執着心
答えを知りたかった
でも物悲しげな表情に急かすことはやめた
しばらく待つとドーラが繋いだ手に力を込める
「…一度だけ…聞かなかったことに、してあげるのじゃ…」
「聞かなかったこと?」
「…じゃないと、ずっと此処で過ごす羽目になるのじゃ…」
今度は此方を見ず、下を向いたまま説明してくれた
…。
オスが此処に居ると言ってくれて嬉しかった
すぐにいいよと言いたかった
でも多分、ドラゴンは執着心が強いから
一度受け入れれば取り返しがつかないから
だから、一回だけ聞かなかったことにしてあげた
「…じゃから、一回だけ、忘れてあげるのじゃ…」
「一回だけ…
…そっか。わかった」
自分から言い出した事なのに、オスの返事がひどく悲しかった
食事をする為に手を離して立ち上がった
無理をして明るい声も出せたと思う
でもオスから返ってきた言葉に耳を疑った
「と、とりあえず食事でもするのじゃ!
…お腹、減ったじゃろ?」
「ドーラ。僕はずっと此処に居てもいい?」
「…は?」
「一緒に居たいんだ」
「…なんで…せっかく、わしが…」
せっかくオスの為を思って言ったのに
忘れるのは一回だけって言ったのに
怒りにも似た激しい感情が沸き上がり、我慢できない
「返事、教えて欲しいな」
「…良いに、良いに決まってるじゃろ!」
大声で返事をしながらオスに飛びついた
勢いに任せ、そのままベッドに押し倒す
オスの胸の上で今まで言えなかったことを
今から全部、聞いてもらうまで許さない
「主はバカじゃ!もう二度と森から出られないのじゃ!」
「あはは。よろしくね?」
オスの呑気な返事が嬉しくて、抱き着きながらまた泣いた
一緒にやりたい事を全部話した
今日は既に夜だからできる事は少ないけど、
食事をしたら星を見に行きたい
「湖には行けないんじゃけど、丘なら夜も行けるのじゃ」
「楽しみだね」
「うむ!」
急いで一階に降りて、早く食事の準備をしよう
早くこのオスと一緒に星が見たい
ついでにオスと暮らす事を魔女に報告したかった
食後、小さな毛布をもって外に出た
辺りは暗いが丘に続く道は比較的星明りが届いている
気になるのはオスが少しおびえた様子で辺りを見渡している事だ
「夜の森はちょっとだけ怖いね」
「怖いじゃ?やめとくじゃ?」
「大丈夫だけど、手を繋ぎたい」
また指と指を絡めて繋ぎ、ゆっくりと丘に向かって歩き出した
自分には夜の森が怖いと言う感覚がわからない
歩きながらオスに何処が怖いのかと聞いてみた
「なんでだろう?迷ったら帰れなさそうだからかな?」
「今は平気じゃ?」
「今は手を繋いでるから平気」
その答えに安心しつつ、
ドラゴンより夜の森が怖いというオスがおかしかった
丘に着き、魔女の木を背にして並んで座る
今日は緑色の大きな星が一段と明るく見えた
二人で使うには少し小さい毛布
それを理由にオスとぴったりくっついた
オスの体温を感じながら見る星はとても綺麗だった
…。