分かれ道と内緒の気持ち
丘で星を見てから数日が経過した
相変わらず思い出した事は何もない
けど、不安は減った
ドーラと過ごす毎日は何をしても楽しい
木の実や薪を集めたり
丘や湖に昼寝をしに行くだけの日もあった
そして今日は遠くの川に行く
川に行って魚を罠に掛けるようだ
途中までは湖に向かう道と同じようだ
何本か川が合流していると思っていたけど
そのうちの一本を上っていく
やがて大きな岩場の多い川に到着した
「その小さい袋は何が入ってるの?」
「これは魚が好きな木の実じゃ」
罠は川に放置してあるようだ
ドーラに教わりながら罠を点検し、
木の実を砕いて一緒に川に設置した
罠を確認するのは二日ほど待つようだ
二人で作業するとあっという間に終わり
川で少し遊んでいく事にした
「いつも罠を設置するのはめんどうなんじゃけど…
二人でするとらくちんじゃった」
「水が冷たくて気持ちが良いね」
「主がもうちょっと元気になったら
此処で水浴びしてもよいのじゃ」
僕自身はもう元気のつもりなんだけど
ドーラはまだ不安があるのか
よく身体の心配をしてくれる
視線の先に一枚の葉っぱが落ちてきた
落ちた葉は川の流れに沿うように流れて
すぐに見えなくなる
「わしも小さい頃に魔女と葉を流して遊んだのじゃ」
「僕もやってみたいな」
「…やってみるかの?」
お互いに乗り気になったので
一緒に葉を選び出した
最初は普通に流して遊び、
次にどちらの選んだ葉が濁流を越えられるか、
またはより早く流れるかを競い合った
時間を忘れて遊んだ
選んだ葉がよかったみたいで
勝負の大半は僕が勝った
「もう一回じゃ」
「あはは、いいよ」
ドーラは意外と負けず嫌いだった
楽しいから何度でも受けて立つつもりだけど
ふと見ると夜鳥が集まりだしている
ドーラもそれに気づき、今日はおしまいにすると言ったけど
名残惜しいのか、手に持った葉を見つめている
「…むぅ…残念じゃけど
そろそろ帰らねばならないのじゃ…」
「魚を見に来た時、もう一回勝負しようよ」
「…もう一回…?…そうじゃな!」
勝負の約束をすると嬉しそうだった
最後に持っていた葉をそっと流し、
見えなくなるまで二人で見送った
あの葉は何処まで行けるのか
無事に湖まで辿り着けるのだろうか
そんな事がなんとなく気になった
「…考えた事もなかったのじゃ…」
軽い気持ちで聞いただけだった
ドーラは予想以上に気になったらしく
帰り道も注意深く川を眺めている
しかし葉は見つからず
川の合流地点まで帰ってきた
此処までくれば大樹まであと少しだ
空を見ればあちらこちらに夜鳥を見かけるし
なんとなく辺りも暗くなってきた
でも、急げば夜までに帰れそうだ
なのに、ドーラは湖に続く先を見て動かない
「ドーラ?もうすぐ夜になっちゃうよ」
「…みっ…
…湖に、行きたいのじゃ…」
珍しく歯切れが悪い
此処から湖に行くのには帰るより時間が掛かる
もし夜までに着けたとしても
帰るのは絶望的だろう
しかしだ
帰れないからといって迷う事はない
ドーラの手を掴み
湖に向かって一歩進みだす
「行こうよ」
「…よいのじゃ…?
…多分、帰ってこれないと思うのじゃけど…」
「ドーラと一緒なら帰れなくてもいい」
下を向いていたドーラが僕をやっと見た
でも表情は複雑で
まだ行くかどうか迷っているようだ
そこで、ずっと内緒にしておいた
僕の気持ちを伝えることにした
「…実は、夜の湖はいつ行くのかなって思ってたんだ」
「…ほんとじゃ?」
「急に行ける事になって楽しくなってきた
ほら、早く行こうドーラ」
「…うむ!」
やっと安心してくれたようだ
暗くなりつつある道だけど
ドーラと手を繋いでいれば怖くない
…。




