もし終わりがあるのなら
泣いた理由はわからない
でもドーラが僕にしてくれたように
今は抱き締める事が大事だと思った
背中側からになってしまうけど
隣に寝転がり、そっと抱き締めた
すると前側に回した僕の腕にドーラが触れる
「…かえっ…ぐすっ…帰らないのじゃ…?」
「ドーラと一緒なら帰るよ」
「…どこに…ひっく…帰るんじゃ…?」
「大樹にだよ」
「…大樹…」
ドーラは泣きながら一緒に帰ると何度も呟いた
それは僕に言っているのではなく
自分に言い聞かせるようだった
大樹に続く道を再び手を繋いで歩いた
行きと違うのはドーラの元気がない事
それに手の繋ぎ方だ
今度は指と指を絡めるようにして繋ぎ
ギュッと力が込められている
手を引いて歩くには向かないが
こっちの方が温かくて好きかもしれない
大樹についても空はまだ明るかった
洗濯物を集めながら夜鳥を見つけたことを話し、
どうして夜がまだ来ないのかを聞いた
僕が見つけたそれは群れの長で、
見晴らしのいい場所で、誰よりも早く空を眺めるらしい
「そっか…
急いで帰る必要はなかったのか…」
「…いや、洗濯物を取り込むならちょうどよいくらいじゃ…
…ほれ、あそこを見るがよい…」
ドーラが指さした先に夜鳥が集まりだしていた
結構な数が枝で待機しており、
あと少しで夜になるそうだ
だとしたら湖でドーラを起こしてよかった
よかったはずなのに
ドーラの泣き声が頭から離れない
辺りが暗くなり始めた頃
ちょうど洗濯物を集め終わった
しかしこれで終わりではなく
これから大量の洗濯物を畳む必要があるようだ
「僕も手伝うよ」
「…主は…先にお風呂じゃな…」
気が付かなかったけど
僕の服は砂埃にまみれているらしい
玄関に洗濯物を置いてからもう一度外に連れ出され、
背中やお尻などを軽く叩いてもらった
…。
多少強引だったかもしれないが
オスにはお風呂に行ってもらった
姿が見えなくなり、
ずっと堪えていた涙が再び流れ始めた
「…ひっく…勘違いじゃった…」
オスが何かを思い出したのかと思った
だから古巣に帰ると言い出したのだと
そんな早とちりをしてしまった
勘違いでよかった
でもいつか、勘違いじゃない時がくる
-もう帰らないと-
オスの口からその言葉が出るかもと
想像するだけで怖くて仕方がない
一緒に洗った服を抱き締める
これは魔女の物であり、オスの為に洗った物だ
これらを洗った意味が無くならなくてよかった
もしオスが本当に帰っていたら
これらを一人で片付ける事なんて
そんな悲しい事、到底できやしない
「…あっ…また渡してないのじゃ…」
また着替えを渡すのを忘れてしまった
急ぎ顔を洗い、
綺麗な服を一式持ってお風呂へ向かった
扉の前で立ち止まる
昨日、裸を見てしまった時
オスは恥ずかしそうにしていたからだ
今回は軽く扉を叩いて合図してみるが
特に反応はない
そっと扉を開けて中を覗くと姿はなく、
もう浴室にいるようだ
邪魔をしないように
できるだけ音を立てずに脱衣所に入ってみた
目立つ場所に着替えを置いて
これでするべき事は終わった
でも浴室の扉の前に立った
このまま声を掛けずに戻る事もできる
できるけど、オスと過ごす時間に終わりがあるのなら
勇気を出したい
少しでも一緒に居たい
だから…
…。