湖で休憩を
しばらく歩いた後、
歩き疲れた僕らは座って休憩することにした
歩いて火照った身体に
湖で冷やされた風がちょうどよかった
そして、先ほどの夜の湖の事が気になった
「ねぇ、あの道は夜通れないんだよね?
どうやって此処にくるの?」
「明るいうちに来て、暗くなるのを待つのじゃ
それで朝まで待ってから帰るのじゃ」
「そっか
…今日もそうする?」
「…くふふ…残念じゃけど、今日はダメじゃ…」
一晩過ごすには準備が必要らしい
食べ物はもちろんだけど
防寒対策に毛布やらが必須だった
少し残念だけど、急だったので大人しく諦める
「本当は主にも見て欲しいんじゃよ?
わしの好きな景色を主にも見て欲しい
…できればいつか、一緒に…」
その先をドーラは口にしなかった
僕だって一緒に見たいと思っている
…でも、寂しそうな顔で口を噤んだ理由を考えれば
軽々しく誘えなかった
洗濯物が乾くまでまだまだ時間が掛かるらしく
少しお昼寝をしていきたいようだ
「洗濯をした日は決まってお昼寝してたんじゃけど…
…少し、お昼寝していってもよいかの…?」
「もちろんいいよ
…実は、僕も少し眠かったんだ」
湖を見た時は興奮して大丈夫だったのだけど
洗濯で多少なりとも疲れていた僕も
こうして座っていると眠気が顔を出してきていた
そこから眩しくないように木陰に移動し、
二人で並んで地面に寝ころんだ
…。
最初は寝たふりをしてみたが
オスが逃げ出す雰囲気はなかった
これだけ近い距離で眠ってくれるなら
多分、怖がられてないだろう
まぁ、昨日も一緒に寝たから
それはそれほど心配はしていないけど、
こうして色んな事で確認していけば
より安心できるというものだ
湖に着くとオスは景色に見惚れていた
その時、無意識なのだろうけど繋いだ手に力が入った
簡単に振りほどけないほど力強く、
でもそれが、とても心地よかった
それが忘れられなくて
寝てるオスの手にそっと触れてみた
「…主…」
小声で呼びかけてみたが反応はない
それをいいことに少しずつ近づいて
大胆に身を寄せて手を握った
…。
お昼寝からは先に起きたのは僕だった
いつの間にかドーラが腕に抱き着いて眠っている
寝室と違い、明るい場所だから寝顔がよく見える
いつまでも見ていられた
見ていられたけど、
起こさない様に首だけを動かして見ていたために
限界がきた
首を休めるために上を向くと
視界の端に一匹の夜鳥を見つけた
なんとなく自分だけで見つけられて嬉しい
そんな喜びを感じていると
ふと、道中に聞いた魔女の約束を思い出した
気が引けるが起こさなければならない
小さく揺すりながら呼びかける
すると小さく唸りながらもぞもぞと動き出した
そして、一瞬だけ目を開けてくれたけど
腕に抱き着き直すと再び、目を閉じてしまった
まだ眠いなら寝かせてあげたい
でも、伝える事は伝えなければいけない
「…ドーラ、急いで帰らないとなんだ」
ドーラが一瞬びくっと震えた
それから僕の腕を強い力で掴んで
少し痛むほどだった
「…もう、終わりじゃ…?
…こんなに急に、突然に終わるんじゃな…」
それだけ口にすると
なぜかドーラは泣きじゃくってしまった
突然の大泣きに困惑してしまい
すぐに慰める事ができなかった
徐々にドーラの涙で腕が濡れていく
そして少し泣き止んだ後、僕の腕を離した
「…帰ってよい…
…わしは、このまま…ほっといてほしいのじゃ…」
そう言って背中を向けて小さく丸まった
そして震えながら声を殺して泣いている
そんなドーラに対して
僕がすることは決まっていた
…。