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泣いたドラゴン

♢



湖で目を覚ますと、僕の腕に抱き着くようにしてドーラが眠っていた。

明るい場所だから、気持ちよさそうな寝顔がよく見える。

起こさないように、できるだけ動かないように、その顔をしばらく見続けた。


長い時間、ドーラの眠った顔を眺めていた。

しかし、少し無理な体勢のせいで首に痛みを感じる。

少し休憩しようと地面に頭を付け、上を見上げた。


その視線を向けた先で、たまたま一匹の夜鳥を見つけた。

他の木を見渡しても、多分その一匹しかいない。

もしかして、最初の一匹なのかもしれない。

なんとなく珍しい気がして、少し嬉しい気持ちになった。


しばらく夜鳥の動きを追っていると、ふとドーラの言葉を思い出す。

"夜鳥を見かけたら必ず引き返すんじゃ"

つまり、残念だけどもう帰るしかない。


気持ちよさそうに寝てるドーラを起こすのは忍びない。

起こしたくないけど、約束は仕方ない。

湖にも名残惜しさを感じつつ、声を掛けて起こす事にした。



「ドーラ、起きて…」

「…んんっ…?」



ドーラはすぐに目を開けた。

でもまたすぐに閉じて、僕の腕に抱き着き直した。



「…もうちょっと、こうしてたいのじゃ…」

「ごめん、まだ眠いよね。

 …でも、急いで帰らないといけないんだ」

「…っ…」



ドーラの口から息だけが漏れて、身体が大きく震えた。

それから抱き着く手に力が入り、少しだけ爪が食い込んだ。



「…もう…もう、終わりじゃ…?

 …こんなに突然…終わるんじゃな…グスッ…」



ドーラは声を我慢することなく泣きじゃくった。

突然の事に困惑した僕は、すぐに声を掛けられない。

ドーラはしばらく泣き続け、何度も何度も、僕の腕で涙を拭った。


ゆっくりと腕が涙で濡れていく。

やがて、その腕をドーラが離した。



「…主は帰ってよい…。

 …わしはこのまま…湖にほっといてほしいのじゃ…」



そう呟くと、ドーラは僕に背中を向けて小さく丸くなった。

震えながら、声を我慢して泣いている。

正直、泣いてる理由はよくわからない。

でも、今僕がどうすればいいか、それはわかる。


自然と、ドーラと同じことをしてあげたいと思った。

昨夜、うなされていた僕を助けてくれた時のように、安心させたい。


ドーラの背中側から、何も言わずに抱き着いた。

すると前に回した僕の手に、ドーラがそっと触れる。



「…かえっ…ぐすっ…帰らないのじゃ…?」

「ドーラが帰らないなら、僕も帰らないよ」

「…かえっ…ヒック…帰らなくても…よいのじゃ…?」

「帰るなら、ドーラと一緒が良い」

「…どこ…何処に、帰るのじゃ…?」

「大樹だよ」

「…大樹…?…大樹なら一緒に…一緒に帰るのじゃ…」



ドーラは泣いたまま、何度も帰ると呟いた。

まるで自分に言い聞かせるように、何度も何度も呟いた。


やがてゆっくり立ち上がったドーラと手を繋ぐ。

繋ぎ方は行きと違い、まだ僕の知らない形だった。

指と指を交互に絡めるようにして手を繋ぎ、大樹へと歩き出す。


この繋ぎ方は手を引いて歩くのには向いてない。

でもドーラの体温が感じられて、こっちの方が好きだと思った。



「僕、湖で夜鳥を見つけたんだ」

「…夜鳥じゃ…?」

「この辺にはまだ居ないね。一匹だけ見つけた」

「…湖なら多分…群れの長じゃ…」



夜鳥の長は見通しのいい場所で、誰よりも早くから空を眺めるそうだ。

仲間が現れないうちはままだま夜にならない。

つまりあれは、僕の早とちりだった。



「…そっか。なら急いで帰る必要はなかったね」

「…いや、洗濯物を取り込むならちょうどよい…。

 …また手伝って、くれるかの…?」

「もちろん。任せてよ」



洗濯物を集め終わると、その辺の木々には夜鳥が集まっていた。

だからドーラの言う通り、帰るタイミングはちょうどよかった。

そのはずなのに、ドーラの泣き声や、小さく丸まった姿が頭から離れない。



「…後はこれを畳むだけなんじゃけど…。

 …でも、主は先にお風呂じゃ…」

「片付けてからでいい」

「…気づいてないかもしれないのじゃけど…、

 …主は砂埃だらけじゃから…」

「え?…あ、本当だ…」



頭の後ろや腰を触ると、砂粒がぱらぱらと落ちた。

大樹に入る前にできるだけ叩いて、それを落とす。

その後、再度お風呂に入るよう勧められてしまった。


本当はドーラと色々話したかったし、傍に居たかった。

でも実際に汚れているし、二度は断りづらい。

まずは身体を綺麗にして、その後で泣いた理由を聞いてみようと思った。


…。

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