尻尾の感触
またオスはあっという間に眠ってしまった
やっぱり弱っているのかもと心配になったけど、
寝息は穏やかだから多分大丈夫そうだ
しかし、手を掴まれた時は焦った
なおかつ、一緒に居て欲しいなんて
何か間違いがあったらどう責任を取ってくれるんだろう
本来なら拒むべきなのはわかっている
簡単にオスと寝てはいけないと
魔女はよく言っていた
でも、またうなされるかもしれないし、
一度良いと言った手前、抜け出すのも可哀そうだ
と、心の中で魔女に言い訳をしておいた
しばらくオスの容体を気にしていたけど
やはり安定しているようだ
そろそろ自分も眠ろうと体勢を整える
せっかくだから抱き着くようにオスの肩に額を当て、
深く息を吸い込むとオスの匂いが胸いっぱいに広がった
(…良い匂いじゃ…)
このオスの匂いは好ましい
寝てるのをいい事に何度も何度も嗅いだ
助けたんだから、これくらいは許されるはずだ
…。
翌朝は窓の外から何かが
羽ばたく音が聞こえて目が覚めた
多分、夜鳥が帰ってきたのかも知れない
気になって確認しようと思ったけれど
隣で眠るドーラを起こしたくなくて
もう一度、一緒に眠る事を選んだ
…が、なかなか寝付けない
でもドーラのおかげでぐっすり眠れたから
昨日と比べて明らかに体調が良かった
思い出せた事があるわけじゃないけど
頭の中もすっきりして
冴えているのが自分でもわかる
これからの事を考えてみた
いつまでもドーラを頼るわけにもいかない
彼女に迷惑は欠片も掛けたくない
でも、行く当てもない
なら森の邪魔にならない場所で
暮らし始めるのが一番いい
でも、何から始めればいいかわからない
なら、やっぱり何か思い出すまで此処に
いや、だけど、やっぱり迷惑に、と
いくら考えても堂々巡りだった
もぞもぞとドーラが動き始めた
「…寝てる間に尻尾を触るなんて…
…主は案外、やらしいのじゃ…」
「えっ?」
言われてみれば確かに触っている
いや、触っていると言うより掴んでいるようだ
しかも両手でしっかりと
これは無意識だったと言っても信じてくれ無さそうだ
慌てて手を離し、とにかく謝った
けど、意外にも怒っていないらしい
「…起きてる時なら…もっと強くても良いくらいじゃ…」
「…そうなの?
…でも、起こしちゃったみたいだから、ごめんね…」
「…くふふ…尻尾を気に入ってくれたら嬉しいのじゃ…
…なんなら、揉んでくれたら助かるんじゃけど…」
ドーラの尻尾は長いから地面に着かないように
いつも少しだけ力を入れているらしい
なので付け根や中腹、先端が凝っている
自分でもたまに揉むけれど
せっかく触るなら…とお願いしてきた
尻尾も揉んでいると
本当は一緒に寝てはいけなかったと教えてくれた
理由ははぐらかされたけど
魔女が約束だと言っていたらしい
確か、僕が引き留めた
「そうだったんだ
…ごめん、強引に引き留めちゃって…」
「教えてなかったから気にしなくてよいのじゃ
…今日は、一人で寝るんじゃぞ?」
それは今日も泊っていいと言ってるのも同然だ
これを機にどれくらい泊っていいか
聞いてみるのもいいかもしれない
でも思案してる最中にドーラが起き上がり、
タイミングを逃した僕は
此方からそれを聞く勇気が出なかった
広間に行くために階段を降りた
昨日に比べ、足取りもしっかりとしている
休憩なしで降りられたのもそうだけど
降りた後、苦しそうな素振りを見せない僕に
ドーラも安心したようだった
…。