主と流した葉っぱじゃ!」
「やっぱり葉っぱが見たかったんだね」
「…バレてたのじゃ?」
「あはは、でも僕も見たかったんだ
…ドーラ、あれ見て
葉っぱも一緒に流れてきた」
途中で引っかかっていた葉だ
別の葉に押され
二枚が重なるように一緒に流れてきた
自分達と同じように手を繋ぎ
湖に遊びに来たようにも見えた
その葉が遠くに流れていくまで
オスと一緒に眺め続けた
流れる葉が見れて満足できた
でも、我に返ると問題は此処からだ
辺りは夜になりつつあり、
森へと続く道は真っ暗闇だ
この状況をオスはどう思っているのだろうか
恐る恐る顔色を伺うと
オスはまだ湖を眺めていた
「…ドーラ、夜の湖は綺麗だね…」
「…気に入ったのじゃ?」
「すごく気に入った
連れてきてくれてありがとう」
「…連れてきてくれたのは、主じゃよ?」
「でも行きたいってドーラが言ってくれた」
そう言いながら自分に向かって微笑んだ
来てよかったと、ようやくそう思えた
夜の湖を眺めながらゆっくりと歩いた
今日は幸運にも風が少ない
とはいえ、湖から吹く夜の風は冷たい
だからなのか
繋いだ手がいつもより熱く感じる
「寒くないじゃ?」
「大丈夫だよ」
それでもなるべく風がこなそうな場所を探した
見つけた場所にオスと一緒に座り、
今日は此処で過ごそうと提案した
「喉が渇いたら少しだけ湖の水を飲んでよいのじゃ」
「どうして少しだけ?」
「湧き水以外はあまり飲んではいけないらしいのじゃ」
魔女は川や湖の水を飲み過ぎるとお腹を壊すと言っていた
ただ実際に痛くなったことはないから
多分平気だとは思っている
それでも、念の為、オスの為だ
オスが再び湖を眺めるのに夢中になっている
その隙に小さな穴を掘る
少ないけど、食事の準備をする為だ
だが気が付けば
いつの間にかオスが此方に視線を変えていた
「湖を見ててよいのじゃ」
「ドーラが何してるか気になる」
「これは主の食事の準備じゃ」
掘った穴の中に罠で使った残りの木の実を入れた
その穴に向かって慎重に
焦がさない様に火を優しく吹いた
パチパチといい音がなり、多少香ばしい匂いもする
そうして炒った木の実は
オスの小腹を満たすくらいにはなってくれる
少ないから全部食べてもらうつもりだった
でもオスは頑なに一緒に食べると譲らない
「一緒がいいな」
「…なら、仕方ないのじゃ…」
一緒という言葉を使われると弱い
このオスはそれをわかってて言っているのだろうか
殻を割って渋々一つを口にすると
オスはとても嬉しそうだった
「これ、美味しいね」
「前に食べた時より美味しいのじゃ」
ないよりマシ程度の味だったはずなのに
今日の木の実はとても美味しい
食べながら木の実の調理法を教えてみた
煮たり炒ったり乾かしたりと
木の実の種類によって美味しい調理法が変わる
オスは興味津々で
帰ったら教える約束をした
話ながらゆっくり食べていると
意外にもお腹が満たされて眠くなってきた
しかし、オスの様子を伺うと眠くなさそうで
今度は湖ではなく、星に夢中みたいだった
「まだ眠くないじゃ?」
「…もうちょっと見てたいな」
「…ん~…
…星なら、こうやって寝転がって見た方がよいのじゃ」
少し強引にオスを仰向けに寝転がす
たまたま広がったオスの腕を見て
自分が収まるのにちょうど良さそうだと思いついた
「…ぴったりじゃ」
「あはは、温かいよ」
これならオスを温める事ができるし、逃げられない
こっそり匂いも嗅げるし、すべてが都合がいい
今後、一緒に寝る時はこの体勢にしようと思う
…。




