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魔女の夢

 夜鳥が遠く離れていく音がする


静かになった後、布団から少し顔を出し


耳を澄ませてみたものの


オスが寝ている方角からは物音ひとつしなかった


あの鳴き声でも起きないほどぐっすり眠っているのか


もしくは、既に、そこに居ないのか



 自分が寝ている間に記憶が戻ったら


恐ろしいドラゴンが同じ部屋で寝ているとわかったら


オスは息を殺して逃げるだろうか


全部想像でしかない


あの優しいオスはそんなことしない


本当にそう思うなら見に行けばいい


寝ている姿を確認すればいい


わかっているのに


ベッドから降りようとした足が


地面に着く手前で固まって動かない




 もし見に行って居なかったらどうする


この暗い森で逃げた方向すらわからないなら


流石に探すのは不可能だろう


それに逃げたのなら


追いつけたとしても意味がないのではないか


結局、どうしようもない


そっと布団に潜り直し


声を殺して泣くしかない




 魔女が助けに来てくれた


身体を丸めて泣いていると


昔のように、寄り添うように一緒に寝てくれた


無口なのも相変わらずだ


あまりの懐かしさに我慢できず、


声を上げて泣いてしまった




 泣きすぎて頭がボーっとしてきた


今が夢か現実か、その判断ができない


でもどちらでもよかった


どちらにせよ、魔女は魔女だ


「…魔女…わしは怖いのじゃ…」


「何が怖いの?」


「…あのオスがわしの前から消えるのが怖い…」


「大丈夫、ずっと此処に居るよ」


「…魔女がそう言うなら…安心じゃな…」


魔女は欲しい言葉をくれる


恐怖が薄れ、気分が多少マシになってきた


でもせっかくだから精一杯甘えよう




 頭を撫でて欲しいと言えばすぐ撫でてくれたし


角と尻尾の付け根を揉んでほしいと言えば


どっちも優しく揉んでくれた


普段なら甘えん坊だねと笑われているはずなのに


何も言ってこない


慰めているつもりなんだろう


おかげで寂しくて死んでしまいそうだった


長いこの夜も、どうにかやり過ごせそうだった




 気が付かないうちに眠れていたらしく


目覚めると外が薄明るくなっていた


しかし、起きたはずなのに


まだ背中に温かさを感じる


あれは夢ではなかったのか?


まさか本当に魔女が生き返ったのか?


その正体を確かめるべく


ゆっくりと身体を反転させた


でもそこに居たのは魔女ではなくて


まだ眠っているオスだった




 色んな疑問が頭に浮かんできた


どうして同じ布団で寝てるのか


いったい何時から寝てるのか


昨夜話したのは魔女ではなくて


もしかしてオスだったのか


色々と考えてみたが


最後には全部どうでもよくなった


目の前にオスが居てくれる


その事実だけで嬉しかった




 いや、冷静に考えると少しまずい


あれほど情けなく泣いてしまったわけだから


言い訳をしなければいけない


取り繕わなければ嫌われてしまう


昨日、自分はなんて言ったんだっけ


そして魔女…いや、多分このオスだけど


なんて返事をしてくれたんだっけ


「…あっ…」


欲しい言葉をくれたのは


魔女ではなく、このオスなんだと気が付いた


ずっと此処に居ると、そう言ってくれた


でもあれが夢なのか現実なのか曖昧だ


それを確認せずにはいられない


…。

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