対等
身体を強く揺すったはずなのに、
オスは不自然なくらい、目を覚まさなかった。
寝てる間に、また体調が悪くなったのかと別の不安に襲われる。
もっと強く揺すってもダメで、
声を掛けながら、軽く頬を叩く。
そうする事で、やっとオスが目を覚ましてくれた。
「…主、大丈夫じゃ…?」
「…僕、寝ちゃったんだ…。
…ごめん、ドーラ…」
「…何で、謝るのじゃ…?」
「一緒に寝ちゃいけないって、言ってたから…。
朝まで寝ないで、ドーラが起きるのを待とうと思ったんだ」
「…どうして、そんな事したのじゃ…?」
「泣いてたから、近くに居たかった」
そう話しながらも、ひどく眠そうなオス。
きっとさっきまで、明け方近くまで頑張ってくれたんだ。
泣いてる自分の為に、眠いのを我慢して、一人で夜を耐えたんだ。
それを理解した瞬間、自分の胸にオスを頭を迎え入れる。
きっと此処が自分の身体で、一番柔らかい。
「…このまま、もう一度眠るとよいのじゃ…」
「…一緒に寝てもいいの…?」
「…よいのじゃ…今は何も考えず、寝て欲しいのじゃ…」
「…ありがとう…少しだけ、眠るね…」
また、オスはあっという間に眠ってしまった。
眠ってしまったけど、離れる気は起きない。
どうしても聞きたい事があったから起こしたのに、
今はそれもどうでもいい。
今はただ、こうして触れていたい。
「…ずっと、一緒にいたいのじゃ…」
このオスと一緒に、ずっと森で生きていきたい。
漠然と思っていた願いを、ちゃんと言葉にした。
もう後には引けないくらい、強い想いが溢れていく。
自分は、どうしようもないくらいこのオスが好きだ。
それが、はっきりした。
長い時間が過ぎた。
こうして抱き締めていれば逃げられはしないと、少し安心しながら眠れた。
明けた空が、再び薄暗くなっていく。
夜鳥が集まる時間になって、ようやくオスがもぞもぞと動いた。
「…あれ…まだ朝…?」
「もう夕方じゃ。もうすぐ夜が来るのじゃ」
「えっ!そんなに寝ちゃったんだ…。
…ドーラ、ずっと一緒にいてくれたの?ごめん、僕のせいで…」
「好きでした事じゃから、よいのじゃ。
それにわしも、ちょくちょく寝てたから平気じゃ」
起き上がり、ベッドに並んで座った。
窓から森を眺め、木の枝を指差す。
「あそこに、夜鳥の巣穴があるじゃろ?
多分、昨日の夜にうるさかったのはあいつじゃ」
「あれはびっくりしたね。
夜鳥、もうすぐ出てくるかな?」
「そろそろ出てくるはずじゃ。…お腹、減らないじゃ?」
「僕は平気。ドーラは?」
「わしも大丈夫じゃから、見ていくのじゃ」
ほんの少し待つと、一匹の夜鳥が姿を見せた。
それからすぐに二匹、三匹と数を増やす。
普通、一つの巣穴から三匹から五匹ほどが出てくる。
でも大樹から一番近い巣穴からは、七匹も出てきてちょっと驚いた。
多分、この中に昨日の騒がしかった迷惑な奴が居る。
「次は寝坊するんじゃないのじゃ」
一応、夜鳥達を叱っておいた。
といっても言葉が通じるわけもなく、首を傾げるだけだった。
本格的に夜が来て、その夜鳥達も一斉に飛び去った。
森が、また静寂に包まれる。
泣いた言い訳をするべきか、それとも感謝を伝えるべきか。
何から口にしようか迷っていると、オスが手を重ねてくれた。
「どうして泣いてたか、聞いてもいい?」
「…。…言いたく、ないのじゃ…」
少し悩んで、そう答えた。
せっかく聞いてくれたから、全部伝えてもよかった。
でも、これ以上情けない姿を晒したくもなかった。
オスにとって頼れる自分でありたい。
不安は胸にしまって、全部うやむやにして誤魔化して、
頼れる自分を演じた方が、きっと好かれると思った。
「…それじゃ、泣いた理由は聞かないようにする。
代わりにもう一つ、聞いてもいい?」
「…なんじゃ…?」
「僕はずっと此処に居てもいい?」
オスが言った言葉の意味をすぐに理解できなかった。
慌ててオスの顔を見るが、まっすぐ森を見つめている。
すぐにいいよって返事をしたい。
今すぐ抱き着いてしまいたい。
それを、本当にぎりぎりのところで自制した。
オスから言ってくれたのだから、きっと本心なんだろう。
でも、その言葉を貰う前に、
記憶が無いオスの為に、ちゃんとドラゴンの危険性について教えないといけない。
それが、優しいオスと対等にいる為の誠意だと思った。
…。




