泣いたドラゴン
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湖で目を覚ますと、僕の腕に抱き着くようにしてドーラが眠っていた。
明るい場所だから、気持ちよさそうな寝顔がよく見える。
起こさないように、できるだけ動かないように、その顔をしばらく見続けた。
長い時間、ドーラの眠った顔を眺めていた。
しかし、少し無理な体勢のせいで首に痛みを感じる。
少し休憩しようと地面に頭を付け、上を見上げた。
その視線を向けた先で、たまたま一匹の夜鳥を見つけた。
他の木を見渡しても、多分その一匹しかいない。
もしかして、最初の一匹なのかもしれない。
なんとなく珍しい気がして、少し嬉しい気持ちになった。
しばらく夜鳥の動きを追っていると、ふとドーラの言葉を思い出す。
"夜鳥を見かけたら必ず引き返すんじゃ"
つまり、残念だけどもう帰るしかない。
気持ちよさそうに寝てるドーラを起こすのは忍びない。
起こしたくないけど、約束は仕方ない。
湖にも名残惜しさを感じつつ、声を掛けて起こす事にした。
「ドーラ、起きて…」
「…んんっ…?」
ドーラはすぐに目を開けた。
でもまたすぐに閉じて、僕の腕に抱き着き直した。
「…もうちょっと、こうしてたいのじゃ…」
「ごめん、まだ眠いよね。
…でも、急いで帰らないといけないんだ」
「…っ…」
ドーラの口から息だけが漏れて、身体が大きく震えた。
それから抱き着く手に力が入り、少しだけ爪が食い込んだ。
「…もう…もう、終わりじゃ…?
…こんなに突然…終わるんじゃな…グスッ…」
ドーラは声を我慢することなく泣きじゃくった。
突然の事に困惑した僕は、すぐに声を掛けられない。
ドーラはしばらく泣き続け、何度も何度も、僕の腕で涙を拭った。
ゆっくりと腕が涙で濡れていく。
やがて、その腕をドーラが離した。
「…主は帰ってよい…。
…わしはこのまま…湖にほっといてほしいのじゃ…」
そう呟くと、ドーラは僕に背中を向けて小さく丸くなった。
震えながら、声を我慢して泣いている。
正直、泣いてる理由はよくわからない。
でも、今僕がどうすればいいか、それはわかる。
自然と、ドーラと同じことをしてあげたいと思った。
昨夜、うなされていた僕を助けてくれた時のように、安心させたい。
ドーラの背中側から、何も言わずに抱き着いた。
すると前に回した僕の手に、ドーラがそっと触れる。
「…かえっ…ぐすっ…帰らないのじゃ…?」
「ドーラが帰らないなら、僕も帰らないよ」
「…かえっ…ヒック…帰らなくても…よいのじゃ…?」
「帰るなら、ドーラと一緒が良い」
「…どこ…何処に、帰るのじゃ…?」
「大樹だよ」
「…大樹…?…大樹なら一緒に…一緒に帰るのじゃ…」
ドーラは泣いたまま、何度も帰ると呟いた。
まるで自分に言い聞かせるように、何度も何度も呟いた。
やがてゆっくり立ち上がったドーラと手を繋ぐ。
繋ぎ方は行きと違い、まだ僕の知らない形だった。
指と指を交互に絡めるようにして手を繋ぎ、大樹へと歩き出す。
この繋ぎ方は手を引いて歩くのには向いてない。
でもドーラの体温が感じられて、こっちの方が好きだと思った。
「僕、湖で夜鳥を見つけたんだ」
「…夜鳥じゃ…?」
「この辺にはまだ居ないね。一匹だけ見つけた」
「…湖なら多分…群れの長じゃ…」
夜鳥の長は見通しのいい場所で、誰よりも早くから空を眺めるそうだ。
仲間が現れないうちはままだま夜にならない。
つまりあれは、僕の早とちりだった。
「…そっか。なら急いで帰る必要はなかったね」
「…いや、洗濯物を取り込むならちょうどよい…。
…また手伝って、くれるかの…?」
「もちろん。任せてよ」
洗濯物を集め終わると、その辺の木々には夜鳥が集まっていた。
だからドーラの言う通り、帰るタイミングはちょうどよかった。
そのはずなのに、ドーラの泣き声や、小さく丸まった姿が頭から離れない。
「…後はこれを畳むだけなんじゃけど…。
…でも、主は先にお風呂じゃ…」
「片付けてからでいい」
「…気づいてないかもしれないのじゃけど…、
…主は砂埃だらけじゃから…」
「え?…あ、本当だ…」
頭の後ろや腰を触ると、砂粒がぱらぱらと落ちた。
大樹に入る前にできるだけ叩いて、それを落とす。
その後、再度お風呂に入るよう勧められてしまった。
本当はドーラと色々話したかったし、傍に居たかった。
でも実際に汚れているし、二度は断りづらい。
まずは身体を綺麗にして、その後で泣いた理由を聞いてみようと思った。
…。




