↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/33

第8話 行商人

 翌朝。

 目を覚ました俺は、いつものように真っ先に【NISSIN】を確認した。


『生成可能商品:カップヌードル』


『本日の生成可能回数:16/16』


「……十六個」


 思わず呟く。

 昨日は十四個だった。

 それが今日は十六個。

 また二個増えている。

 最近は数字が増えること自体には慣れてきたが、それでも成長の速さには驚かされる。

 俺は机の引き出しから記録用の紙を取り出した。

 ――一個。約一週間。

 ――二個。四日。

 ――三個。二日。

 ――四個。二日。

 ――五個。二日。

 ――六個。二日。

 ――七個。二日。

 ――八個。一日。

 ――九個。一日。

 ――十個。一日。

 ――十二個。一日。

 ――十四個。一日。

 ――十六個。


「本当に増え方がおかしいな……」


 家族だけで食べていた頃とはまるで違う。

 近所へ配ったことで成長速度が上がり、商会で売り始めてからさらに加速した。

 今では毎日のように数字が増えている。

 もちろん悪いことではない。

 むしろ喜ぶべきことだ。

 だが、このまま増え続けたらどうなるのかは、正直なところ俺にも分からなかった。


「まあ、考えても仕方ないか」


 俺は立ち上がる。

 今やるべきことは一つ。

 たくさんの人に食べてもらうことだ。


 ◇◇◇


 朝食の席では、十六個になったことを家族へ報告した。


「十六個か」


 父が感心したように言う。


「二日前まで十二個だったのにね」


 母も驚いていた。

 アリアは数字よりも別のことが気になるらしい。


「今日は何個お店に持っていくの?」


「たぶん十個以上かな」


「そんなに?」


「今は売れてるみたいだから」


「すごい!」


 アリアは素直に目を輝かせた。

 その様子を見ていると少し嬉しくなる。

 最初は一個しかなかった。

 それを四人で分けていた。

 それが今では十六個。

 家族全員が好きなだけ食べても余るほどになっている。

 朝食を終えると、俺は納品用のカップヌードルを抱えて商会へ向かった。


 ◇◇◇


 村の道を歩いていると、途中で顔見知りの村人に呼び止められた。


「ああ、モフク」


「おはようございます」


「商会へ行くのか?」


「はい」


 村人の視線は俺の抱えている箱へ向いている。

 最近では隠す必要もなくなっていた。

 商会へ運んでいるのは村の誰もが知っている。


「あの麺、もう売り切れたらしいな」


「みたいですね」


「うちの息子がまた食べたいって騒いでるぞ」


 村人は苦笑していた。

 俺も思わず笑う。


「今日も持っていくので、たぶん大丈夫だと思います」


「それなら助かる」


 そんな会話をして別れる。

 少し進むと、今度は別の女性に声をかけられた。


「あらモフクちゃん」


「おはようございます」


「この前いただいた麺、おいしかったわ」


 どうやら近所へ配ったときの人らしい。


「ありがとうございます」


「うちの主人なんて、また食べたいって言ってるのよ」


 女性は笑いながらそう言った。

 村の中で少しずつ広がっているのが分かる。

 前世では当たり前のカップヌードルだが、この世界では珍しい食べ物だ。

 そう考えると不思議な気分だった。


 ◇◇◇


 商会へ到着すると、店の様子が以前とは少し変わっていた。

 客が多い。

 それも明らかに多い。

 朝だというのに数人の客が店内で何かを話している。


「もう入荷したか?」


「今日はあるんだろうな?」


 そんな声まで聞こえてきた。


「……人気だな」


 思わず呟く。

 店主も忙しそうに棚を整理していた。


「ああ、来たか!」


 俺に気付くと手を振った。


「今日の分だ」


 俺は抱えていたカップヌードルを渡す。

 店主は満足そうに頷いた。


「助かる」


 店の奥を見ると、カップヌードル専用の棚まで作られていた。

 ほんの数日前までは存在しなかったものだ。


「そこまで売れてるんですか?」


「予想以上にな」


 店主は笑った。


「昨日なんて開店してすぐ三個売れた」


「三個も?」


「しかも全員別の家だ」


 口コミが広がっているらしい。

 やはり実際に食べた人の評価は強い。


 ◇◇◇


「そうだ」


 店主が思い出したように言った。


「紹介したい奴がいる」


 奥から一人の男が出てきた。

 日に焼けた肌。

 丈夫そうな革の服。

 大きな荷物袋。

 前回も見た行商人だ。


「ダンだ」


「モフクです」


「よろしくな」


 ダンは気さくそうに笑った。


「話は聞いてるぞ」


 そう言ってカップヌードルを手に取る。


「これ、本当に面白い商品だな」


「そうですか?」


「保存できる食料ってだけでも価値がある」


 なるほど。

 俺はそこまで考えていなかった。

 前世ではコンビニで買う普通の商品だったからだ。


「旅をしてると食事に困ることがあるんだ」


 ダンは続ける。


「干し肉ばかりじゃ飽きるしな」


「確かに」


「その点、これはお湯だけで食える」


 ダンは感心したように頷いた。


「旅人や行商人には需要があると思う」


 そして少し声を潜める。


「実はな」


「はい」


「隣村へ持っていった分、全部売れた」


「全部?」


 思わず聞き返した。


「全部だ」


 ダンは笑った。


「最初は誰も信じなかったがな」


 それはそうだろう。

 容器に入った麺料理など存在しないのだから。


「だが食べた奴が次の日に友人を連れてきた」


 どこも同じ反応らしい。

 村でもそうだった。

 一人が食べる。

 気に入る。

 周囲へ話す。

 そして広がる。


「だから次はもう少し持っていきたい」


 ダンは真面目な顔で言った。


「できるか?」


 俺は少し考えた。

 十六個。

 家族分を引いても余裕はある。


「大丈夫です」


「助かる」


 ダンは本当に嬉しそうだった。


 ◇◇◇


 話が終わると、店主が小さな袋を差し出した。


「これを忘れるところだった」


「?」


 受け取ると中から金属音がした。

 袋を開く。

 中には銅貨が入っていた。


「売上だ」


「あ……」


 そうか。

 売れたのだから当然お金になる。

 近所へ配ったときにはなかった感覚だった。

 俺は銅貨を見つめる。

 前世ならカップヌードルは当たり前の商品だった。

 だが、この世界では違う。

 それが実際にお金になっている。

 不思議な気持ちだった。


「少ないがな」


 店主が言う。


「まだ試験販売みたいなものだ」


「いえ」


 俺は首を振った。


「十分です」


 これは俺が初めて得た商売の利益だった。


 ◇◇◇


 家へ帰ると、アリアが真っ先に飛びついてきた。


「どうだった?」


「売れてたよ」


「すごい!」


 さらに銅貨を見せると目を丸くした。


「お金だ!」


「売上だな」


 父も感心したように言う。

 母も笑顔だった。


「本当に商売になってるのね」


 夕食の席では自然とその話題になった。

 隣村でも売れたこと。

 行商人がもっと欲しがっていること。

 商会の店主が驚いていたこと。

 家族はみんな嬉しそうに話を聞いてくれた。


 ◇◇◇


 その夜。

 ベッドへ入った俺は、天井を見上げていた。

 商会。行商人。隣村。

 少し前まで想像もしなかった話だ。

 それでも確実に広がっている。

 村の外へ。

 もっと遠くへ。

 そして、その分だけ【NISSIN】も成長している。

 俺は自然と笑みを浮かべた。

 明日は何個になるだろう。

 そんなことを考えながら眠りにつく。

 そして翌朝。

 目を覚ました俺は、いつものように【NISSIN】を確認した。


『生成可能商品:カップヌードル』


『本日の生成可能回数:19/19』


「……十九個」


 昨日は十六個。

 それが今日は十九個になっていた。

 また増えている。

 しかも今度は三個だ。

 どうやら村の外で食べられた分まで、しっかり成長に反映されているらしい。

 これからの成長がさらに楽しみになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。