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怖い夢

 料理を振舞ったのは初めてだった


魔女は料理を教えてくれたけど食べてくれなかった


そもそも食事が必要ないとか言っていたはずだ


だからオスが食べる時には緊張したものだ


朝、一心不乱に食べる様子は変わってると思ったけど


それがすごく嬉しかった


強いて言えば


あと少しだけでもパンが柔らければきっと完璧だった




 あのオスは何処から来たんだろう


丘の周辺にはなんの痕跡もなかった


拾った場所を見せても記憶が戻らなかったから


もう出来る事はなく、お手上げだ


でも記憶が戻ったら帰ってしまうんだろう


それは当然だ


オスにとっては良い事なんだろうけど、


その事を考えると胸の奥がすごく痛かった




 無意識に唇を触っていた


なるべく考えないようにしてたのに


一度意識してしまうともう駄目だ


さっき、枝を交換してあげた


最初は何も考えてなかったけど、


その時にオスの味を知ってしまったのだ


味に気が付いた時は心臓がうるさくて


動揺してるのがバレたらどうしようかと思った


オスが眠そうで本当に助かった




 思い出すだけでも鼓動が強くなった


水面が脈打つほどだったので抑える為にそっと触れる


「…心臓…」


胸を触った時、今朝の事を思い出した


階段を降りた後にオスも胸を押さえて苦しそうだった


とても嫌な予感がした




 もしかして弱っているのではないか


階段の出来事もそうだが、


枝を噛み潰せないのは


それだけ衰弱しているのかもしれない


それに、あれだけ昼寝をしたのにも関わらず


またすぐベッドで眠ってしまった


心当たりがあり過ぎて血の気が引いた


薄暗い部屋で見たオスの顔が魔女の最期の顔色と重なる


そう思った時には浴槽から立ち上がっていた


…。


 森で彷徨う夢を見た


夢の中の僕は小さい子供で


ただ漠然と歩いている


いくら歩いても景色は変わらないし


目指す場所もわからなかったけれど


じっとしているのが怖かった




 疲れ果て、ついに倒れてしまった


冷たい地面に横たわると瞼が重くなる


なんとなく、この感覚を知っている


「…ドーラに会いたいな…」


丘で倒れていた時とは番う


あの時、会いたい人の顔を思い出せなかった


でも、今はちゃんとドーラの顔が浮かんでくる


強く彼女に会いたいと願うと


身体が温かくなり、僕は目覚める事ができた




 目が覚めると実際に身体が温かった


不思議に思って布団をめくると


僅かな星明りでも美しく光る、


ドーラの深紅の瞳に見つめられた


「…怖い夢でも見てたのじゃ…?」


「…夢…?…夢だったんだ…」


夢の事を思い出すと身体が震えそうだった


でも傍にドーラが居るからすぐに安心できた



 

 左手のすぐ傍に尻尾の先端があった


最初は我慢してたけど


徐々に好奇心が抑えられなくなる


「…くふふ…くすぐったいのじゃ…」


軽く掴むとそう言ってすぐに逃げた


でもおちょくるように手をなぞりに戻り、


再び掴んでは逃げられ、まだ触れてくる


そんな遊びを数回繰り返した後、


指に絡めるように尻尾を握って


完全に捕まえる事が出来た




 僕はうなされながら泣いていたらしい


ドーラが寝室に着くと唸り声が聞こえ、


何事かと心配をさせてようだ


「揺すっても起きないから…

 …せめて、温めてあげようと思ったのじゃ」


「夢の途中で温かくなったんだ

 また、助けてくれたんだね」


「…何事も無くてよかったのじゃ…」


ドーラは身体を起こし、僕の頭を撫でてくれた


怖い夢を見て起きた後は


決まって魔女が頭を撫でてくれたらしい


「…落ち着いたようじゃな…

 なら、わしは向こうのベッドで…」


急に離れると思うと寂しくなり、


布団から出ようとするドーラの手を掴んでしまった




 僕の手を振り払おうとはせず、


ただじっと僕を見つめ、返事を待っている


「…このまま一緒に…居てほしいんだ…」


「…。」


素直に気持ちを伝えた


ドーラは迷っている様子だったけど


一度僕から離れようと浮かせた身体を降ろしてくれた


「…くふふ…主は思ったより甘えん坊じゃな…

 …今日だけ…特別じゃ…」


子供のようだと笑われてしまった


でも一緒に居られるならそれでも構わない


ドーラに触れていると温かくて心地が良い


これを手放さずに済んで、本当によかった


…。


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