ドラゴンの執着
オスが信じられないことを言い出した
それは本心なのだろうか
泣いていた自分に
ただ同情して言ってくれただけじゃないのか
それに、それを一度受け入れてしまえば
今後、何があろうと
二度と帰す気にはなれないだろう
だから…
「…一度だけ、聞かなかった事にしてあげるのじゃ…」
本当は無かったことにしたくない
でも、受け入れて逃げられるなら
無かったことにした方がきっと心が楽だ
今思った事を全部説明した
ドラゴンは執着心が強いから
一度オスを受け入れれば二度と帰さない
だから、軽はずみにそんな事を言わないで、と
そう伝えた
「…じゃから…
…一度だけ、忘れてあげるのじゃ…」
「…わかった…
…なら、今言った事は忘れていいよ」
その言葉が重くのしかかる
自分から言い出したのに涙が出そうだ
仕方ない
自分が言ったのだ
オスは悪くない
…でも、ひどく胸が痛い…
いたたまれない雰囲気に耐え切れず
手を叩き、わざと声を張った
「…さ、さぁて!
流石にそろそろ腹が減ったのじゃ
…とりあえず、食事じゃな…」
無理をして精一杯の明るい声をした
食欲はまったくないが
オスはきっと空かせているはずだ
「主もお腹、減ったじゃろ?
だから、そろそろ一階に…」
「ドーラ」
「なんじゃ?」
「僕はずっと此処に居ていい?」
「…は?」
「ドーラとずっと、一緒に居たいんだ」
「…な、なんで…
…せっかくわしが…一度だけって…」
怒りにも似た感情がこみ上げてくる
一度だけってちゃんと言った
オスの為を思って我慢したのに
それなのに、もう一度言ってくれた
「返事、聞かせて欲しいな」
「…良いに決まってるのじゃ!!」
叫びながらオスに飛びついた
その勢いでベッドに押し倒し、
オスの胸に額を擦りつける
「主はバカじゃ!
もう二度と森から出られないのじゃ!」
「あはは、これからよろしくね?」
オスの呑気な返事が嬉しくて
抱き着きながら声を上げて泣いた
寝てる間に言った我儘を
オスにちゃんと聞いてもらった
今日はもう夜だから出来ることは少ないけど
でも、食事をしたら星くらい見に行ける
「…湖は遠いからダメじゃけど
丘なら夜でも行けるから、星が見たいのじゃ」
「僕もドーラと星が見たい
なんだか楽しみだね」
「本当に楽しみじゃ!
なら急いで食事にするのじゃ」
急いで食事の支度をしよう
早くオスと一緒に星が見たい
そのついでに、オスと暮らすことになったと
魔女に報告がしたかった
簡単に食事を済ませて
小さな毛布をもって外に出た
辺りは暗いが、丘に続く道は
それなりに星明りが届いている
「夜の森はちょっとだけ怖いね」
「怖いじゃ?
あれなら、やめとくじゃ?」
「大丈夫だよ
…だけど、手は繋いでもいい?」
そう言ってオスが差し出す手に
また指を絡めて繋ぎ、ゆっくりと丘に向かって歩き出す
夜の森が怖いと思う感覚がわからなかった
だから、何が怖いのか聞いてみた
「なんでだろう?
迷ったら帰れなさそうだからかな?」
「今は平気じゃ?」
「今は手を繋いでるから平気だよ」
その答えに少しばかりの誇らしさを感じる
だが、冷静に考えると変な話だ
ドラゴンより夜の森が怖いなんて
変わったオスでよかった
丘に到着した
前回同様、オスと並んで座り、
少し小さい毛布を二人で分け合う
「…くっつくと温かいのじゃ…」
「…うん…温かい…」
やっぱり、一人より二人の方が温かい
オスの体温を感じながら
こうして眺める星は綺麗だった
…。




