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恩返し


森で彷徨う夢を見た。

星明りも無い真っ暗な森を、目的もなくただひたすらに歩き続けている。

長い時間を経て、やっと見覚えのある丘を辿り着いた。

既に体力も限界で、その場に倒れこむ。

地面の冷たさや身体が冷えていく感じがどこか懐かしい。



「…ドーラに…会いたいな…」



自然とそんな言葉が口から零れた。

そうだ。僕はドーラに会いたい。

そう強く願うと同時に、胸に熱を感じた。

あの日ドーラがくれた温もりだ。

そのおかげで夢の中でも安心して目を閉じる事ができた。



もう一度ゆっくり目を開けるとベッドの上だった。

窓から外を見れば暗く、夜のまま。

寝てからあまり時間が経っていないのかもしれない。

ただ不自然に身体が重い。

その代わり、温かい。

布団をそっと捲ると深紅の目が暗闇から僕を捉えた。



「ドーラ」

「…ぬ、主の身体が冷たかったから…。

 …わしがお風呂上りで温かいうちに温めてあげようと思ったのじゃ…」

「そっか。ありがとう」

「…それより、ひどくうなされてたのじゃ。

 …怖い夢でも、見てたのじゃ…?」

「…夢…。…うん、怖い夢を見ていた気がする…」



夢の内容は覚えてなかった。

ただなんとなくドーラの温かさが僕を助けてくれたと、そんな気がした。




しばらくお互いに無言だった。

話さなくても気まずさは無くて、ドーラの体温が僕を安心させる。

ふと左手のすぐ近くに尻尾がある事に気が付いた。

最初は我慢していたけど、つい手を伸ばして触れてしまう。



「…くふふ…くすぐったいのじゃ…」



ドーラは怒らなかった。

でも触られたくなかったのか、すぐ逃げる。

今度は僕をおちょくるように尻尾から手に触れてきた。

ならばと今度は軽く掴もうとしたけど、するすると逃げられる。

それを何度も何度も繰り返す。

そしてドーラが小さな隙を見せた瞬間、やっと捕まえることに成功した。



「…捕まってしまったのじゃ…」



そう小さく呟き、ドーラは抵抗を止めて触らせてくれた。

弾力があり、思ったよりも柔らかい。

僕はこれが好きだ。



「…主はひどくうなされてて、驚いたのじゃ」



ドーラが布団に入った理由を教えてくれた。

ドーラが寝室に来たとき、僕はひどくうなされていた。

身体を揺すっても起きず、触れた部分は恐ろしく冷たかった。

このままでは死んでしまうと思ったドーラは、

自分の体温を使い、僕を温めてくれていた。



「…だから、身体で温めてあげたのじゃ。

 …仕方なくじゃぞ?」

「…多分、その温かさのおかげで助かったと思うんだ。

 …また助けてもらったんだね。ありがとう…」

「…本当にそうなら、布団に入って良かったのじゃ…」



ドーラは身体を起こし、僕の頭を撫でてくれた。

怖い夢を見た後、魔女がよくしてくれたらしい。

確かに心地が良く、再び眠気を感じる。

それがドーラにも伝わったようで、ベッドから降りる気配がした。



「…もう落ち着いたようじゃな?

 …ならわしは向こうのベッドで…」



そう口にするドーラの手を慌てて掴む。

ドーラは僕の手を振り払わず、ただ僕をじっと見る。



「…一緒に…居てくれないかな…」



離れたくない。この温かさを失いたくない。

そんな素直に気持ちを伝えたけど、ドーラは迷っている様子だった。

けれど、すぐ腕の力を抜いて再び僕の方に倒れこんできてくれた。



「…くふふ…主は甘えん坊じゃ…。

 …今日だけ特別じゃ」



一人で眠れないなんて子供のようだと笑われた。

少し恥ずかしかったけど、これを失わないで済むなら、

いくら笑われても構わないから一緒に居たいと思った。





またあっという間にオスは眠ってしまった。

予想通り身体は弱っているのかもしれない。

でも今度は寝息も穏やかで、そこまでの心配は必要なさそうだ。

しかし、手を掴まれた時は驚いた。

一緒に居て欲しいなんて言葉に頷くのもどうかしてる。

何か間違いが起こったら、自分はどうしていたのだろう。

魔女はよく簡単にオスと同衾すると後悔するぞと言っていた。

だから本当は拒むべきだった。

せめて今からでも抜け出した方がいい。

そう思う反面、今更離れるのも可哀想だとも思う。

とりあえず、このままで良い。



その後、しばらくはオスの様子を気にして起きていた。

うなされる事も無く、ずっと安定してるようだ。

それに襲われる心配ももう要らないだろう。

ならそろそろ自分も眠ろうか。

そうだ。せっかく一緒に寝るんだから逆に少し甘えても良いだろう。

抱き着くようにオスの肩に額を当て、深く息を吸い込む。

お風呂でも嗅いだ匂いで胸いっぱいになる。

このオスの匂いは本当に好ましい。

寝ているからきっとバレないはずだし、

助けたのだからこれくらいは許されるはずだ。

そんな言い訳を心の中で何度も呟いて、

匂いに包まれながら眠りにつく。


…。

 

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